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『ヴェノム』続編監督にふさわしい!? “モーションアクター”の第一人者、アンディ・サーキスの可能性

リアルサウンド

19/10/7(月) 12:00

 マーベル・コミックの凶悪キャラクターを主人公にして大ヒットを記録したアクション大作映画『ヴェノム』(2018年)。その続編の監督として発表されたのは、アンディ・サーキスだった。監督としてより、“モーションアクター”の第一人者として知られている映画人だ。そんなサーキスが、じつは期待の続編に最もふさわしい監督ではないか。ここでは、そう思える理由を考えていきたい。

参考:『ヴェノム』はなぜ批評家と観客の間で評価の違いが生じたのか? 『ブラックパンサー』と比較検証

 続編の候補には複数の名前が挙がっていた。一人は、ストップモーション・アニメーションの制作会社「ライカ」のCEOであり、『 KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(2016年)や『バンブルビー』(2018年)を成功作へと導いたトラヴィス・ナイト監督。そして、『猿の惑星:創世記』(2011年)や、ギャンブルの魅力やおそろしさの本質を鋭くえぐった名作『ザ・ギャンブラー/熱い賭け』(2014年)を撮りあげたルパート・ワイアット監督である。

 そんなそうそうたる顔ぶれを差し置いて大作をまかされることになったサーキス。たしかに、近年は出演もしていた『ホビット』シリーズでセカンドユニット監督を務めた後、正式な監督として2作の長編映画を手がけているなど、監督業のキャリアを積み上げてきている。

 Netflixでの配信作品となった、監督としての最新作が、小説『ジャングル・ブック』を原作とした『モーグリ:ジャングルの伝説』(2018年)である。ここでは、サーキスの代名詞である、人体の動きなどをデジタルデータに変換する技術“モーションキャプチャー”か駆使された。クリスチャン・ベール、ケイト・ブランシェット、ベネディクト・カンバーバッチ、ナオミ・ハリスら名だたる俳優、そしてアンディ・サーキス自身が登場する動物の表情を演技し、記録したデータをCGで造形されたキャラクターの動きに活かすことで、俳優たちに“人間ならざるもの”を演じさせたのだ。

 サーキスがモーションキャプチャー俳優として名を馳せるようになったのには、ピーター・ジャクソン監督との出会いがあった。VFXを制作する会社“WETAデジタル”を作り上げているジャクソン監督は、代表作となる『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズに登場するキャラクター“ゴラム”にリアリティと豊かな感情を通わせるため、すでに先端的な技術として各分野で注目を集めていたモーションキャプチャーを使った演技をサーキスに要求したのだ。

 ゴラムは、身体の小ささはもとより、裸同然の格好で、体じゅうの骨が浮き立っているほど痩せているという特徴的な容姿から、生身の人間がそのまま演じることは難しい。かといって、すべてをCGで表現すると、少なくとも当時の技術では、生身の俳優たちとの共演シーンに不自然さを感じる仕上がりになってしまう。試行錯誤のなか、モーションキャプチャーとサーキスの迫真の演技が生んだゴラムの動きは、観客に衝撃を与えることになった。CGキャラクターに、いままでにない生身のような精細な感情表現が与えられたのだ。多くの制作会社がこの技術を多用するようになり、いまとなっては珍しくない技術になったが、ゴラムが登場するシーンは、新たな映画の歴史が始まったと思えるほどのインパクトがあった。

 その後サーキスは、『キング・コング』(2005年)のコング、『猿の惑星』シリーズのシーザー、『GODZILLA ゴジラ』(2014年)のゴジラ、『スター・ウォーズ』続三部作の最高指導者スノークと、“モーキャプ俳優”第一人者として重要な役を次々に演じることになった。年月が進むごとに技術も進化し、集大成といってもいい『猿の惑星』シリーズ最終作『猿の惑星:聖戦記』(2017年)では、多方面からシェイクスピア劇に例えられるような名演を見せた。

 だが、歴史が古く保守的な面を持つ米アカデミー賞は、“生身で出演していない”という理由から、これほどまでの表現を見せたサーキスを、男優賞にノミネートすることすらしなかった。だが、同じく『猿の惑星:聖戦記』に出演していた、アカデミー賞にノミネートされた経験をもつウディ・ハレルソンは、サーキスの演技に畏怖の感情すら覚え、「彼が言葉を使わずにどれだけの力を伝えるかを目にして、驚いた。目で感情を伝える、あれほど飛びぬけた能力を見るのは初めてだった。役者として、彼を誰と比較できるか見当もつかない」とまで語っている。

 そんなサーキスが、初めて長編映画の正式な監督として撮り上げた作品が、自身のプロダクション共同経営者の、難病を患った家族の物語を映画化した『ブレス しあわせの呼吸』(2017年)だった。難病により身体のほとんどが動かせなくなった人物の苦痛や希望を、アンドリュー・ガーフィールドが熱演している作品だ。その演技にモーションキャプチャーはもちろん使用されないが、ベッドに寝たきりになって声を発することもできず、長く生きられないと言われた主人公が、様々な技術や周囲の助けによって人生の楽しみを取り戻していく姿は、テクノロジーによって身体の可能性を広げることになったサーキスの境かつ遇と近いところがある。

 モーションキャプチャー技術を利用することで、演じたい役柄と容姿が異なるという問題を超越することができる。サーキスはアメリカのメディアで、それによって演技の可能性が広がることを、「問題は、それが倫理的に正しいかどうか」と付け加えた上で、「白人以外の人種の俳優がリンカーン大統領を演じることができるし、白人である私も、キング牧師を演じることができる」と語っている。人種にまつわる部分については、もちろん歴史を踏まえた判断が必要になるが、技術によって純粋な演技力で俳優が評価される未来が実現可能であることはたしかなのだ。

 サーキスが続編を撮ることになった『ヴェノム』は、主人公が邪悪な見た目の地球外生命体 “シンビオート”に、ときに身体を乗っ取られたり、ときに協力し合いながら、より強大な悪と戦うという内容だった。おそろしい姿の生命体を纏(まと)うという、かっこよさのなかに、どこか“中二病”感漂う雰囲気が愛らしい。

 面白いのは、第1作ではモーションキャプチャーが使われず、グリーンバックすら基本的には使用しないスタイルで、実写そのものにCGを加えていくという製作方法である。仮にこの手法をそのままに踏襲するのならば、サーキスの代名詞が活かされないのではという見方ができる。

 だが『ヴェノム』における、“他者の力によって自分の可能性を広げる”という感覚や、“自分がいままでの自分でない”、しかし“それでもそれは自分たり得る”という、作品にとっても重要な要素は、『ブレス しあわせの呼吸』同様に、サーキスのキャリアと本質的な部分で合致するのではないか。

 姿の異なる自分という、一種の哲学ともつながっていくような存在を、真に実感をともないながら考えてきた映画監督は、アンディ・サーキス以外にいないだろう。その経験や能力をフルに活かすことができれば、『ヴェノム』続編は画期的な作品になるのではないか。サーキスが新たに、魂をCGに込め、新たなヴェノムを表現してくれることを楽しみにしている。(小野寺系)

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