Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

樋口尚文 銀幕の個性派たち

山本昌平、悪相を超えた凶相の帰還

毎月連載

第39回

19/12/19(木)

写真提供:オフィス山本

そもそも悪相を売る悪役たちは、おおかたの娯楽映画では主人公の引き立て役に徹して、クレジットさえされないことも多かった。往年の撮影所では大部屋の俳優たちがそれを粛々と担っていたわけだが、70年代に東映の“ピラニア軍団”がスポットを浴びて以来、そういう名もなき悪役たちが珍妙なるキャラクターとして注目される機会も多くなった。そして、“ピラニア軍団”が映画やドラマやCMでひとしきり活躍して悪役が市民権を得た後、それに入れかわるように80年代前半に八名信夫を代表とする“悪役商会”が立ち上げられて話題となった。“ピラニア軍団”はギラギラと張り出そうとする悪役たちの勢いを発していたが、“悪役商会”はもっとダンディかつジェントルで、長年にわたって老人ホームや刑務所の慰問を続けるようなグループだった。

ともあれ物騒な顔だらけの“悪役商会”に一時参加していた山本昌平は、なかでも実にみごとな悪相(もはや凶相と言うべきか)ぶりだった。山本は1938年に日本領有時代の台湾は澎湖島で生まれ、終戦時は海南島にいた。福岡の中学を経て、57年に東京の下町の定時制高校を卒業して劇団七曜会の研究生となり、明くる年には劇団三期会の演出部に入る。ところがなんと61年にはコメディアンとなって3年にわたり坂上二郎らとともに浅草フランス座の舞台に立った(ちょうどビートたけしがここにやって来る10年前のことだ)。この笑わせ稼業から一転、フリーとなった山本は60年代の残りの時間をピンク映画に捧げることになった。記録によればその最初は1964年の東京オリンピック終了直後に公開された『夜だけの未亡人』だったようだが、以後、山辺信雄監督(後に谷ナオミや東てる美のマネジメントをつとめて東と結婚もした)のヤマベプロ作品『裸の復讐』『泣き濡れた処女』『いそがしい肉体』『肉地獄』『花と蛇より 肉の飼育』などに数多く出演したほか、国映、若松プロ、葵映画、大蔵映画、六邦映画など各社をまたいで出まくった。そんななかには『残酷異常虐待物語 元禄女系図』などの東映作品も含まれているが、どれもこれも全てが悪人、犯罪者というわけではなく、若松孝二監督『日本暴行暗黒史 異常者の血』や石井輝男監督『温泉あんま芸者』などでは警官、刑事を振られていたが、どちらにしても強面には変わりない。

一説によると山本は二百本近いピンク映画に出演しているそうなのだが、ついには演ずるだけに飽き足らず、梅沢薫監督『肉体ハイジャック 殺しの前の快楽』、小林悟監督『女絞交悦』の脚本を(岡田昇平名義)を書いていたりもする。ところが面白いのは、72年ごろ、こうして仕事に打ち込んできた山本は、会社と意見が合わなくったのをきっかけとして一時俳優を廃業してしまう。映画界と縁を切った山本は、なんと船員になって稼ぎ、妻子を食べさせていたのだが、74年、東映で『暴力街』を撮ろうとしていた五社英雄監督が出演を要請したいと思い、音信不通となっていた山本を探り当てた。

山本はこうして五社が探してくれなかったら、以後の自分は俳優には戻っていなかったであろうと語っていたが、逆にこの再起を契機として映画にドラマに精力的に出演するようになった。折しも映画界は不振だったので『女必殺拳 危機一発』のような印象的な作品もあったものの、仕事の多くはテレビ映画であったが、それらは『バーディー大作戦』『ザ★ゴリラ7』『太陽にほえろ!』『Gメン‘75』『夜明けの刑事』『特捜最前線』『大追跡』『七人の刑事』『大空港』などの刑事物、アクション物のシリーズや『水戸黄門』『江戸を斬る』『大江戸捜査網』『桃太郎侍』『花神』などの時代劇シリーズといったメジャーな人気番組づくしであった。すっかりお茶の間に知れ渡る“あの悪役”となった山本だが、こうして人気メジャー作品に引っ張りだこの70年代半ば以降は、ピンク映画の異色篇に出まくっていた60年代とはまるで対照的であった。やはりピンク映画でひと暴れして、テレビで人気バイプレーヤーとなった山谷初男にも似ているコースだ。

しかしあの凶相にしてごく優しい人物像がしばしば語られる山本らしい仕事は、『コンドールマン』『ザ・カゲスター』『プロレスの星 アステカイザー』『快傑ズバット』『スターウルフ』などの子ども向けヒーロー番組での熱演で、とりわけ『電撃戦隊チェンジマン』のギルーク司令官の演技は子どもたちの人気をつかみ、ヒーローに倒されても蘇る設定にされてしまうほどだった。

晩年の山本はあの鋭い眼光も和らぎ、本来の人柄のよさがにじむ顔だちに変わっていたが、幼少時から得意なハーモニカを携えて老人ホームを慰問していたという。2019年10月に鬼籍の人となったが、膨大な作品で悪役に打ち込む姿はファンの心から消えることはないだろう。



プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ)

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』、新作『葬式の名人』が9/20(金)に全国ロードショー。

『葬式の名人』(C)“The Master of Funerals” Film Partners

『葬式の名人』
2019年9月20日公開 配給:ティ・ジョイ
監督:樋口尚文 原作:川端康成
脚本:大野裕之
出演:前田敦子/高良健吾/白洲迅/尾上寛之/中西美帆/奥野瑛太/佐藤都輝子/樋井明日香/中江有里/大島葉子/佐伯日菜子/阿比留照太/桂雀々/堀内正美/和泉ちぬ/福本清三/中島貞夫/栗塚旭/有馬稲子

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む