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『GIGANT』長嶋はなぜブリーフを履いているのか? 散りばめられたオマージュ/パロディを紐解く

リアルサウンド

21/1/30(土) 10:00

 巨大化して世界を脅かす変異と戦うセクシー女優と映画監督志望のどこにでもいる内気な高校生との恋愛模様を描いた漫画『GIGANT』も早いもので7巻の刊行を迎えた。最新刊では世界を襲う変異の正体と、それに対抗する存在たちの正体が一気に明らかになり、ようやくこの物語の構造が見えてきた。

 以前『GIGANT』に関しては少し不思議な世界観の中で、パピコの可愛さを楽しめばいいと書いたが(生身の女性が巨大化して戦う『GIGANT』は奥浩哉版『ドラえもん』か? 「すこし、不思議」な作風を考察)、正直7巻を読むとそんな悠長なことが言ってられなくなるくらい、いろんな要素が詰め込まれまくっている。キーワードだけを並べてもけっこうな数になるし、それでほぼネタバレになってしまう。正直、割と物語の核心が解明されるこの巻の話をその要素を避けて通りながら話すことは不可能に近い。

オマージュ、パロディ要素

 さて、どうしたものかと思ったが、この作品はジャンルを問わず本当にいろんな作品のオマージュ、パロディが多い。正直それだけをひたすら探して読んでいても十分楽しめるくらい、至るところにそれを思わせる描写が散りばめられている。

 それをやりながらも作品として破綻しないで一つの世界観を作り上げているのは、ひとえに奥先生の画力と構成力の賜物なのだろうと思う。やはりこの漫画は、どこまでいってもパピコと零の恋愛漫画なのである。7巻でこれだけのSF、空想特撮的な話をてんこ盛りにしても、基本はお互いを思うパピコと零のピュアな気持ちの通い合いが主軸である。だからこそ零は、パピコのために精一杯生きて、パピコはそんな零を、零と零がいるこの日常を守るために戦うのである。

 では、そんな二人の日常を脅かす脅威、ETEの真の姿と目的とは。そしてそれに対抗しうる力、それを授けた謎の人物たちの正体がいよいよ7巻で明らかになる。パピコに巨大化する能力を与えたブリーフ姿の長嶋。そして彼を大佐と呼ぶ長嶋同様の姿をした4人は未来から来た未来人だったのだ。まあ、白下着の上下にヘルメット、背中にはランドセルと、その見た目と行動を見れば、一般人でないことは明らかだったが、彼らの目的は歴史を変えることだった。

 未来、人類滅亡の危機を原因となっているETE。もはや人類の手に負えない怪物と成り果てたETE打倒の手段として、まだETEが人類滅亡というジャッジを下す以前の段階、手に負えるうちに打倒するために過去にやってきた。まあいろんな作品で見かけたことのある設定ではある。この辺を深掘りするとタイムパラドックスや並行世界の話が出てきたりして、SFに馴染みがない人にそれらを説明するとそれこそ文字数がいくらあっても足りない。この未来人が説明した状況をわかりやくほかの漫画でいうと、ドラゴンボールのセル編なんかがまさにそう。と、ここで重要な事実に気づいた。

 だから長嶋はブリーフを履いていたのか!!

 なんてこった。まさか1巻ですでにこれだけの伏線を張っていたとは……。しかも未来人がETEの存在について語るくだりでは、わざわざパピコにドラえもんのことを喋らせることによって、読者の思考をドラえもんに集中させることで、ドラゴンボールへ思いが巡らないように自然に誘導している。もっとも、別にセル編のパロディ、オマージュと知られたところで特に害があるわけでもないのだが……。そうなってくるとこの作品は単にパピコと零のピュアな愛の行方だけに注目するのではなく、藤子不二雄のS.F、ウルトラマンなどの特撮、ドラゴンボール、ほかにどんなオマージュ、パロディが含まれているのかというのを探す楽しみも出てきてしまった。たぶん改めて1巻から読んでいったら初見では発見することのできなかったネタが、まだまだそこかしこに散りばめられているのかもしれない。

 最後に、ETEの存在を語る上で一つのキーワードになるのがどうやら「シンギュラリティ」になるのではないか。昨年放送していた『仮面ライダーゼロワン』にも出てきたワードであるから、近年耳にする機会も多くなっているし、知っている方もいるだろう。割と我々の身近にも迫ってきている話ではあるので、興味がある人は調べてみることをおススメする。

■関口裕一(せきぐち ゆういち)
スポーツライター。スポーツ・ライフスタイル・ウェブマガジン『MELOS(メロス)』などを中心に、芸能、ゲーム、モノ関係の媒体で執筆。他に2.5次元舞台のビジュアル撮影のディレクションも担当。

■書籍情報
『GIGANT(7)』
奥浩哉 著
価格:本体660円+税
出版社:小学館
公式サイト

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