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『トイ・ストーリー4』ウッディの決断が意味するもの “クルー全員が泣いた”製作の意図を深読み

リアルサウンド

19/7/24(水) 8:00

 「あの人、大丈夫かな……」

参考:『トイ・ストーリー4』なぜファンが戸惑う内容になったのか? 作り手のメッセージから読み解く

 『トイ・ストーリー4』の上映会で私から3席ほど離れた場所に座っていた女性が、気の毒になるほど泣いていました。もちろん私も泣いていたけれど、私の涙は物語に感動して泣いた程度の量。劇場内の音に耳を傾けると、あちらこちらからすすり泣きや嗚咽が聞こえてきました。いわゆる「泣ける」を謳った映画でも、ここまでではなかったと思います。私的に、劇場が最も泣いていた映画は『タイタニック』なんですが、それをはるかに上回る嗚咽量。なにかすごいことが起こっているような気がしました。

 劇場をあとにする時、泣きはらした顔の人たちを見かけましたが、決して明るい顔ではなく、なんというか、思いつめたような怒ったような表情でした。泣ける映画を見たあと、来場客は大抵スッキリした顔をするものなのにーー。

 この体験の後、私は本作のプロデューサーであるマーク・ニールセン氏に単独インタビューする機会に恵まれました。その中で、製作中はクルー全員が泣いたということを知りました。『トイ・ストーリー4』は、クルーが心が締め付けられるような思いをしてでも作らなければいけなかったストーリーだったというのです。

 その理由は、「ウッディの中に大きな変化を持たせ、大きな目的のために行動させる必要があったから」というものでしたが、私はその目的というのが劇中の展開ではなく、もっと大きな、観客を巣立たせる目的も含んでいたのではないかと深読みしました。

※以下、『トイ・ストーリー4』のネタバレを含みます。

■子離れさせるウッディ
 1995年に製作され、1996年に初めて日本で公開された『トイ・ストーリー』。この作品を幼少期にリアルタイムで見た人たちは、今、30才前後の立派な大人です。『トイ・ストーリー』はシリーズが進むごとに登場人物も成長し、『トイ・ストーリー3』ではアンディ少年が17才に成長し、大切にしていたおもちゃを手放すラストになっています。おもちゃ達はボニーという新たな持ち主に大切にされ幸せな余生を送るだろうと予感させました。ただ、その終わり方は「自分は都合があって飼えないけれど、次の飼い主に大切にしてもらってね」といってペットを譲渡する人の感覚に近く、他人に希望を預けた形でした。

 本作では、その「次の飼い主に大切にしてもらえるであろうはずが、蓋を開けてみたら違った」という展開で始まります。ウッディやバズをみながら育ってきたファンからしてみたら、のっけから強烈なパンチを食らわされたはず。なにせファンは、おもちゃとしての希少価値を含め、ウッディの全てを知っているわけですから。しかも、ボニーが心から必要とするのは、ゴミとも違わない手作りおもちゃです。

 物語は過去の3作とはテイストを変え、観客の予想をことごとく裏切り、「最後はやっぱりウッディを愛してくれるだろう」という希望を豪快にぶち壊し、ファンを完全に置いてきぼりにします。今までの作品が、自分を包み込んでくれて絶対的な安心感を与えてくれる心の拠り所なら、本作はファンを突き放し拒絶したに近いものがあったと思います。このラストに裏切られたと思った人は少なくないかもしれません。大好きな作品を観にきて、どうしてこんな終わり方をされないといけないのか、怒っている人も多いと思います。

 でも、4作通して一連の流れをみていたら、自然界のあることに酷似しているような気がしたんです。それが、動物の子離れです。

 多くの動物は子供を数年間徹底的に面倒みます。外敵から子供の身を守り、餌の捕り方を教え、惜しみない愛情を与えます。しかし、自然界でひとりで生きていけるだけのスキルが身についたと思ったら、潔く子離れします。その日は或る日突然やってきて、子供は理由もわからないまま母親に拒絶され、別の道を生きるよう強制されます。本作が描いているのは、この「サバイバルスキルを教え、或る日突然子離れしていった」部分かもしれないと、私は思うのです。

 本シリーズは常にファンの望む結末を作ってきました。ファンは安心してウッディたちの行動から、愛情や友情を学んでこれたと思います。しかし、もしかしたら、ピクサーはそれだけではいけないと考えたのかもしれません。

 『トイ・ストーリー』シリーズが、親が子供に最初に見せたい映画になっている今、ここまで影響力のある作品を生み出した責任を果たさないといけないと思ったのではないでしょうか。だから、ウッディとバズの友情物語の締めくくりとして、野生動物が子供を森に置き去りにするのと同じように、ウッディが家族やファンを置き去りにしたのかもしれません。彼が、私たちに「もう一人で歩けるよ」と伝えるかのように。

■人生の岐路に立った時に繰り返し見る教科書として
 そう考えると、『トイ・ストーリー4』には一皮向けたばかりの元子供を支えるヒントがいっぱいです。例えば、フォーキーの誕生シーケンス。あれは、子供が幼稚園初日にどれほど不安なのかを子供目線で描くことで、親がどう子供の心に寄り添えばいいのかのヒントをくれています。というのも、幼稚園初日は子供にとっても親にとっても一大イベント。子供の気持ちよりも、親がパニックになっていることも多々あります。そんな時に、1番不安で心細いのは子供であるということを再認識させてくれるのがフォーキー誕生シーケンスです。実際、私は息子が幼稚園に入園した日のことを思い出して、懺悔の気持ちで涙が止まりませんでした。本作を見ていれば、初日の対応はもちろんのこと、おもちゃ持ち込み禁止だけどおもちゃを持っていきたいと主張する子供の心も理解した上で言葉を選びつつ話ができたと思いました。

 また、自分が大切に思っている人が誰かに大事にされないという現実に直面した時や、自分が必要とされなくなった時の気持ちの切り替え方といったヒントも描かれています。中でも、自分の幸せを人の中に見出すよりも、自分の足で幸せに向かって歩むべしというメッセージは、多くの人の人生を豊かにしてくれるのではないかと思います。

 クルーが製作中に幾度となく涙を流しても作りたかったのは、常に『トイ・ストーリー』シリーズを通して見守ってきた子供たちを、今作を通して「君の人生をずっと応援するよ、大丈夫だよ」という気持ちを込めて巣立たせたかったからかもしれません。実際、マークさんと話をしていて、彼とクルーがどれほど本シリーズを愛し、本シリーズを見て育った人たちを大切にしているのかを感じましたから。

 こう考えると、リアルタイムに『トイ・ストーリー』と育ってきた人たちが羨ましくてしょうがありません。人生を通して、こんな映画体験はなかなかできるものではないのですから。

 『トイ・ストーリー4』は絶賛公開中。鑑賞の際にはハンドタオル持参でどうぞ。

■中川真知子
ライター。1981年生まれ。サンタモニカカレッジ映画学部卒業。好きなジャンルはホラー映画。尊敬する人はアーノルド・シュワルツェネッガー。GIZMODO JAPANで主に映画インタビューを担当。

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