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綾瀬はるかが結婚に感じる“メリット”とは? 『義母と娘のブルース』が示した、人と向き合う勇気

リアルサウンド

18/7/11(水) 12:30

「伝わりにくいかもしれませんが、 私は私なりの大きなメリットを感じて、 この結婚に取り組んでいるんです」

 ついに、火曜ドラマ『義母と娘のブルース』(TBS系)がスタートした。主演・綾瀬はるか×脚本・森下佳子とくれば、『世界の中心で、愛をさけぶ』『白夜行』『MR.BRAIN』『JIN−仁−』(全てTBS系)など、数々のヒットドラマを生み出してきた黄金タッグ。女優の魅力を知り尽くした脚本家と、その意図を余すことなく表現する女優が手がける最新作に自ずと期待が高まる。

 綾瀬が演じるのは、仕事はできるが、それ以外はちょっとズレてるキャリアウーマンの亜希子。竹野内豊扮する宮本良一と結婚することになったものの、8歳の娘・みゆき(横溝菜帆)との関係を築くのに大苦戦。初対面で名刺を突き出し、手渡した封筒の中身は手紙ではなく履歴書。口を開けばビジネス用語を連発。困惑したみゆきは、思わず「この人、やだ」と反発してしまう。どうにか距離を縮めたいと、吊り橋効果を狙ってアスレチックに挑むも、結果は散々。感情が表情に出ない亜希子だが、良一との結婚、そしてみゆきの母親になろうとしているのには大きな理由があって……。

 原作は、桜沢鈴によるコメディ漫画。テンポよく描かれる4コマを、連続ドラマ化するには大きな流れを作り出す必要がある。亜希子がガラケーを使っているところを見ると、ここから10年間の物語が幕を開けたのだろう。まずは、みゆきの心をつかもうと、いじめ解決というソリューションを試みた亜希子。ようやく母親候補として認められたのだが、嬉しさのあまり感謝の腹芸を披露したことで、「こんな人、知らない」とまたもや振り出しに戻ってしまうのだった。

 亜希子は、とにかく一生懸命になるほど不器用だ。ひとつのことに集中するあまり、表情も乏しい。だが、ビジネスの場ではむしろ感情よりも理論が大切になる。PLAN、DO、CHECK、ACTIONと、ビジネスのセオリーであるPDCAサイクルをフル回転し、難しい交渉も次々と解決していく。それはビジネスシーンは、ある意味で戦いの場だからだ。

 「山林、険阻、沮沢の形を知らざる者は、軍を行ること能わず」 と孫子の言葉がすぐに出てくる亜希子は、あらゆる戦術を学んできたのだろう。胸元に社長のハンカチをひそませ「温めておきました」とは、豊臣秀吉が織田信長の草履を温めたエピソードを彷彿とさせる。亜希子が“戦国部長”の異名を持つのは、そうした偉人たちが見出してきた戦術を踏襲し、ビジネスという現代の戦場で戦ってきたからだ。そんな亜希子からみたら、理論より感情で動く子どもは未知の対戦相手。亜希子は児童心理学をリサーチを始める。が、義母にとって娘は掌握する相手ではない。

 そこに気づけない亜希子に、 第1ラウンドはみゆきの方から歩み寄った。 履歴書の意味を良一に聞き、「採用通知」という書面を作る。 ビジネスしか知らない亜希子のルールを汲み取って、コミュニケーションを図ろうとしたのだ。実の母親の死から3年。まだその悲しみを乗り越えられていないにも関らず、 それでも自分を愛そうとしてくれる亜希子と向き合ってみたい。そんな風に考えられたのは、みゆきが戦術などではなく、純粋な心の動きに素直に従ったからだろう。だが、そんなみゆきの歩み寄りを、亜希子は“接待では腹芸が喜ばれる”という、またもや自分内ルールに沿って動いたのだから、当然みゆきの心は閉ざされてしまう。

 付き合いには、自分と相手が心地よく過ごすためのルール作りが必要だ。戦術や人心掌握術を駆使して意のままに動かそうとすれば、きっと真の信頼関係は築けない。ましてや、ふたりは義理の母娘になろうとしているのだから。血の繋がらない家族だからこそ、お互いの異なる“普通”を一つひとつ受け止め、新しいルールを確認し合う必要がある。それは、この義母と娘だけではない。多様な個性が認められつつある現代においては、実の親子でも、恋人でも、友人でも、そして今や職場でも。既存のルールに則るだけではなく、新たに作り上げていく必要があるのかもしれない。ここから10年かけて築き上げられる母娘の絆。 その行方を見守ることで、 不器用ながら人と向き合う勇気に触れられることだろう。(文=佐藤結衣)

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