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ヨアキム・トリアー監督が明かす、『テルマ』でホラーに挑戦した理由 「自分の殻を打ち破りたかった」

リアルサウンド

18/10/19(金) 10:00

 『母の残像』のヨアキム・トリアー監督最新作『テルマ』が10月20日より公開される。第90回アカデミー賞&第75回ゴールデングローブ賞外国語映画賞ノルウェー代表作品にも選ばれた本作は、ノルウェーのオスロを舞台に、大学生のテルマが同級生のアンニャに惹かれていったことをきっかけに、不気味な自然現象が起きるようになり、やがて思いもよらなかった結末にたどり着く模様を描いた北欧ホラーだ。

参考:少女がプールで怪奇現象に見舞われる ヨアキム・トリアー『テルマ』本編映像

 今回リアルサウンド映画部では、メガホンを取ったヨアキム・トリアー監督にインタビューを行い、本作を撮ることになった背景から、ホラー映画のブームについての見解や前作でハリウッドデビューしてから今回またノルウェーに戻って製作した理由まで話を聞いた。

ーーあなたがこれまでに撮ってきた『リプライズ』『オスロ、8月31日』『母の残像』は、人間ドラマ/青春映画的な側面が強かったので、今回ホラーに挑戦したのは意外でした。新たなジャンルに挑もうという意識は最初からあったんでしょうか?

ヨアキム・トリアー(以下、トリアー):この作品は、まさに最初からそういう意図で作ろうとしたんだ。これまで僕が撮ってきた3作品はヒューマンでクラシカルなタイプのもので、“ヨアキム・トリアー=上品な作品を撮る監督”というイメージがついてしまうようになった。そういう反応を肌で感じて、僕自身もどこかでこれまでの自分の殻を打ち破りたい、そういったイメージから解き放たれたいと思っていたから、違うジャンルにチャレンジしたいという気持ちが強かったんだ。実際に作品を作ってみたら、主人公のテルマも僕と同じようになっていたけどね(笑)。今までの作品ではナチュラリズムや美徳を意識していたんだけど、今回はそういうことに縛られることもなく作ることができたね。

ーーこれまでの作品とは異なる部分があったということですね。

トリアー:その通りだね。共同脚本のエスキル・フォクトと共に、想像力から自然発生的に生まれてくる画を想起しながら、自由に組み合わせて作っていく今回の作業はとても楽しかったよ。実は今回、画コンテ作家と話し合いながら、脚本として言葉にする前にまず先に画コンテを描いていったんだ。だから本当にビジュアル先行型の作品だと言えるね。

ーーエスキル・フォクトとはこれまでの作品でもコラボレーションをしていますよね。彼との作業は具体的にどのようなものなのでしょう?

トリアー:僕の映画において、エスキルは本当に重要な人物。彼とは10代からの付き合いで、それこそ映画や本などについて語り合う友達でもあるし、映画に対する好奇心を分かち合える関係性があるんだ。作業としては、作品を作ろうとなったとき、会わなかった期間にお互いがどういうことに興味を持ったかをまず話し合うんだ。6か月間ぐらいそういう時期があって、いくつか作品になりそうなアイデアが出てきたら、僕は監督としてどれが一番ワクワクできるかを考えて、企画を選ぶ。だいたい彼がそれに同意してくれて、そこからどういうシーンをどう作るか、どういう構造にするかなどを2人で話し合っていくという流れだね。実際に執筆する作業は全てエスキルがやっているよ。

ーー今回の『テルマ』からはブライアン・デ・パルマの『キャリー』を中心に、様々な作品からの影響を感じました。

トリアー:違うジャンルに挑戦したかったとはいえ、僕は何を撮るにしても“パーソナル”でないとダメなんだ。テーマや画、キャラクターなど、何か自分と繋がりがないといけない。それと同時に、僕自身がヒッチコックやデ・パルマ、今敏などのファンタジックな日本のアニメから大きな影響を受けているから、そういった要素が自然と作品の中に出てくる部分はあると思う。今回は新しいスタイルを試してみようというところからスタートしたんだけど、作業を進めれば進めるほど、自分が今まで描いてきた実存主義的な“個”の問いかけや、家族の関係に立ち戻ってしまうところがあったかもしれないね。とはいっても、全く新しい視点でホラー映画を作ることができたと思っているよ。

ーー確かに今回の『テルマ』を含め、あなたの作品には「孤独や生きづらさを抱えた人間が主人公で、家族を中心とする他者との関係性が描かれる」という共通性がありますよね。『テルマ』に関しては意図せず結果的にそうなったと?

トリアー:最初は本当にストレートなB級ホラーを作りたかったんだけど、脚本の開発段階や役者と一緒に作業をしていく中で、これは信憑性のあるキャラクターで人間の心理を描かないと成立しないと実感したんだ。例えば、テルマの父親であるトロンをB級映画的なただの悪い人間にしてしまったら、作品の面白さが半減してしまう。娘に対する愛情がベースにある上で間違った行動をしてしまうわけで、だからこそ人間的でより怖い存在になる。ただのモンスターであれば全く共感できない存在で終わってしまうからね。僕の「ストレートなB級ホラーを作りたい」という当初の目的が失敗したことが、観客に「何か違ったホラー映画だな」と感じてもらえることに繋がってくれればいいなと思うよ。

ーー近年、ハリウッドを中心にホラー人気が再燃しているように思いますが、この流れにはどのような見解を持っていますか?

トリアー:確かに今、ホラー映画は大ブームになっているよね。特にレトロホラーがブームになっているような気がする。正直、僕はこの作品がそのブームの中の1作品だと思われてしまうことには不安があったんだ。いい作品ももちろんあるけれど、そうでない作品もたくさんあるからね(笑)。ただ、レトロスタイルのホラー映画はものすごく“映画的”なんだ。映画はホラーというジャンルにおいて、舞台や文学では決して表現できないような表現方法ができる。それはビジュアルコンセプトがベースになっているところが大きいという部分にも繋がるし、こういう作品がもっと増えてもいいんじゃないかとも思っているよ。

ーーちなみに前作『母の残像』はあなたにとってハリウッド進出作になったわけですが、今回またノルウェーに戻って作品を撮ったことには何か理由があるのでしょうか?

トリアー:もともと今回のアイデアは、アメリカにはたくさんあるスーパーナチュラル系の作品を、全くそういった作品がないノルウェーで作ってみたいという思いから始まっている部分もあるんだ。森林、氷、雪、建築、オペラハウスなど、作品における重要な要素をどこでどう撮るべきか、ノルウェーであれば自分の中にもたくさん知識があったし、ノルウェーのおとぎ話をうまく折り込みながら、遊びの気持ちを持って、ノルウェーの観客にとっても新しいと思ってもらえる作品にしたかった。完全なクリエイティブ・コントロールを自分が持ちたかったのもあるけどね(笑)。とはいえ、今後またハリウッドで撮る可能性だってもちろんあるよ。物語が必要としている場所に行くだけだから、日本で撮ることもあるかもしれないね。(取材・文=宮川翔)

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