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今だからこそ評価すべきSPEEDの功績 日本中が熱狂した“愛らしさ”と“スキルフル”の両立

リアルサウンド

18/8/19(日) 10:00

 今年9月の引退に向けて、コンサートツアー以外にも『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)出演など話題を振りまく安室奈美恵。「U.S.A.」のヒットでその実力が改めて注目を浴びたDA PUMP。『球体』で新境地を開拓し、新曲「Be Myself」でも新たな国産ダンスミュージックのあり方を提示する三浦大知。この3組には、「90年代にその活動をスタートして支持を集めた(名義やメンバーなどに一部違いはあるものの)」、そして「沖縄アクターズスクールに出自を持つ」という共通項がある。

 この系譜に連なるのが、女性4人組のダンス&ボーカルグループのSPEEDである。1997年に「Body & Soul」でデビューし、2000年に一度解散。その後3度の再結成を果たし(1日限りのものも含む)、また各メンバーがソロ作をリリース、さらにはリードボーカルの一人だった今井絵理子は現在参議院議員として活動中と、長年にわたって様々な話題を振りまいてきたグループである。

 そんなSPEEDの全音源が、8月1日より各種ストリーミングサービスに解禁された。本稿では、彼女たちの音源にアクセスしやすくなったこのタイミングで、SPEEDというグループの存在意義について改めて考えてみたい。

 彼女たちが発表したオリジナルアルバムは全部で5枚。そんな中でも特に音楽シーンへの影響が大きいのは、1st『Starting Over』と2nd『RISE』だろう。CDバブル絶頂期においてそれぞれ250万枚、300万枚というセールスを記録したこれらのアルバムに収録されているのは、アメリカのR&Bを意識したトラック(彼女たちのフェイバリットとして真っ先に挙がるグループがTLCだった)に当時日本で主流となりつつあったハイトーンボイスが乗るユニークな楽曲群である。収録されたシングル曲だけを取り上げても、ハイテンションで押し切るアッパーな「Body & Soul」「Go! Go! Heaven」、ミディアムテンポの「Steady」、ファンクテイストの「Wake Me Up!」など、彼女たちが様々な形で海外のトレンドを消化しようとしていたさまがうかがえる。また、「Body & Soul」で発せられる島袋寛子(当時小学生)の〈平凡な毎日じゃつまんない!〉というラップに代表される大人びた歌詞も注目を浴びた。

 一方で、最初の解散直前にリリースされた『Carry On my way』(1999年)、再結成後に発表された『BRIDGE』(2003年)『4 COLORS』(2012年)は、前2作に比べればそこまでの大きなインパクトを残したとは言い難い。それでも、ブランディ & モニカの「The Boy Is Mine」あたりを意識したと思われるメロウなサウンドにもチャレンジした『Carry On my way』、今まで以上に大人っぽさを強調した『BRIDGE』、EDM的なアプローチを駆使した『4 COLORS』といったように、その時々の海外シーンの動きやメンバーの年齢的な成熟を踏まえて最適なアウトプットを生み出そうとしていた形跡が各作品に見られる。

 「リアルタイムの海外の音楽を意識しながら独自性を付加した楽曲を発表する」という価値ある取り組みを続けていたSPEEDだが、その存在感が発揮されるのに大きな役割を果たしていたのが、スクールで鍛え上げられた歌とダンスである。数多の歌番組で大人たちに混ざってハイレベルなパフォーマンスを堂々と披露する彼女たちのステージには、新世代の胎動とも言うべきワクワク感がいつも充満していた(筆者は新垣仁絵と同じ学年ということもあり、そんなエネルギーを特に強く感じていたのかもしれない)。

 最近改めて思うのは、往時のSPEEDが体現していた「10代の女子が愛嬌のみに頼らずそのスキルでオーディエンスをねじ伏せる」という凄みが、その後のJポップのシーンにおいて正確に咀嚼されなかったのではないか? ということである。

 SPEEDが登場した90年代半ばは「アーティスト志向」の強い時代であり、今でいうアイドル「的」な存在だった彼女たち(時代柄、当時SPEEDのことを「アイドル」と呼ぶ向きはなかったはずである)にも相応のスキルが求められた。また、SPEEDの最初の解散直前に「LOVEマシーン」で時代を制したモーニング娘。も、もともとは「シャ乱Q女性ロックボーカリストオーディション」に参加した歌自慢の5人で結成されたグループで、「愛嬌が売りのアイドルグループ」では決してなかった。

 最近でこそ現体制のモーニング娘。を筆頭にハロー!プロジェクト界隈の本格的なダンスパフォーマンスが注目されてはいるものの、2010年代の女性アイドルブーム以降のシーンにおいて、アイドルグループの魅力を測る尺度は「スキルを上回る何かこそ重要である」という考え方にかなり偏っている。この考え方自体はもちろん尊重されるべきものだが、もしもかつてのSPEEDの功績が正しく評価されていれば、よりスキルフルなアイドルが評価される土壌が日本にも生まれていたかもしれない。

 折しも、現在日韓同時放送されているオーディション番組『PRODUCE 48』において、48グループの面々が日本よりもステージパフォーマンスそのものが重視される世界で自らの価値を問い直さざるを得ない状況と対峙している。そんな時期だからこそ、かつてSPEEDが「かわいさ、愛らしさ」と「パワフルなパフォーマンス」を両立できていた事実、そしてそれが熱狂的に受け入れられた歴史に想いを馳せることに大きな意味があるのではないかと思う。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題になり、2013年春から外部媒体への寄稿を開始。2017年12月に初の単著『夏フェス革命 -音楽が変わる、社会が変わる-』を上梓。

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