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「このすば」シリーズ、大人気のうちに完結へーーサトウ・カズマ、最弱なのに最高の主人公たりえた理由

リアルサウンド

20/5/12(火) 8:00

 《異世界かるてっと》で最も弱くて最も外道な主人公を挙げるなら、暁なつめ『この素晴らしい世界に祝福を!』シリーズのサトウ・カズマをおいて他にいない。異世界に転生する際に女神を地上に道連れにする。モンスターを退治に行けばパーティ仲間をおとりに使う。持っているスキルも窃盗や潜伏といった卑怯なものばかり。それなのに《異世界カルテット》きってのモテ男でもあるサトウ・カズマの真骨頂、そして『このすば』シリーズの面白さが、最終巻となる『この素晴らしい世界に祝福を!17 この冒険者たちに祝福を!』(スニーカー文庫)で、これでもかとばかりに発揮された。

関連:【画像】『異世界かるてっと』4作品の各1巻書影

 丸山くがね『オーバーロード』、カルロ・ゼン『幼女戦記』、長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』、そして暁なつめ『この素晴らしい世界に祝福を!』という、KADOKAWAから刊行されて人気の異世界転移・転生ライトノベル4作品がクロスオーバーしたアニメが『異世界かるてっと』。その主人公は『オーバーロード』のアインズ・ウール・ゴウンも、『幼女戦記』のターニャ・フォン・デグレチャフも、圧倒的な魔法の力を振るって敵を蹂躙する。

 『Re:ゼロから始める異世界生活』のナツキ・スバルも、目つきこそ悪いが実直な性格で、好きになった少女たちを助けようとして、死んで時間を戻してやり直す”死に戻り”の能力を駆使し続ける。『このすば』のサトウ・カズマはどうか? 異世界転生のお約束であるトラックに轢かれるどころか、迫るトラクターに心臓麻痺を起こして死んでしまう。ああ情けない。

 そして、あの世で転生を担当する女神アクアに、与えると言われた万能の力を望まず、アクア自身を希望して地上へと引き連れ、生前の記憶や姿を保ったままアクセルという街に降り立つ。文字通りに女神をも恐れぬ所業だが、サトウ・カズマの主人公らしからぬ振る舞いはこれに止まらない。いちおうは冒険者となったカズマが、転生の目的とされた魔王討伐に成功したら、アクアは晴れてお役御免となって天界に帰れる。ところがカズマはそうした気概をまったく見せず、アクセルの街でアクアとともに凍てつく馬小屋に寝泊まりしながら、その日暮らしの毎日を送っている。

 カズマが女神アクアを虐げていると思った、カズマと同じ転生者で魔剣を授かったミツルギから決闘を挑まれるが、そこでは憶えたスティール(窃盗)のスキルを使って魔剣を奪い、すぐさま売り飛ばして金に換える。スティールを教えてくれたクリスという少女に対しては、訓練だからと盗られた財布をスティールで取り戻そうとしてパンツを奪い、それをネタに有り金全部を巻き上げる。

 なんという外道! なんという卑劣! それなのにカズマの周りには、アクアに限らず大勢の少女たちが集まってくる。

 めぐみん。魔法使いでも上級のアークウィザードの少女で、人類最強の攻撃魔法とされる「爆裂魔法」が使えるが、それしか使おうとしないためどこのパーティからもお呼びがかからない。つまりはポンコツ。食べる物にも困り、アクセルの街をさまよっていた所でカズマとアクアに出会い、押しかけるようにして仲間になる。

 ダクネス。こちらもナイトの上級職にあたるクルセイダーで、胸の薄いめぐみんとは正反対の豊満な体つきの美少女で、あらゆる攻撃をその身に受けて傷ひとつ追わない頑丈な肉体を持っているが、繰り出す攻撃は相手にひとつも当たらない。やはりポンコツ。酷い目にあうことを望んでいて、カズマが仲間を巨大なカエルに飲み込ませて粘液まみれにしたり、クリスのパンツを奪って辱めたりする姿に興奮し、パーティへの参加を希望する。

 アクア自身も、アークプリーストとして強い悪霊浄化の力は使えるものの、カズマに感化されたか元からの性格か、安楽な暮らしを望んで働くのを嫌がり酒に浸って日々を過ごす。たまにカズマたちの役に立とうと行動し、敵の魔王軍幹部が苦手な水を女神の力で溢れさせてはアクセルの城壁を破壊し、報奨金に劣らない賠償金を求められてカズマたちを呆れさせる。つまりはポンコツ。それでもカズマが魔王を倒さない限り、天界には戻れないためカズマといっしょに行動し続ける。

 一騎当千の力を持った少女たちでいながら、大きく抜けたところがあるだけにカズマも嬉しくないのかというと、そこはやはり主人公。爆裂魔法を1発打っては、魔力切れで倒れるめぐみんを担いで家へと運んで帰り、実は大貴族の令嬢だったダクネスが政略結婚させられようとすれば、邪魔をしてパーティへと連れ戻す。通った後は何も残らない最悪の兵器「機動要塞デストロイヤー」が迫った時も、逃げないでめぐみんやダクネス、アクアらと迎え撃ち、破壊してアクセルの街を守り抜く。

 下劣で卑怯に見えて、最後にはしっかり活躍してみせるからこそサトウ・カズマは少女たちに好かれるし、《異世界かるてっと》にあってシリーズ累計900万部という最高の売り上げを誇る物語の主人公たりえる。その真骨頂が、シリーズ本編の最終巻『この素晴らしい世界に祝福を!17 この冒険者たちに祝福を』に現れた。いつまでも魔王討伐に向かわないカズマを見限ったか、アクアがひとりで魔王を退治すると書き置きを残し、パーティの拠点から家出してしまう。

 向かった先は魔王城。アクアを信奉する魔剣の周囲の人々が助けに行こうと言い出すのを横に置き、カズマは動こうとしなかったが、結局は立ち上がってめぐみんやダクネスを連れ、魔王城を攻め城を守る幹部たちを蹴散らし、魔王との決戦に臨む。自ら決着をつける必用などなかったにも関わらず、信頼されると分かり、期待されているとも知って最終的には最前線へと躍り出る。最弱に近くても種類だけは多彩なスキルを駆使し、これだけは最強かもしれない、女神のひいきによる死からの復活という特典をなげうってでも戦い続けるその姿は感動もの。高い高揚感に浸れるクライマックスだ。

 1発打ったら終わりだったはずのめぐみんの爆裂魔法が、カズマの配慮によって無制限に放たれる場面は、映像になったらいったいどれだけの迫力か。めぐみんが大活躍した劇場アニメ『映画 この素晴らしい世界に祝福を!紅伝説』に集まった「ナイス、爆裂!!」の賛辞が、何百倍にもなって全世界から寄せられるに違いない。第2期まで行ったテレビアニメのシリーズが作られ続け、映像でも完結に至ることを心から期待したくなる。

 物語自体も、本編こそこれで完結となりながら、魔王がカズマと同じように日本人に似た名前を持っていることや、王都を攻めたものの撃退されて魔王城に戻ったら、爆裂魔法で追い打ちをかけられえた魔王の娘のその後といった、気になるところも多々あって、『続・この素晴らしい世界に爆焔を!』のようなスピンオフでの展開が欲しくなる。カズマはめぐみんと結ばれるのか、それともアクアかダクネスか別の誰かに気を移すのかといった、恋路の“その後”も知りたくなる。

 とはいえ、作者が第1巻のあとがきに書いた、「どこにでもいる人間臭くも平凡な主人公が、過酷な異世界で理不尽な現実にあらがいながら、クセのあるヒロイン達を引き連れて頑張る物語」は終わりを迎えた。第17巻のあとがきにあるように、「ここまで頑張ってきたカズマには、しばらくの休息と平穏な暮らしを送らせて」あげたい。

 だから今はこの言葉を贈ろう。『この素晴らしい世界に祝福を!』完結に心からの祝福を!

(文=タニグチリウイチ)

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