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『神様になった日』は原点回帰作に? 『Angel Beats!』から始まったKey×P.A.WORKSの歩み

リアルサウンド

20/7/13(月) 10:00

 ゲームブランドのKeyとアニメ制作会社のP.A.WORKSによる新作アニメーション『神様になった日』が2020年10月に放送される。『Angel Beats!』、『Charlotte』とこれまで2つの作品を世の中に送り出してきたKeyとP.A.WORKSの10年の歩みを振り返っていきたい。

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 Keyは株式会社ビジュアルアーツのゲームブランドとして、「泣きゲー」と呼ばれるジャンルの代名詞的存在として語られることが多い。過去には『Kanon』や『AIR』、『CLANNAD』、『リトルバスターズ!』といった大人気ゲームを生み出しており、これら作品において中核を担っているのがゲームシナリオライターの麻枝准。麻枝はシナリオライターとして企画・脚本・音楽を担当することが多く、「死」と「家族」とをテーマに添えた泣きゲーの基礎を確立してきた人物でもある。一方でP.A.WORKSは2008年の『true tears』を初作品として『花咲くいろは』、『TARI TARI』など数々のオリジナル作品を手掛け、質の高いアニメーション作品に定評のある制作会社である。

 そんな両者の出会いは『Angel Beats!』から始まった。Key・アニプレックス・電撃G’s magazine・P.A.WORKSの共同プロジェクトとして大々的に告知された同作品は、原作・脚本をテレビシリーズ初となる麻枝准、キャラクター原案にはNa-Ga(共にKey)、監督には『瀬戸の花嫁』の岸誠二が名を連ねた。『Angel Beats!』では、「死」という麻枝准の常套手段ではなく、死後の世界を舞台に自分の人生に抗い続ける少年少女たちという逆転の世界観が施された。様々な登場人物が入り混じりながらも、明快なストーリーと泣きゲー要素を組み合わせたことで高い評価を受けている。

 本作がこのような評価を受ける理由のひとつは、シナリオであることは言うまでもないが、やはり音楽面での影響も大きかったように思われる。当時は『けいおん!』に始まるアニメにおけるバンドブームに火が付き始めた頃であり、本作でも同様にバンドの要素が取り入れられている。Girls Dead Monsterと呼ばれる架空のバンドは、シングルやアルバムもリリースし、ボーカル・Yui役の歌唱部分を担当していたLiSAは、本作を機に注目を集め、後にソロデビューも果たした。主題歌に至ってもKey作品ではお馴染みのLiaや多田葵が、それぞれ主題歌を担当し、名曲として広がりを見せ、本作の評価を決定づけた。「『Angel Beats!』って「ゲーム」のシナリオを書いているみたいにやってた」と麻枝が語っているように(引用:『電撃G’sマガジン.com』TVアニメ『Charlotte』放送直前! 麻枝准×Na-Gaが語る制作中の裏話)、本作はゲームのような多人数が入り交じるという構成になっているため、それを補完する形で、2015年にPC用ゲームとして「死んだ世界戦線」の各々のストーリーが楽しめる『Angel Beats! -1st beat-』や、漫画『Angel Beats! -The Last Operation-』などメディアミックス展開が行われた。

 そして『Angel Beats!』から始まったKeyとP.A.WORKSタッグは、5年後の『Charlotte』で再び邂逅することになる。スタッフには麻枝准やNa-Ga、浅井義之、東地和生など『Angel Beats!』のスタッフが集結した。体裁としては完結しているものの、登場人物が多数存在するため結果的にメディアミックスが前提となっている『Angel Beats!』だったが、本作では登場人物は絞られており、アニメに適したシナリオ作りがなされた。

 本作は主人公の乙坂有宇が特殊能力を持っており、最終的には過酷な運命を背負っていく「主人公」に重きを置いているように主人公の「成長譚」という側面を色濃くしてる。このようにシナリオに加えキャラクターデザインに至るまで『Angel Beats!』とは異なるアプローチがなされており、その意味で麻枝准の作品としては異質な作品となった。一方で、前作から引き継いだ点としては、音楽がある。共通点として主題歌をLiaと多田葵が担当していたり、ZHIEND、How-Low-Helloといった架空のバンドが登場したりと、前作の要素を受け継いでいる点も随所に感じられる。これらのバンドはCDリリースもされており、オリコンランキング入りも果たすなど、前作同様高い評価を受けたことでも話題となった。

 「『Angel Beats!』では実現できなかった麻枝がやりたかったことができるとの思いから実現に至った」とプロデューサーの鳥羽洋典が話しているように(引用:『電撃オンライン』“Charlotte & Angel Beats! presents スタッフトークイベント in 大阪”ニコ生まとめリポート)、『Angel Beats!』とは様々な面で異なる手法が取られ、両者にとって挑戦的な意味合いを持ったのが『Charlotte』だった。

 そして『Angel Beats!』から10年、『Charlotte』から5年の時を経て、新作アニメ『神様になった日』で再び手を組むことが決定。スタッフ陣は前作からの据え置きとなっており、メインヒロインには前作のヒロイン・友利奈緒役の佐倉綾音が務めることが発表された。本作の企画にあたり、麻枝は「ゲームクリエイターがアニメに挑戦し続ける理由」と題して、key設立から20年の思いや本作にかける意気込みを表明している。プロデューサーの鳥羽から「原点回帰」というキーワードを頂いたとあるように、本作におけるテーマはまさに原点回帰。KeyとP.A.WORKSが世に送り出してきた2作は、ある意味でkeyらしくもあり、ある意味ではkeyらしくない、チャレンジングな要素を盛り込み、両者にとっても意欲的な試みをしてきた。2作品ともに成功と言える成果を収めたわけだが、ここにきてkeyの挑戦を後押ししてきたP.A.WORKSから「原点回帰」というテーマが投げかけられたというのは実に興味深い。10年越しにKeyとP.A.WORKSが贈る会心の原点回帰作。いちファンとしても期待せずにはいられない。

■川崎龍也
音楽を中心に幅広く執筆しているフリーライター。YouTubeを観ることが日課です。

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