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Slipknot、Abbath、GYZE……西廣智一が選ぶ話題性の高いHR/HM新作6作

リアルサウンド

19/7/21(日) 8:00

 今年の夏から秋にかけて、ハードロック/ヘヴィメタル(以下、HR/HM)やエクストリームミュージック界において実に話題性の高い新譜リリースが多数控えています。そこで今回はすでに発売済みのものからこれから発売される作品まで、選りすぐりの6枚を紹介していきたいと思います。

 まずは、アメリカ・アイオワが産んだ“猟奇趣味的激烈音楽集団”Slipknotの5年ぶり新作『We Are Not Your Kind』です。前作にあたる5thアルバム『.5: The Gray Chapter』(2014年)はポール・グレイ(Ba)の急逝やジョーイ・ジョーディソン(Dr)の脱退などバンドの存続に関わるようなトラブルに直面しましたが、それを乗り越え完成した『.5: The Gray Chapter』は非常に怒りに満ちた、従来のSlipknotらしいエクストリームメタルが展開されていました。

 あれから5年もの歳月を経て届けられた今作は、メンバーのジム・ルート(Gt)によると「このアルバムを作ったときにインスピレーションになったのは、シングルだけじゃなくフルアルバムを作ることにこだわっているアーティストたちだ。今の音楽業界はとにかくシングルを出して稼ぐ方向に傾いているけど、俺たちスリップノットはひとつの作品として完成している、アルバムでしか味わえない体験を届けたかった」とのこと。実際、全体を通した構成が非常に寝られていて、かつてないほどの緩急に富んだドラマチックなアルバムに仕上がっています。

Slipknot – Unsainted [OFFICIAL VIDEO]

 筆者は常々、Slipknotのアルバムは「ヘヴィさ/攻撃性」「ポップさ/メロディアスさ」「耽美さ/刹那さ」の3つの要素で構成されていると考えており、前作はこのうち「ヘヴィさ/攻撃性」に長けたぶん「ポップさ/メロディアスさ」が若干後退した1枚と感じていました。これは当時のバンドの状況を考えれば納得のいく話かと思います。しかし、今回の新作ではこの3要素がアルバムの中で一番良いバランス感で三角形を作っている。ヘヴィな曲はとことんヘヴィだし、そのヘヴィさもエクストリームさを追求したものから90年代ヘヴィロック的なもの、あるいは80年代のHR/HMを彷彿とさせるギターリフまでさまざま。かと思えば、「ポップさ/メロディアスさ」「耽美さ/刹那さ」に特化した楽曲もしっかり存在しており、1曲1曲の際立ち方は過去最高ではないかと感じました。その3要素の中心にある楽曲が、リードトラックとして公開された「Unsainted」というのも、なるほどと頷けるものがあります。

 2020年3月20、21日には幕張メッセ国際展示場1-3ホールにて『KNOTFEST JAPAN 2020』で再来日予定のSlipknot。どんなラインナップになるかも気になりますが、まずは8月9日のアルバムリリースを楽しみに待ちたいと思います(ちなみに日本盤のみボーナストラックとして、昨年秋に突如配信され話題となった「All Out Life」が追加収録されます)

Slipknot – All Out Life [OFFICIAL MUSIC VIDEO]

 続いて紹介するのは、ノルウェー出身のブラックメタルバンドAbbathの2ndアルバム『Outstrider』です。Abbathは伝説的ブラックメタルバンドImmortalのフロントマンとして活躍したアバス・エイケモ(Vo,/Gt)がImmortal脱退後の2015年、自身の名を冠して結成した4人組バンド。2015年秋の『LOUD PARK 2015』で来日した際にはそのアグレッシブなステージと相反して、アバスのお茶目なキャラクターが一部で話題となりました。

 翌2016年に発表した1stアルバム『Abbath』はスラッシュメタルやパワーメタルなど正統派ヘヴィメタルからの影響も見え隠れし(アルバムにはボーナストラックとしてJudas Priestのカバーも収録)、ブラックメタルの一言では片付けられない意欲的な1枚でした。続く今作も基本路線は1stアルバムの延長線上にあるのですが、今作ではそこにアバスのルーツといえる80年代初頭のオールドスクールなHR/HM、中でもブラックメタルの始祖的存在のVenomや、スウェーデンのBathoryなどからの影響が表面化。改めてアバスというアーティストの(ブラックメタルという狭い範疇で括っておくには勿体ないほどの)非凡さを感じさせる強烈な1枚です。なお、Bathoryに関してはボーナストラックで「Pace Till Death」をカバーしているので、機会があったら原曲と聴き比べてみるのもいいかもしれません。

Abbath – Harvest Pyre (official music video)

 3枚目に紹介するのは、オーストラリアのデスコアバンドThy Art Is Murderによる5thアルバム『Human Target』。2006年に結成された彼らは本国で初の「メインストリーム・チャート」TOP40入りしたエクストリームメタルバンドで、2015年リリースの3rdアルバム『Holy War』はオーストラリア産エクストリームメタルバンドとして初めてBillboard 200(総合アルバムチャート)のTOP100入りを成し遂げています。

 そんなThy Art Is Murderの2年ぶりの新作にあたるこのアルバム……常軌を逸する世界中の出来事(デスメタル顔負けの「臓器売買疑惑」などセンセーショナルなものから、日本をはじめ各地で発生している急激な気候変動まで)と背中合わせに刻々と近づく人類滅亡。そんな現実を見て見ぬふりをしながら、虚像が真実として語られ続けるSNSに興じる人々……この狂った世界に対する“最後の抵抗”がこの『Human Target』という強烈なのです。最初から最後まで怒りに満ちた暴力的なエクストリームサウンドは、ある者には快感をもたらし、ある者には不快を生じさせる。それくらい極端なサウンドではありますが、よくよく聴けばオールドスクールなデスメタルやグラインドコアにも通ずる要素が見つけられ、正確無比な演奏含め非常に聴きどころの多い1枚だと気づくはずです。

THY ART IS MURDER – Make America Hate Again (OFFICIAL MUSIC VIDEO)

 4枚目はカナダのテクニカル・デスメタルバンドCryptopsyが、今年6月に日本限定でリリースしたアルバム『The Book Of Suffering』です。Cryptopsyは1992年に結成され、ロード・ワーム(Vo)の唯一無二なガテラルボイスとエクストリームメタル界屈指の凄腕ドラマー、フロ・モーニエ(Dr)の千手観音的ドラミング、演奏技術の高さゆえになし得る複雑な展開の楽曲群で、ここ日本でも高い人気を誇ります。

 現在はフロ、マット・マギャキー(Vo)、クリス・ドナルドソン(Gt)、オリヴィエ・ピナール(Ba)の4人で活動しており、7月中旬には7年ぶりの来日公演も行なったばかり。筆者も7月13日の代官山UNIT公演に足を運びましたが、計算され尽くしたプレイの数々と、音数が多いにも関わらずすべての音の粒が感じ取れるほどクリアなサウンドは、この手のバンドとしては異例といえるもので、熱狂的なリアクションを見せるオーディエンスとの相乗効果により、今まで観た彼らのステージの中でも一番と呼べる内容となりました。

 さて、今回の日本限定アルバムはこの来日公演のために用意されたもので、もともとはアルバム前半4曲がEP『The Book Of Suffering – Tome I』(2015年)、後半4曲がEP『The Book Of Suffering – Tome II』(2018年)として発表されたもので、本作はそのEP2作品をまとめたもの。2作品の間には3年のタイムラグがありますが、アルバムとして続けて聴くとそういった“時差”はまったく気にならず、むしろこれら8曲が収まるべき形に収まったと言えるのではないでしょうか。メロディやドラマチックさは皆無、終始無慈悲なまでに攻めまくり、時に複雑な展開で聴き手を驚かせるCryptopsyらしさは本作でも健在。エクストリームメタルのエクストリームたる所以を存分に味わえる貴重な1枚です。

OFFICIAL VIDEO: CRYPTOPSY – Sire of Sin

 5枚目はアメリカ・サンフランシスコ出身のスラッシュメタル/デスメタルバンドPossessedが33年ぶりに発表した3rdアルバム『Revelations Of Oblivion』です。彼らは80年代初頭に結成され、『Seven Churches』(1985年)、『Beyond The Gate』(1986年)と2枚のアルバムを残すものの、1987年に解散。90年代初頭に一時的に再結成するも、その後の本格的再始動は2007年まで待たねばなりません。以降はライブを中心に活動を展開してきましたが、今年5月に『Beyond The Gate』以来となるスタジオフルアルバムを完成させました。

 PossessedはUSデスメタルのオリジネーターと言われていますが、新作『Revelations Of Oblivion』を聴いてもらえばわかるようにそのサウンドはデスメタルというよりもオールドスクールなスラッシュメタルにより近いもの。確かにここが起点となって後続バンドたちがデスメタルの世界を広げていったわけですが、あくまでオリジナルであるPossessedは“スラッシュメタルの亜種”ということになるのでしょうか。本作は確実に『Beyond The Gate』までのPossessedと地続きであることを強く感じさせ(そう、33年という空白の期間がなかったかのように!)、気持ちいいまでに疾走感の強いメタルチューンをたっぷり堪能させてくれます。

POSSESSED – “GRAVEN” (OFFICIAL MUSIC VIDEO)

 最後に取り上げるのはここ日本から、北海道出身のエクストリームメタルバンドGYZE(ギゼ)の4thアルバム『Asian Chaos』です。GYZEはRyoji(Vo/Gt)とShuji(Dr/現在活動休止中)の篠本兄弟を中心に結成され、日本よりも先に海外デビューを果たすという実力の持ち主。台湾や韓国といったアジア圏のほか、アメリカやイギリス、ドイツ、スペインなどのヨーロッパ圏でもツアー開催やフェス出演を成し遂げてきました。

 前作『Northern Hell Song』(2017年)から2年ぶりに発表された本作は、Ryojiの「バンドとして海外で活動する中で、日本人のアイデンティティとして純邦楽の格好良さ、雅楽の抒情的なメロディの美しさをメタルと融合させることにより、唯一無二、オリジナリティとスケール感あふれるGYZEをより強く印象付けられるのでは」との考えから、笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)という雅楽の管楽器をフィーチャーした楽曲を含む、まさにアルバムタイトルにふさわしい内容に仕上がっています。また、DragonForceのマーク・ハドソン(Vo)をゲストに迎えた「The Rising Dragon -REIWA- feat. Marc Hudson from DragonForce」や、X JAPANのカバー「Forever Love」など話題性の高い楽曲も含まれており、エクストリームミュージックのリスナーのみならずHR/HMファン、あるいはX JAPANのように流麗なメロディを持つバンドのリスナーにも存分にアピールする1枚といえるでしょう。

GYZE 【ASIAN CHAOS (Far Eastern Mix)】 Official MV

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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