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「喜びを思い出して、僕らと共にハッピーになって」『SINGIN' IN THE RAIN ~雨に唄えば~』アダム・クーパー インタビュー

ぴあ

アダム・クーパー  撮影:野津千明

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ジーン・ケリーの有名映画を舞台化した『SINGIN' IN THE RAIN ~雨に唄えば~』が待望の3度目の来日となる。40トンもの雨の中で歌い踊る、最高にハッピーなミュージカルで主演を務めるのは、元英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルのアダム・クーパー。ロンドンのアダムさんにオンラインでインタビュー。同作のロンドン公演の様子やコロナ禍での状況、今の心境を聞いた。

雨が降り出した瞬間、観客の息をのむ音が聞こえてきた

――長らくクローズしていたロンドンの劇場群が幕を開け始めた2021年初夏。『SINGIN' IN THE RAIN ~雨に唄えば~』も2020年のロンドン公演、日本公演の中止を経て、2021年7月にサドラーズ・ウェルズでの上演を果たしました。その時のお気持ちを教えてください。

もう感無量で、心からほっとしました。お客さんからも僕たちと同様、劇場に戻ってこられて嬉しい!という気持ちが伝わってきました。特に初日は劇場全体に電気が走っているような盛り上がりで、本当にスペシャルな夜になりましたね。もうひとつ特別だったのは、タイトル曲のシーンでのお客さんの反応です。「Singin’ in the Rain♪」のメロディと共に雨が降り出した瞬間、人々がハッと息を飲む音が聞こえてきました。それから叫ぶ人、笑い出す人、リズムをとる人。演者としても、あのナンバーを舞台で歌い踊ることは最高の喜びです。まるで水にも振りがついているようで、すごく素敵。このシーンはずーっと歌い踊り続けられそうです!(笑)

『SINGIN' IN THE RAIN ~雨に唄えば~』2021年ロンドン・サドラーズ・ウェルズ公演より 撮影:MANUEL HARLAN

――舞台人なのに舞台に立てない、それはアダムさんにとってどんな時間でしたか。

とてもハードな時間でした。最初の数カ月間はむしろ休息ができる、また僕は旅が多いので、家族と過ごせる時間ができて良かったと思っていました。ところが、どんどん辛くなっていきましたね。やはり僕は舞台人なので、舞台で存在することが人生そのもの。それができないなんて、自分の存在価値が半分なくなった気がしましたが、家族が支えてくれました。『SINGIN' IN THE RAIN ~雨に唄えば~』はトンネルの先に見える光のような希望でしたね。この苦境を乗り越えれば、僕が一番好きなふたつの場所、ロンドンと日本でできる!それが大きなモチベーションになりました。

『SINGIN' IN THE RAIN ~雨に唄えば~』2021年ロンドン・サドラーズ・ウェルズ公演より 撮影:MANUEL HARLAN

――ロックダウンの間にTimes誌でアダムさんが配達ドライバーになろうとしたという記事を読みました。本当ですか?

はい。2020年は忙しい年になる予定でした。しかし公演が全部キャンセルになり、収入が途絶えてしまったんです。フリーランスが助成金を得るには基準があり、僕はそれを満たせなかった。そこで何か収入を得る方法……と思いついたのが配達ドライバーでした。実際に応募をしましたが、返事はきませんでしたね(笑)。その間にドイツでオペレッタの振付を手掛け、ライブ配信ができました。またロンドンでコンテンポラリーダンスの振付家と協力して2カ月ほど仕事ができたので、何とか凌ぐことができました。

――それは大変でしたね。来日公演は2014年、2017年に続き、今回が3回目となります。作品の進化についてはどんな様子ですか。

作品自体は今までで一番いい状態にあると思います。なぜなら、稽古期間が5週間も取れたので。2011年のチチェスター公演以来、これほど長く稽古したのは初めてです。その分、シーンをそれぞれ細かく確認し、役もしっかりと見直すことができました。

――アダムさんが演じるのは、スター俳優のドン。ドンに何か変化はありますか。

僕は再演するたびに新しい人物像を作ろうと心がけています。今回、ドンはみんなに好かれるキャラクターを目指しました。またキャシーと初めて出会うシーンでは、今Me Too運動が世界的に起こっている状況なので、対決感を出さずに心あるやりとりになるように変えました。シャーロット・グーチが演じるヒロインのキャシー役を見て、解釈を変えたところもあります。ひとつ言えるのは、今までよりもドンの脆さが増していること。それはシャーロットとの稽古がきっかけです。公園のベンチでドンとキャシーと会話するシーンで、キャシーはドンが自分がなりたい俳優にはなれていない、自分に自信がない、そんな弱さを見抜くんです。それは今までにない新鮮な解釈で、そこからドンの脆さが生まれました。

新しい生活方式を築かなければならない今の状況は、時代の転換期を描いた本作とも重なる

――コロナ禍で稽古の進め方も変わったのではないかと推察します。何か大変だったことはありますか。

かなり違いましたね。例えば稽古場では、他の人に近づきすぎないようにきちんと距離を保ちました。毎日稽古場で検査をして、椅子に座る時は人と離れて、稽古場の外でも人に近づきすぎないようにしました。もちろんマスクは常時していました。本番中、ステージを降りて楽屋に行くまでの間ですら、マスクをしなければいけませんでした。ハードなダンスナンバーの後にすぐマスクをつけるのは息苦しくて辛かったけれども、そんなことより舞台に戻れたという喜びが勝り、そんなことは大したことではないと思いました。稽古中は稽古場と家との往復のみ、公演中も劇場と家のみ。感染リスクを避けるために、公演以外の活動は最小限にとどめました。大きな事故なく千秋楽まで完走できたのはすごくラッキーだったと思います。

――『SINGIN' IN THE RAIN ~雨に唄えば~』は映画がサイレントからトーキーに変わった、いわば時代の転換期の物語。もしかしたら、苦境をどうにかして乗り越えなければならない、今のパンデミックにおける私たちも重なるところがある気がします。

その通りです。コロナに対応した新しい生活方法を築かなければいけない、その状況は同じだと思います。原作映画が作られたのは第二次世界大戦直後で、人々の憂鬱な気持ちを元気にしようという意図があったそうです。今年のロンドン公演の際には、人々がコロナ禍で起きた悲劇を忘れて、喜びを思い出そうとしているように感じました。僕も劇場でしか感じられない、周りの人たちと一体となる体験を伝えたいと強く思いました。

――40トンの大雨の中、アダムさんがずぶ濡れになりながら軽やかに歌い踊る「Singin’ in the Rain♪」のシーンはまさに名場面。足元の水をバシャーン!と客席に蹴り込み、前方席のお客さんたちがレインコート姿でその水飛沫を待ち構えているのも最高です。他にお好きなシーンを教えていただけますか。

たくさんあって選ぶのが難しいですね。ふたつあげましょう。ひとつはキャシーがはしごを登ってドンに会いに来るところです。ドンとキャシーの恋が発展するところで、とても素敵なシーンです。もうひとつはドンとコズモが歌う「Moses Supposes(モーゼスサポーゼス)」。すごく楽しいシーンです。

『SINGIN' IN THE RAIN ~雨に唄えば~』2021年ロンドン・サドラーズ・ウェルズ公演より 撮影:MANUEL HARLAN

バレエダンサーから俳優に、10年演じたドンも今回が最後。新たな挑戦へ

――バレエとミュージカルのダンスの違いについて。バレエのキャリアがある方はミュージカルのダンスは楽々とできそうな気がしますが、いかがですか。またバレエダンサーとしてのキャリアはミュージカルで強みとして活かされていますか。

バレエとミュージカルのダンスは全く違う踊りです。バレエダンサーは基本バレエしかやらず、非常に特化されたスキルです。一方、ミュージカルは作品によって踊りのスタイルが様々。『SINGIN' IN THE RAIN ~雨に唄えば~』なら、タップ、ジャズ、バレエ風の踊りと何種類ものスキルが必要です。またバレエに歌と台詞はありませんが、ミュージカルは踊り終わった後にすぐ喋ったり歌ったりしなければいけません。僕を配役することで、バレエ寄りの振付が可能になるというのはありますね。ふたりでペアになって踊るパ・ド・ドゥができるとか、独自の色が出せる時もあります。

――『マシュー・ボーンの白鳥の湖』の初代スワン/ストレンジャー役として一世を風靡したアダムさん。最高のハマり役でしたが、そのイメージは強烈でした。その後、スワンのイメージから脱するための葛藤はありましたか。それとも、気にならなかったとか?

興味深い質問です。僕は初演でスワン/ストレンジャー役を3年ほど演じてやめました。なぜなら、自分がその役以外のものとして見られなくなるからです。特にイギリスではその傾向が強かったですね。日本公演で再びスワンを演じましたが、それはやってよかったです。なぜなら日本のお客さんはありがたいことに僕をこの役と決めつけず、様々なジャンルや役での僕を受け入れてくれるので。僕が最後にスワンを演じたのは2000年。イギリスではその後6年くらいはまだ、そのイメージに縛られていました。しかし段々ミュージカルに比重が移り、なんとかイメージから抜け出せて、今ではイギリスでも俳優として見られるようになりました。

――ドンは、アダムさんが初演から作り上げてきた役。しかしついに今回が最後になると聞きましたが、本当ですか。

はい。このプロダクションで10年、違うバージョンでも演じていますから、ドンをもっと長く演じてきました。本当に大好きな作品ですが、そろそろ次に進む時です。

――この冬、イギリスの『コーラスライン』でザック役を演じられるとか。ぴったりだと思います。

僕も楽しみです。『コーラスライン』もザックも伝説ですからね。僕の新しい挑戦が始まります。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

喜びやユーモア、愛に溢れた作品で、お客様は希望や喜びを胸に、帰り道につくことができます。劇場でしばし現実を忘れ、喜びを思い出して、僕らと共にハッピーになってください!

取材・文:三浦真紀 撮影:野津千明(舞台写真除く)

ミュージカル『SINGIN'IN THE RAIN~雨に唄えば~』チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2179701

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