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『アラジン』も興行収入100億円の大台へ なぜ日本では音楽映画が大ヒットするのか?

リアルサウンド

19/7/22(月) 8:00

  昨今、音楽をテーマにした映画作品は2016年米公開『ラ・ラ・ランド』をはじめ、昨年の『グレイテスト・ショーマン』『ボヘミアン・ラプソディ』『アリー/スター誕生』など記録的大ヒットが続いている。Netflixなど動画配信サービスにより自宅での映画鑑賞が以前よりも一般的となった現在において、多くの人々を映画館へ向かわせている音楽映画が持つ魅力を分析しブームの理由を探る。

参考:『トイ・ストーリー4』なぜファンが戸惑う内容になったのか? 作り手のメッセージから読み解く

■空前の音楽映画ブームの理由
 音楽映画を劇場で鑑賞する醍醐味の一つは、充実した音響環境のもと他の観客たちとともに大迫力の映像を楽しむといった“劇場でしか味わえない”映画体験を得られるという点であろう。例えば、昨年の『ボヘミアン・ラプソディ』における伝説のライヴ・エイドのステージを見事に再現したパフォーマンスシーンは「劇場で観て良かった!」という口コミや「もう一度あのシーンを映画館で観たい」というリピーターによって観客を増やし、2週目前週比9.6%増、3週目1.7%増と興収を伸ばしてロングラン上映に繋げた。また昨年公開のアクション作品『ベイビー・ドライバー』は、圧倒的な迫力のカーチェイスシーンと多様な楽曲群によるサウンドトラックの見事な融合が評判を呼び、当初の40スクリーンのみという公開規模から上映館を増やし126スクリーンにまで拡大した。一般的な劇場公開作品が初週末をピークに興収を落としていく傾向があることを考えればこれらの現象は異例の事態であり、いかに多くの観客が“劇場体験”を求めているかを表している。

 映画史研究者のミズーリ大学ナンシー・ウエスト教授によれば、近年における音楽映画を通じて得られる劇場体験を求める人々の心理は、現在の社会的風潮に関連性が見られるという。ウエスト教授は、映画史全体をみて音楽映画の盛り上がりと社会情勢を比較すると一定の傾向が見て取れると分析しており「政治情勢の緊迫などで人々が悲観的に考えうつ病などが激化している時期は、娯楽による逃避が求められる。特に非現実性の強いミュージカルは、現実逃避のための理想的なジャンルといえるだろう。私たちが非常に悲しい思いをしているこの時代、不安を遠ざけ、どこかへ連れて行ってくれる音楽映画が求められている現象は当然だろう」「音楽は、観客を物語に没頭させる。映画館興行が危機に瀕している瀬に、ハリウッドは音楽映画を武器に動画配信サービスと競争しているのが現状だ」と語っている。

 また、キングス・カレッジ・ロンドンの映画研究者マーサ・シェラー教授は、「個人主義が進み、社会の分断を実感している現代の観客は、一種の集団的体験への憧れを抱いている。音楽映画が提供する音楽パフォーマンスは、映画館の観客に“他の皆と同じ瞬間に立ち会っている”と自分が群衆の一部であるという意識を持たせ、その一体感が快感を作り出すと考えられる」と分析。いわく音楽映画は、劇場に居る観客に集団的な体験を与える働きを持つという。

 世界でも稀な上映方法といわれる、作品上映中に観客が大声を出したり歌うことが認められた“応援上映”が盛んに受け入れられているここ日本の観客は、特にこの集団的体験への憧れが強いのかもしれない。フィールズ研究開発室(FRI)による調査によると、2010年頃からアニメ作品を皮切りにスタートした日本の応援上映により、SNSで「何度でも観たい」「この素晴らしさは観た人にしか分からない」といった“内容は分からないけれど気になってしまう”コメントで作品レビューが拡散され、さらに歌や踊りなど自由に行えるインド発の“マサラ上映”や特別な音響機材を使用した“極上爆音上映”など様々なスタイルへと波及し独自の新たな映画市場を作り上げているという。応援上映が全国各地で行われた『ボヘミアン・ラプソディ』の日本興業収入が世界興収の約13%を占め、アメリカに次ぐ第2位を記録したことからも、日本人の音楽映画を求める想いの熱さが分かるだろう。

■今年最注目の公開予定作品
 今年に入ってからも『メリー・ポピンズ リターンズ』『アラジン』など多くの話題作が公開されヒットを飛ばし続けている音楽映画。そのブームの熱はまだまだ冷めやらず、期待の公開予定作品が今後も数多く控えている。その中から、絶対に劇場で体感してほしい最新音楽映画4作品をピックアップして紹介する。

●『ライオン・キング』
 ディズニー最新作にして、ドナルド・グローバー(チャイルディッシュ・ガンビーノ)とビヨンセという共にグラミー賞受賞経験のある二人が主要キャラクターの声を担当することが決定しているリメイク実写版『ライオン・キング』は、映画ファンやディズニーファンのみならず、音楽ファンからも注目を集めている。

 今回サウンドトラック製作にも大きく携わっているビヨンセは「本作で私たちはある種の独自ジャンルを創り出した。あなたの心の中で視覚的なイメージが湧きおこるような楽曲ばかり」「それぞれの曲が映画のストーリーを物語っている。だからこそ、この作品におけるサウンドスケープ(音景)は“音楽を超えた何か”なの」とコメントしている。オリジナル・アニメ版の主題歌を手がけ、リメイク版でも参加しているエルトン・ジョン自身が「オープニングを少しだけ観たけれど、実に素晴らしかった」と太鼓判を押している本作に期待が高まる。

●『ロケットマン』
 グラミー賞5度受賞、“ローリングストーン誌が選ぶ歴史上最も偉大なアーティスト100”にも選出された伝説的ミュージシャン、エルトン・ジョンの数奇な人生をミュージカル仕立てで振り返る作品。メガホンをとったのは『ボヘミアン・ラプソディ』のデクスター・フレッチャー監督。エルトン・ジョン役を演じたタロン・エガートンが、厳しいボイストレーニングとピアノレッスンを入念に重ね吹き替え無しで挑んだという本作のパフォーマンス・シーンは批評家たちから絶賛を浴びており、カンヌ映画祭では5分間以上のスタンディングオベーションが起こった。NPR誌の批評によれば「単なる伝記の枠に収まらず、ミュージカル要素と真実のバランスが抜群」という本作は『ボヘミアン・ラプソディ』とはまた異なる、新たな音楽映画のフィールドを開拓する作品となるだろう。

●『イエスタデイ』
 ザ・ビートルズの名曲で彩られるこの作品が興味深いのは、“もしも自分以外にザ・ビートルズを知らない世界になってしまったとしたら?”という少し変わったアイデアが基となっている点だ。イギリスの小さな町に住むシンガーソングライターのジャックは、ある日交通事故に遭い昏睡状態となってしまう。やがて目を覚ますと史上最も有名なはずのバンド、ザ・ビートルズが存在しない世界となっており、彼らの名曲を覚えているのはジャック一人だけだった。

 本作を手がけた『トレインスポッティング』『スラムドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイル監督が「私にとってザ・ビートルズはとても大切な存在。ポップカルチャーに火をつけた彼らの偉業に影響を受けた世界で、今日の僕たちは生きているのです」と語るように、本作は史上最も世界に影響を及ぼしたバンドの“不在”を通じてポップカルチャーの持つ力を再考する音楽映画だ。キャストにヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズなどフレッシュな顔ぶれを起用し、イギリス出身の現代を代表する人気ミュージシャン、エド・シーランも出演していることも話題となっている。

●『ダンスウィズミー』
 最後にご紹介するのは『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』の矢口史靖監督による日本発の最新ミュージカル映画。ミュージカルなんか全然したくなかったのにひょんなことからある日突然、音楽を聴くといつでもどこでも歌い踊ってしまう体になってしまった主人公のOL静香役を、人気アイドルユニットさくら学院出身の三吉彩花が軽快に演じる。

 予告編にもきこえる「そもそもミュージカルっておかしくない!? さっきまで普通にしゃべっていた人が急に歌い出したりしてさ」という静香の台詞は“そんなこと言ってしまったら元も子もない”という発想だが、普段ミュージカル作品に馴染みのない多くの人々が抱く正直な疑問でもあるだろう。あの独特なノリに抵抗があったという矢口監督自身、本作は「“ミュージカルだったら観ない”という人が楽しめる」と語るように、ミュージカル作品の常識にメタ的な視点を投げ込みながらも、歌って踊ることの楽しさを真っすぐに伝える“ハッピーミュージカルコメディ”となっている。

参照
・https://www.theguardian.com/film/2019/may/24/rocketmen-raves-and-rhapsodies-how-the-music-biopic-became-a-hollywood-hit
・https://www.rewire.org/living/rise-fall-rise-musical-film
・https://www.entertainment-future-lab.net/en/2016/07/29/2102/
・https://people.com/music/beyonce-lion-king-soundtrack-abc-news-special-sneak

■菅原 史稀
編集者、ライター。1990年生まれ。webメディア等で執筆。映画、ポップカルチャーを文化人類学的観点から考察する。

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