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『幸福路のチー』監督が語る、日本アニメーションから得たもの 「今敏監督の影響は大きい」

リアルサウンド

19/11/28(木) 8:00

  台湾発のアニメーション映画『幸福路のチー』が、11月29日より公開となる。

参考:『ロング・ウェイ・ノース』『ディリリとパリの時間旅行』……EU圏アニメーションの特徴とは?

 台北郊外に実在する「幸福路」を舞台に、主人公チーの半生を追う本作。無邪気な少女時代から学生時代、友人との別れや新しい出会いなどが、⺠主化へと向かう現代台湾の大きなうねりとともに描かれる。日本では、「東京アニメアワードフェスティバル2018」にて上映されグランプリを獲得。以降、世界各地の様々な映画祭で喝采を受け、今回日本に凱旋公開となる。

 本作の監督を務めたソン・シンインに、半自伝的な物語となった本作の制作の背景や、台湾におけるアニメーションの環境など幅広く語ってもらった。

■「日本のアニメーションに育てられた」
ーー「東京アニメアワードフェスティバル2018」で日本初公開され、その後も各国の映画祭で大きな反響を受け、ついに日本で劇場公開される運びとなりました。これまでの上映活動を振り返り、日本公開に臨む気持ちを教えてください。

ソン・シンイン:今回、日本に留学していた時の思い出を綴ったエッセイ『いつもひとりだった、京都での日々』(早川書房)も出版されたくらい、日本は私にとっては第二の故郷といえる場所なんです。私は日本の文化の影響をとても大きく受けているので、日本の観客の方にどのように見ていただけるのか期待を抱いています。

ーー日本映画のような雰囲気もあって、特に日本のアニメーションを彷彿とさせるような映画だと感じました。

ソン・シンイン:私はアメリカの映画学科で実写映画を勉強していたので、もともとこの作品は実写映画で作ろうと思っていたんです。でも台湾では、実写映画にするのが難しくて、ある先輩に「このストーリーはアニメーションにしたらもっと面白いかもしれない」と勧められ、12分の短編を作ってみました。その短編の反響が良かったので、長編として挑戦してみたいと思い、制作に至ったんです。

 私自身は、日本のアニメーションに育てられた人間とも言えます。劇中にも登場した『ガッチャマン』や、『ドラえもん』『ちびまる子ちゃん』など、ものすごくたくさんの日本のアニメから影響を受けているんです。でも、本当に大きな影響を受けた人を挙げるのは難しくて。見た方から「高畑勲さんっぽい」とも言われたんですけど、作っているときは彼の作品を思い出しませんでした。

 この作品では、現実と過去が入り混じり、さらに主人公チーの空想パートに入っていきます。そういう部分からすると、今敏監督の影響は大きいと思います。彼の作品は編集が独特で、時間をいじる手法もすごいなと思って、参考にしました。

ーー今監督を意識されたというのは意外でした。

ソン・シンイン:ビジュアルは全然似ていませんけどね(笑)。でも編集力とストーリーの語り方は影響されたかもしれません。

■「ウェイ・ダーション監督にも、最初はやはり断られた」
ーー台湾のアニメーションの制作環境はどういったものなのでしょうか。

ソン・シンイン:台湾ではアニメーション映画は年に1本くらい公開されているんです。ただあまり話題にはならないので、最初アニメーションにしようと決めたときは周りには反対されました。成功したケースがないですから。

 台湾のアニメスタジオは、基本的に外国からの下請けで成り立っているんです。だから、オリジナルの台湾独特の作品を作る機会がなく、経験者もほとんどいません。制作を始めた時に、私が何を語りたいのか理解できるアニメーターがなかなか見つかりませんでした。絵を描くのが上手なアニメーターは多いのですが、私のストーリーを理解してくれる人は少なく、みなさん絵で交流して、言葉で表現するのが苦手な方が多くて困りました。

ーーそれはオリジナルを作る経験がないからこそ悩みですね。

ソン・シンイン:最初は下請けのスタジオで仕事をしていた40代のアニメーターを雇い、ストーリーボードやキャラクターデザイン、美術をやってもらったんですけど、どうしても私のストーリーを理解できなくて。例えば、チーがお父さんに弁当を持っていくシーンで、なぜチーが弁当を持っていくのかがわからなかったようです。お父さんへの愛情と葛藤を表現したシーンですが、どれだけ説明しても理解してもらえず、結局チームは一度解散になりました。そのあと学校を卒業したばかりの新人のアニメーターを雇ったんです。彼らは仕事をしたことがないので、管理は大変ですけど、私のストーリーを理解してくれる柔軟な思考を持っていました。

 そして私と若いアニメーターの間に、さらに2人のアニメーター監督も雇いました。彼らは長編を作ったことはありませんが、素晴らしい短編を手がけた経験があったので、私の指示を聞き、アニメーターたちにその指示を伝えるという役割を担ってもらいました。

ーー台湾の映画監督のウェイ・ダーションさんが声優として出演されていますが、キャスティングはどのように行ったのですか?

ソン・シンイン:ウェイ・ダーション監督をキャスティングする前に、たくさんの人に当たってもらったんです。でもどの方もなかなかピンとこなくて。そこで、プロデューサーが、以前ウェイ・ダーション監督と仕事をしたことがあるとのことで、声優にどうだろうかと提案してくれました。ウェイ・ダーション監督が話す台湾語はとても優雅で、かつ説得力のあるような口調でした。そういう話ぶりが従兄弟のウェン役にぴったりだと思いました。

 でもウェイ・ダーション監督にも、最初はやはり断られたんです(笑)。脚本も読む暇もないくらいで多忙で、それでも粘ってオファーを続けていました。実はウェイ・ダーション監督とは、彼が『海角七号』でブレイクする前から知り合いだったんです。彼が短編作品を撮っていた時、私はジャーナリストで何度も取材してその作品を取り上げたんです。それで、「あなたのこと以前助けましたよね? 今回ぜひ私の作品でお願いできませんか?」という風に思い出させて、やっとOKをもらったんです(笑)。

■「監督は大きなビジョンを持たなければ」
ーー監督ご自身も実写の短編からキャリアをスタートさせて、次回作も実写作品ですが、実写とアニメーションをそれぞれ撮る上で、心がけや意識の違いなど感じましたか?

ソン・シンイン:違いはないと思っています。アニメーションであれ実写であれ、監督としてなすべきことは、自分が一体どういうものを目指しているのか、何を伝えたいのかを一緒に働いてくれるスタッフの人たちに伝えることができるかどうかです。アニメーションの方が難しいと思っているのは、実写映画のように現場の即興で生まれるものがないという点です。アニメに即興はないので、最初から計画的に作り上げていかなければいけず、やり直しがきかない。だから監督は大きなビジョンをしっかりと持たなければなりません。

ーーアニメーションを撮ったことで監督としての変化は感じますか?

ソン・シンイン:今回アニメーションを撮った経験は、いろんなところで役に立つと思います。例えば、各ショットの組み立て方や編集のリズムは実写を撮るにしても役立つと思います。私が今回もっとも変化を感じたのは、この映画のおかげいろんな国に連れて行ってもらえたことです。そこで様々な文化を持つ人々と出会って、刺激を受けました。これからの作品も台湾の観客だけに向けて作るのではなく、世界中の人に見せたい。そのために何をすればいいかという新たなモチベーションが湧いてきました。

(取材・文=安田周平)

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