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『ブラックパンサー』や『クリード 炎の宿敵』が大ヒット ブラックムービーに今何が起きている?

リアルサウンド

19/1/3(木) 10:00

 2018年2月16日、全米各地でマーベル・スタジオのスーパーヒーロー映画『ブラックパンサー』(2018年)が封切られ、アメリカでは記録的な映画興行成績を収めた。その結果、現段階では興収7億ドルを突破し、北米歴代映画興行成績3位という驚異的な記録となった。この『ブラックパンサー』という作品は、ワカンダというアフリカにあるとされている架空の国が舞台で、ワカンダの……つまりアフリカの国王となる若き王子のティ・チャラが、ワカンダで採れるヴィブラニウムという鉱石のパワーにより、超人な能力を手に入れ、“ブラックパンサー”としてワカンダを守るスーパーヒーローの物語だ。そのような作品を完成させたのは、ライアン・クーグラーというまだ若干31歳(公開当時)の若手映画監督であり、そして彼はアフリカ系アメリカ人(アメリカ黒人)である。

参考:菊地成孔の『ブラックパンサー』評:本作の持つ逸脱的な「異様さ」、そのパワーの源が、もしトラウマであり、タブーなのだとしたら

 ハリウッドでは、黒人が主役で黒人が監督の映画は大ヒットは生まれない……と、言われていた。実際に、大ヒットの指標となる全米興行成績1億ドルを2000年公開以前に突破した黒人監督は、『スター・クレイジー』(1980年)のシドニー・ポワチエだけである。興行成績だけでなく、『ブラックパンサー』という作品は、現在徐々にノミネートや受賞作品が発表されているゴールデングローブ賞などの威厳のある賞レースでも続々とノミネートや受賞を達成し、破竹の勢いである。そして『ブラックパンサー』が同じ作品賞で争っているのが、スパイク・リー監督の最新作『ブラック・クランズマン』(2018年)、そしてバリー・ジェンキンス監督の『ビール・ストリートの恋人たち』(2018年)という、これまた黒人監督による黒人が主役の、いわゆる「ブラックムービー」と呼ばれる作品たちだ。どうして、今、「ブラックムービー」が活躍し、そして大ヒットを続けているのか、探ってみよう。

 先述した全米興行成績1億ドルを稼いだ黒人監督だが、2000年以降に増え続け、現在2018年12月の段階で20作品がその大きな壁を乗り越えている。その壁をまず超えたのが、人気ホラー『スクリーム』(1996年)や『ラストサマー』(1997年)のパロディ映画『最終絶叫計画』(2000年)のキーネン・アイヴォリー・ウェイアンズである。しかしご存じの通り、シンディ(アンナ・ファリス)という白人女性が主役である。その後は、『S.W.A.T.』(2003年)のクラーク・ジョンソン、『ワイルド・スピードX2』(2003年)のジョン・シングルトンなどが続く。それらは、もともと人気のTVシリーズの映画化やシリーズ映画などであった。

 この状況を変えたのは、『大統領の執事の涙』(2013年)のリー・ダニエルズである。その作品より先の『プレシャス』(2009年)にてアカデミー賞の作品賞にノミネートされ、監督・製作者としてダニエルズは一躍注目を集めていた。フォレスト・ウィテカーが演じる、ホワイトハウスで歴代の大統領を支える執事と、その家族の人生から垣間見られるアメリカの栄光と影を映し出したのが『大統領の執事の涙』である。2000年前だったら、興行成績1億ドルを突破するのは確実に難しい作品であり、それ以前に製作のゴーサインすら出にくい映画であった。ブラックムービーの宿命とも思われるそのヒットに恵まれない状況や、製作されないという問題を打ち砕いたのは、やはり『プレシャス』というダニエルズ監督の前作がアカデミー賞をはじめとする賞レースで結果を出したからなのだ。『プレシャス』という作品は、2009年の1月にサンダンス映画祭で上映され、大賞と観客賞のW受賞を果たし、そこから破竹の勢いで、さまざまな賞レースで勝ち続け、限定公開に結びつき、そしてやっと一般公開され、アカデミー賞の作品賞ノミネートまでこぎ着けた。それを受け、日本でも2010年の4月から公開されている。このパターンが近代のブラックムービーで一番成功できるパターンになったのだ。

 例えば『ブラックパンサー』のライアン・クーグラー監督のデビュー作『フルートベール駅で』(2013年)もサンダンス映画祭で大賞と観客賞のW受賞を果たし、その後に多くの賞を受賞した。アカデミー賞まではたどり着けなかったが、ライアン・クーグラー監督の名前は一躍広まり、信頼を勝ち得た。その結果、続く『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)が製作され、ロッキー役のシルヴェスター・スタローンが『ロッキー』(1976年)から39年ぶりにアカデミー賞にノミネートされる快挙を成し遂げ、全米興行成績にて1億ドル突破を達成したのだった。そして『フルートベール駅で』や『クリード チャンプを継ぐ男』の賞レースと興行成績での成功が、『ブラックパンサー』という作品にライアン・クーグラー監督を結び付け、そして日本ではこれから公開予定の『クリード 炎の宿敵』(2018年)という作品が生まれた。続編となる『クリード 炎の宿敵』は、監督がスティーヴン・ケープル・Jr.という新進監督に変わったが、アメリカの興行成績では早々と1億ドルを達成させている。

 そして、一番成功した例が『ムーンライト』(2016年)だろう。トロント国際映画祭にて上映された時の評判が瞬く間に広まっていった。アメリカでは限定公開からワイド公開に切り替わり、そしてアカデミー賞にノミネートされ、見事アフリカ系アメリカ人監督として初の作品賞を受賞した。そのバリー・ジェンキンス監督が次の作品に選んだのが、アメリカの文豪ジェームズ・ボールドウィンの『ビール・ストリートに口あらば』が原作の『ビール・ストリートの恋人たち』。こちらも既に発表されているゴールデングローブ賞ではドラマ部門作品賞で『ブラックパンサー』とともにノミネートされている。そしてもう1作品忘れてはならないのが、『ブラック・クランズマン』だ。こちらは必要とならば相手を殺すこともある過激白人至上主義軍団クー・クラックス・クラン(KKK)に、黒人刑事が侵入捜査してしまったという信じられない事実を映画化した作品で、『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)や『マルコムX』(1992年)などで一世を風靡したスパイク・リーが、久々に映画界に話題を振りまいている作品である。こちらもゴールデングローブ賞のドラマ部門作品賞にノミネートされ、ノミネートされた5作品のうち3作品が黒人監督による作品という、今までには絶対になかった状況となっている。さらには、『それでも夜は明ける』(2013年)でアカデミー賞作品賞を獲得したスティーヴ・マックイーン監督の最新作『妻たちの落とし前』(2018年)も多くの賞でノミネートされており、早々と4月からの日本公開が決まっている。

 このように賞レースで結果を出した監督ばかりでなく、『アンクル・ドリュー』(2018年)のようなコメディ作品も日本上陸を成功させた。『ドラムライン』(2002年)のチャールズ・ストーン3世監督作で、NBAのスーパースターであるカイリー・アービングが主演。アービングが出演した人気CMシリーズのキャラクターを映画化し、往年のNBAスターも出演させた。このようなコメディ作品が日本で劇場公開される機会はあまりなかったことで、以前はあってビデオスルーであった。そして、黒人監督ではないが(ジャスティン・ティッピングというライアン・クーグラー監督の同郷の知人)『キックス』(2016年)という『ムーンライト』で助演男優賞に輝いたマハーシャラ・アリが出演のインディペンデント映画が、アメリカ公開から2年の時を要したが、今年に入って日本で公開された。

 ただ注意したいのが、賞レースや興行成績の成功はアメリカ本土のことで、日本では未だ少しギャップが生じている。アメリカでは歴史的記録となった『ブラックパンサー』ですら日本では初登場2位で、1位を獲得していない。そしてエヴァ・デュヴァネイ監督の『A Wrinkle in Time』(2018年/日本未公開)などはアメリカで興行成績1億ドルを突破しているが、未だ日本での公開は未定だ。しかしながら、アメリカのハリウッドにかつてあった黒人の作り手に対して抱いていた風説を近年少しずつ崩しているように、日本でのブラックムービーのヒットも時間の問題だと感じている。何しろ、2019年は年明けからブラックムービーの日本公開がめじろ押しで希望が見えるのだから。(杏レラト)

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