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宮本浩次、ソロアルバム『宮本、独歩。』が絶好調 自由な音楽性に込められた驚きと感動の根元を紐解く

リアルサウンド

20/3/10(火) 12:00

 3月4日にリリースされた宮本浩次初のソロアルバム『宮本、独歩。』が好調だ。iTunes総合ランキングやBillboard Japanのダウンロード・チャートで初登場1位を獲得。アルバムから先行して公開された「ハレルヤ」のMVはYouTubeで100万回再生を超え、さらに伸び続けている。また、自身のInstagramのストーリーで3月3日から毎日配信している、アルバムから1曲をピックアップしたダイジェスト動画も好評で、アルバムの売上枚数自体もかなり快調な推移を見せているようだ。

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 雑誌やWebの音楽メディアに限らず、TVのワイドショーや情報番組でもピックアップされ、世間の注目度もきわめて高い――というこの状況に快哉を叫んでいるファンも多いはずだし、何より本人が手応えを感じているはずだ。エレファントカシマシとしてシーンに登場してから30年以上を経てのソロデビューは大きな驚きと感動をもって迎えられている。

 では何が「驚き」で、我々は彼のソロプロジェクトのどこに「感動」しているのか。それを考えるために、まずはアルバムを紐解いてみよう。

 全12曲からなる『宮本、独歩。』は、前述のリード曲「ハレルヤ」から始まる。かき鳴らされるエレキギターのコードに乗せて〈行こうぜ baby まだ間に合うさそんな hot place〉と歌い起こされるこの曲には、〈やっぱ目指すしかねぇな baby この先にある世界〉今だからこそ追いかけられる夢もあるのさ〉〈そんな俺にもう一丁祝福あれ ハレルヤ〉とエネルギッシュな肯定の言葉が書き連ねられている。華やかなホーンの音色に彩られたメロディも開放的で、まるでアルバムの幕開けを自ら祝福しているようだ。

 この無条件の肯定性、メッセージ的にも音楽性の面でも、どこかタガが外れたような自由で縦横無尽な気分こそが、『宮本、独歩。』の真髄であると強く思う。それを証明するように、続いて2曲目に登場するのが、他アーティストとのコラボレーションを除く「初のソロ曲」として2019年2月に配信リリースされた「冬の花」だ。小林武史のプロデュースのもと作られたこの曲は、まさかの歌謡曲、というか世界観としてはほぼ演歌である。初めてこの楽曲に触れた時は心底驚いたものだが、このアルバムの「驚き」はそれだけではない。ディスコテイストの「きみに会いたい -Dance with you-」やハードロックなイントロから痛快なファンクへと展開する「Fight! Fight! Fight!」。単発でシングル(配信)リリースされている時点からそうだったが、「えっ、それもやるの?」という瞬間の連続なのだ。だから、このアルバムを聴いているとリスナーは「見たことのない宮本浩次」に次から次へと出会うという体験をし、驚き続けることになる。

 とりわけ、椎名林檎とデュエットして『NHK紅白歌合戦』でも歌唱した「獣ゆく細道」、東京スカパラダイスオーケストラの楽曲に参加して生まれた「明日以外すべて燃やせ」、横山健とタッグを組んでパワーコードの上でがなり立てる「Do you remember?」といったコラボレーション曲を通して、宮本は自分に出せないものを楽曲にプラスすると同時に、意外な相手とのマッチングによって自分自身ですら知らなかった自分を引き出してもらう、という挑戦を続けてきた。椎名とのデュエットで見せる妖艶さ、スカパラの楽曲で発揮されるロックンロールヒーローっぷり、そして横山と音を鳴らすことで溢れ出た瑞々しい青春性。そのどれもが宮本浩次という人の自画像だ。一見バラバラに見える自画像が重なり、ひとつの人生として立体化される――このアルバムを聴き終えた時に訪れるのはそうした感覚である。

 インタビューなどで語られているように、宮本の中ではソロの「原点」はNHK東京児童合唱団に所属していた10歳の時にレコードリリースし、『みんなのうた』で放送された「はじめての僕デス」であると位置づけられている。そして、シンガーという意味ではずっと「ソロ」であり続けてきたとも、彼は語っている。その意味では、この一見「遅咲き」に見えるソロキャリアは、実に40年以上も続いてきたことになる。誤解を恐れずにいえば、エレカシですらその「一端」にすぎない。『宮本、独歩。』はそれを証明する――つまり宮本浩次の53年にわたる人生を総括して未来に推し進めるようなアルバムなのだ。

 このアルバムにも、これまで宮本がエレファントカシマシの曲で何度も歌ってきた「旅」というワードやモチーフが幾度も登場する。だが、その「旅」は悲壮感や固い決意に根ざしたものではもはやない。「ハレルヤ」で〈行こうぜ baby〉という号令とともに始まった「旅」は、〈わたしはそう dreamer 明日の旅人さ〉(「夜明けのうた」)、〈こんにちは 今日よ〉(「Do you remember?」)と軽やかに引き継がれ、〈夢追いかけよう〉と改めて宣言する「旅に出ようぜbaby」と〈昇る太陽 道を照らせ 輝く明日へ 心導いてくれ〉と願う「昇る太陽」へと帰結する。太陽が昇るような自然さと力強さをもって、宮本は明日を見つめている。

 「真の発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。新しい目で見ることなのだ」。『失われた時を求めて』のマルセル・プルーストの言葉だが、まさに『宮本、独歩。』は「新しい目」で見つめた宮本浩次というひとりの男の人生だ。そこには「真の発見」がある。ひとりの歌い手として、あるいは詩人として、ソロアーティスト宮本浩次はこの世界を肯定し、生きることを肯定し、未来を肯定する。エレファントカシマシとして駆け抜けてきたジェットコースターのようなロックンロール・ストーリーとは全く別の、というよりそれすら内包してしまう人生観と未来観。そこに我々は、普遍的な感動を覚えるのだ。(小川智宏)

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