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みうらじゅんの映画チラシ放談

『もち』 『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』 『カラー・アウト・オブ・スペース』

月2回連載

第42回

── 今回、最初のチラシはこの『もち』です。

みうら 当然、お正月映画なんでしょ? タイトルからしても。ひらがなで“もち”。グッときますね(笑)。その字体もね、同じように僕がグッと来て観に行った『わさお』に似てるんですね。

── そういえば、犬のわさおも亡くなりましたね。

みうら 『わさお』の映画があったその年(2011年)には“みうらじゅん賞”を受賞したんです。って、勝手に僕が決めたんですが(笑)。そのとき、青森の家にトロフィーも贈りましたから、他人事とはとても思えなくてね。わさおが亡くなったと聞いたもので、お花を送らせてもらったんです。そうしたらわさおの世話をしていた方がネットで「みうらさんから花来てるよ、わさお」って書いてくれて泣けました。「あのとき、頂いたトロフィーが見つからないんだ。わさお、どこに隠したか教えてくれないかな」とも書いてあって、ちょっとおかしかったんですけど(笑)。

── それはイイ話ですね。

みうら 『もち』の話に戻しますが、当然もちが出てくるわけですよね。もちにまつわるエトセトラが出てくるんでしょう。チラシの裏面で、おじいさんがもちついてますよね。で、この主人公らしき女の子がもちをひっくり返してる。要するにクールポコでいう「◯◯がいたんですよー」って言う方の役ですよね(笑)。

このふたりはその後、おそらく全国を営業で行脚するんだと思いますね。「本当のもちなんて食ったことねえだろ、つきたてのもちは美味ぇんだよ」っておじいさんが娘に試食させたのをきっかけにね。

── つまりロードムービーですか?

みうら モーチムービーですね。モチは伸びますから。そして、チラシに文金高島田が写ってるんですよ。これはこんなにもちのことを好きだったふたりが、娘の結婚を境にコンビ解消するって展開でしょうね。

── ありそうです(笑)。このおじいさん、白い布みたいなものを噛んでますね。

みうら 噛んでますねえ。これは、もちをつく匠ならではの布でしょうね。僕にはよく分かりませんが。この娘は14歳ってわざわざチラシに書いてあるでしょ。きっとその頃の年齢が一番、もちつきに向いてるって匠の判断じゃないでしょうか? その才能を認められて特訓する。スポ根ならぬモチ根ですね。

── それで才能が開花するんですね。

みうら 誰でも簡単にひっくり返せるものではないですからね。息が合ってなきゃ、パートナーとの。おばあちゃんの死、とも書いてありますから、おじいちゃんは、それまではおばあちゃんとコンビだったのでしょう。おばあちゃんが亡くなったことで「もう俺にもちはつけねえ!」って杵を捨てたときに、この女の子が、「私がおばあちゃんの代わりになる!」って言うんじゃないかな。でも嫁いでいくことになって、またパートナーがいなくなる。別にいいのにね、嫁いでからももちついたって、と思いますが。

── でも遠くに嫁ぐ可能性もありますからね。

みうら なるほど。そうですね。切ないですね。これはもう上映してるんですか? ストーリーを確かめるためにも早く映画館に行かないとですね!

── 次は『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』ですね。

みうら 頭脳警察のPANTAさんとは昔から親交がありましてね。ぜひ、この映画、紹介しなくちゃと。

── それは『いかすバンド天国』を通じてですか?

みうら いやいやそうじゃないんです。そもそもこっちは高校生時代、京大西部講堂で頭脳警察のライブ見てるクチですから。大好きでしてね。そこ、ロックの殿堂と呼ばれていたすごいところですけど、頭脳警察と村八分っていう強力なメンツが出たコンサートに行ったんですよ。

その頃のコンサートって今では考えられないほど会場も殺気立っていてね、コンサートの途中でPANTAさんが、観客に向かってツバを吐いたんです。客席って言っても椅子はなくて、僕が結構前の方に押し出されたときに、その“飛沫”がアタマにかかった(笑)。「うわー!」って思って触ってみたら、ツバっていうか、痰だったんです。結構大きいやつが命中したんです。「うわああ、ロックの人は怖えなあ!」って思ったもんです。

出る人たちも怖かったけど観客も荒れていた。観客がミュージシャンに一升瓶を差し出すなんてこともあってね、PANTAさんはそれをぐっと飲んで演奏を始めた。「やっぱ怖いけど、カッコいいなあ!」ってシビれたもんです。

── まさに日本のロックの伝説の場にいたわけですね。

みうら レコードも持ってましたし、最高な夜でしたね。で、それからずっと後になってのことなんですが、僕に間寛平ちゃんのCDを作らないかってお誘いをいただいたんです。吉本から。『超悦』っていうCDで、ジャケットはニール・ヤングの『渚にて』のパロディになってました。かなりロックテイストなCDに4、5曲提供を頼まれたんです。

一度、レコーディングスタジオに顔を出したらPANTAさんがおられたんです。聞くと、ほぼPANTAさんと僕で曲を書いてるアルバムだったんですよね(笑)。

そのときについうれしくて例のツバの話をしたら、PANTAさんが「ごめんね、悪かったね」って(笑)。いや、びっくりしたのはその対応で。なんて丁寧で優しい人なんだろうと思いました。ま、それ以前に寛平ちゃんに曲提供してる時点で「おや?」って思ったんですけど(笑)。

強面に似合わず、お笑いが大好きで、とてもフットワークが軽くてポップな人だったですよ。一升瓶の話もしたら「いや、それ違うと思うな」って言うんですよね。「だって俺、お酒飲めないもん」って。あのときは客も怖かったし、飲めないなんて言ったら逆にシバかれるって思って、親指で押さえて口に入らないようにしながら飲んだフリをしたに違いないって(笑)。

── あまりにもイメージと違いますね(笑)。

みうら そんな頭脳警察のドキュメンタリー映画を、僕がここで紹介しないわけにはいかないですよ!

きっと、頭脳警察に対して僕が最初に抱いていたようなイメージを持っている人は多いと思うんですよ。このチラシを見ても『アングスト/不安』ばりに怖そうだからって思って観るのを躊躇する人がいるんじゃないかと(笑)。このチラシの腕組みしてるPANTAさんとかトシさんを見て、「怖くない」っていう人はいないでしょ(笑)。

でも、ここに書いてあるキャッチコピーの“絶景かな”っていうのがヒントだと思うんですよね。このコロナの状況下で、そうタイトルした新曲。ボブ・ディランの新譜のような深淵なものを感じます。昔のロック=怖いじゃないんです。

実は柔軟性があって、今の時代をもっと違う方向で見つめておられる頭脳警察のことが、このドキュメンタリーを観れば分かるんじゃないかなと思うんです。きっとここから頭脳警察にハマる人も必ずいるはずだという、ひとり電通として僕が選ばせていただいた1本ですから。

── 続いては『カラー・アウト・オブ・スペース』です。

みうら これは、チラシを見るだけでもニコケイの危険な臭いがプンプン漂ってますね(笑)。『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』でも相当なハジケっぷりだったらしいじゃないですか。

── 確かに新たな全盛期が来てる感じはありました。

みうら 俳優なら誰しも一時は迷うんだと思うんですけど、ニコケイも『コレリ大尉のマンドリン』あたりで迷ってたんじゃないですかね? 文芸路線って言うんですか? チャールズ・ブロンソンだって『バラキ』では迷ってらしたけど、その後はかつて築き上げたものをさらにムチャクチャにしたようなアクションひと筋に突っ走る。その時期がここ最近、ニコケイにも来てるんでしょうね。

ニコケイの顔のアップの横にしかも筆文字で“狂気のはじまり”って書いてあるのも納得できますし。このチラシ、こんなこと言ってなんですけど、いいセンスの悪さです(笑)。この中央にピカーっと光を入れてシンメトリーにしてる感じも、どういう意味だかさっぱり分からなくていいですね。

── 後ろに写ってる惑星も、本当に出てくるかどうか分からないですよね。

みうら うっすらと星入れてますけどね。タイトルに“スペース”って入ってるから一応入れてみたんですかね(笑)。でもほとんど宇宙のパートはないですよね。裏面にもまったく、宇宙の写真はありませんし。

── 裏面には“これは物体Xか?”とも書かれています。

みうら “物体X”なら、当然、ニコケイになにかが入り込みますよね。『吸血鬼ゴケミドロ』のパターンで言うと、ニコケイの額が割れて、そこから異星人が入り込むってカンジでしょうか? そうとしか思えないし、そうあってほしいです。でもチラシを見る限り、ビカビカっと光の啓示を受けた瞬間にもう入ってるみたいですね。

── 口を開けてる子供がふたり写ってますね。

みうら あんぐり開けてますね(笑)。きっと、この子供たちはニコケイの家族でしょうね。それを物語るように、お父さんっぽいメガネをニコケイはかけてるじゃないですか。このメガネはきっと、いいお父さんのアイコンですよ。でもお父さんになにかが入ってきて狂う。手がつけられないほどに。横でお母さん泣いてますもんね。「もう、あんたとはやってられない!」って顔で(笑)。

ニコケイの安定の狂気演技が花開くのを待つのみですね。

── チラシによると“彼のネクストレベルだと絶賛”だそうです。

みうら ネクストって、まだ先があるんでしょうかねぇ(笑)。言うなれば“狂気の始まりであって狂気の終わり”ってことかもしれません。ぜひ、観ておかなければですね。一応、劇場に“ニコケイの狂気メガネ”っていうのが売ってたら僕、絶対に買いますから(笑)。

取材・文:村山章
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プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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