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藤川千愛、笑顔で噛み締めた歌を届ける喜び ソロデビュー2年の集大成見せた『HiKiKoMoRi』ワンマンレポ

リアルサウンド

20/11/28(土) 18:00

 藤川千愛のデビュー2周年を記念したワンマンライブ『HiKiKoMoRi』が、同名の3rdアルバム発売直前となる11月23日に東京・渋谷TSUTAYA O-EASTにて開催された。今回のセットリストは1stアルバム『ライカ』から6曲、発売日の前日に緊急事態宣言が発令され、リリースイベントやツアーが8~10月まで延びてしまっていた2ndアルバム『愛はヘッドフォンから』からは4曲、ニューアルバム『HiKiKoMoRi』から7曲というバランスの取れた選曲。この2年間の集大成ともいえる内容であるとともに、事前にファンに募集したリクエストの結果も反映された、現時点でのベストのような構成となっていた。また、この日は有観客に加えて、会場に足を運べないファンのために冒頭66分間のみYouTubeで無料生配信も行われ、世界に向けて発信された。

 ライブはいきなりニューアルバムに収録された新曲「四畳半戦争」で幕を開けた。ファットなベースにタイトなドラムが絡むファンキーでジャジーなシティポップ。藤川が身体を揺らしながら歌う〈思い出の方が/自分らしいなんて/言うならひとりで/自慰してろ〉というフレーズは刺激的だが、彼女自身のリアルな言葉で綴られた歌詞には、変化を恐れずに前に向かって走り続けていくという強い意志が込められていた。オルガンの伴奏のみで歌い始めたR&Bソウル「ライカ」は1stアルバムのリード曲。“千愛節”とも言える独特の巻き舌や慟哭、咆哮と表現したくなるような叫び声などのボーカル力もさることながら、この曲にも〈おざなりなキス/ちぐはぐなセックス〉というフレーズがある。続けて歌われたことでドキッとさせられたが、それは、“歌の言葉”がこれまでのライブよりも鮮明になり、真っすぐに聴き手の心に届くようになっていたせいでもある。また、この日の彼女は、常に笑顔を見せていた。歌うことが本当に楽しそうであり、その上で、観客一人一人の顔もよく見ていた。うまく歌うことよりも、歌を届けることに集中していたように感じたことも、一つひとつの言葉が胸に残るというか、刺さってくるようになった要因かもしれない。

 最初のMCで「一昨年の11月に渋谷CULTURE CULTUREでのアコースティックライブでスタートして、ついに、2年を迎えました」と挨拶すると、場内からは温かい拍手が沸き起こった。すると、彼女は「まだコロナ禍ということもあって、ファンのみんなも思い切り声を出したりとかが難しいかなと思って、今日は、みんなの心の声を代弁してくれるサンプラーを用意しました」と語り、サンプラーに録音した歓声や口笛を連打して盛り上げると、リクエスト企画で上位を獲得した2曲をエレキギターを弾きながら歌唱。「一昨年の11月からスタートして。この2年間、嬉しいことも、悔しいこともたくさんあったけど、やっぱり、私をいつも勇気づけてくれたのは音楽、そして、いつも応援してくれるファンのみんなです」と語ったポップロック「愛はヘッドフォンから」は、イントロから盛大なクラップが湧き上がり、彼女は柔らかい笑顔を見せていた。続くロックナンバー「葛藤」も歌うことが楽しくて仕方がないという気持ちを感じるパフォーマンスで、観客は無言のまま拳を上げて応戦した。

 ライブ初披露となるアルバム曲をまとめたコーナーでは、1曲1曲を丁寧に解説。「単なる愚痴の歌ではなくて、別れた彼への愛憎ゆえの歪んだラブソングかなと思います。男子には少し衝撃的かもしれないですけど」と前置きしたピアノロック「私に似ていない彼女」では、パワフルな歌声はそのままに、微笑や蹴りなど、表情や仕草、体の動きでも元彼への怒りにも似た苛立ちを表現。「表向きの歌詞は、死んでしまって別れた恋人に大丈夫だよ、立ち直るよって歌ってるんですけど、コロナ禍の中で失われてしまった自分への応援歌だったりもします」と説明した90’sR&B「リフレイン」では、観客一人一人を目を合わせるように〈まだキミには会えないけれど/大丈夫だから〉と歌唱。「いつも一生懸命に頑張っているのに上手くいかない人、誰かがありのままでいいんだよって言ってくれたら、少しでも楽になれるのにという歌です」と語ったピアノバラード「ありのままで」でも、やはり観客を見ながら〈キミはキミのままでいいんだ〉とエモーショナルに歌い上げた。

 ここからはアニメタイアップ曲コーナーに突入。「リクエストランキングでぶっちぎりの1位だった」というアニメ『盾の勇者の成り上がり』の第2クールEDテーマ「あたしが隣にいるうちに」では後半に迫力のアカペラを響かせ、アニメ『デジモンアドベンチャー:』の第1クールEDテーマ「悔しさは種」では、晴れやかな表情でステージを横断しながらクラップを煽り、オンエア中のアニメ『無能なナナ』のEDテーマ「バケモノと呼ばれて」では、アルバム収録音源とはまた異なる歌声を聴かせてくれた。音源では感情が前面に出ているが、ライブではそれが“歌”にしっかりと昇華されていた。歌ものとしてのクオリティが上がっていたのが、面白い発見だった。

 リクエストコーナー“その2”では、やはり彼女の視線に目がいった。自身のアコギとボーカルのみで歌い始めた「勝手にひとりでドキドキすんなよ」、ナチュラルな“千愛節”が飛び出した「あさぎ」、「久しぶりに歌うタオル曲です! みなさん、人間扇風機になってください!」と呼びかけた「hane」。彼女は歌いながら、笑顔で客席をしっかりと見つめている。意識的にそうしていたのかどうかはわからないが、ライブ中に走り書きしているメモを振り返ってみると、結果的に、リクエストコーナーで彼女は観客をよく見ていたことがわかった。

 そして、本編最後の曲「誰も知らない」を前に彼女はこう語った。

「みんなもきっと感じたと思うんだけど、コロナで家でじっとしていた時に、他のみんなの時計も同じように止まっているはずなのに、自分だけ置いていかれているような錯覚になって落ち込んだりしました。そんな時に、私は歌手だから、こんな時にこそ歌にしかできないことがあるはずだと思って作った曲です。いまだに明日がどうなるかわからない毎日だけど、私の歌が、みんなの胸に灯る勇気の燃料になることを願ってます」

 〈今夜くらい希望を歌えたらな〉という歌う彼女の声はきっと、この日、集まった観客の心の中に残り、勇気の火を灯す燃料となることだろう。そのくらい、この音楽を“あなた”に届けたいんだという気持ちがひしひしと伝わってくるライブだった。

 アンコールでは、3枚のアルバムのボーナストラックに入っているロックバンドのカバー曲を連発した。クリープハイプ「オレンジ」、ASIAN KUNG-FU GENERATION「遥か彼方」で疾走感とスピード感をあげ、銀杏BOYZ「援助交際」では唱歌のような独特の節回しも見せつつ、全てのエネルギーを放出するかのように雄叫びをあげ、「東京」のイントロを挟み、この日一番と言ってもいい満面の笑顔で2周年記念ライブの幕を閉じた。

 彼女が最初に語っていたように、ソロシンガーとして活動を始めた2年の間にあった様々な事柄、喜びや悲しみ、そして、応援してくれるファンへの感謝も含んだようなステージだった。何より、喜びが増しているのがこれまでとの違いだろう。音楽を自分の好きなタイミングで、好きなように、自分らしく楽しめるようになった彼女は、ここからきっとまた変わっていくだろう。サポートバンドはロックが似合うし、観客も盛り上がりやすいが、ブラックミュージックを消化した歌謡ソウルやジャズ、シティポップなどのグルーブをもっと求めたい気持ちもある。藤川の等身大の歌詞と抜群の歌唱力という持ち味を武器に、これからどんな変化をしていくのか。12月6日から始まる初の全国Zeppツアーがその第一歩となるだろう。

■永堀アツオ
フリーライター。音楽雑誌「音楽と人」「MyGirl」、ファッション雑誌「SPRiNG」「Steady」「FINEBOYS」などでレギュラー執筆中。「リスアニ!」「mini」「DIGA」「music UP’s」「7ぴあ」「エンタメステーション 」「CINRA」「barks」「EMTG」「mu-mo」「SPICE」「DeVIEW」などでも執筆。

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