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ヴィジュアル系におけるメタルサウンドの移り変わり X JAPANからLUNA SEA、DIR EN GREY、DEZERTまでを総括

リアルサウンド

19/11/30(土) 8:00

 ヴィジュアル系は、ひとつのバンドどころかひとつの曲でさえさまざまな音楽的要素を取り込んでいることが多く、特定の音楽ジャンルに分類するのは困難だ。それでも、音楽的にいくつかの流れがある。そのうちのひとつがメタルだ。

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 ヴィジュアル系の音楽性には当初からメタルが深く関わっている。X JAPANはもちろん、のちのヴィジュアルシーンに強い影響を与えたDEAD ENDやAIONはジャパメタシーンと紐付いていた。そして現在も、メタルはヴィジュアル系シーンで強い存在感をもつ。そこで、今回はヴィジュアル系をメタルという視点から整理していく。

1980年代~1990年代:メタル+ハードコア/パンク
 ヴィジュアル系黎明期に活躍した、X JAPANを代表とするエクスタシーレコードの面々は、HR/HMやスラッシュメタル、メロディックスピードメタル(以下、メロスピ)といった、欧米で1980年代~1990年代前半に興ったメタルと音楽的に共通点がある。たとえば、X JAPANの「BLUE BLOOD」(1989年)では、スラッシュメタル的なギターリフとスピード感が聴ける。また、「紅」(1989年)でのシンフォニックな疾走感は、Helloweenをパイオニアとするメロスピに通じるものがある。ただし、YOSHIKIのドラミングは“Dビート”と呼ばれるハードコア由来のものに近い。Dischargeが始祖となる、つんのめるようなこのリズムが、X JAPANにしか表現できない破滅の美しさのひとつの要因だろう。さて、X JAPANは、GASTUNKなどの日本のメタリックなハードコアバンドと交流があった。また、エクスタシーレコードに所属していたTOKYO YANKEESは日本のMotörheadと言われることもあるが、Motörheadはメタルにパンクを持ち込んだとされるバンドのひとつだ。この時期のヴィジュアル系メタルには、ハードコア/パンクの影響も強かったといえる。

1990年代後半~:耽美系メタル
 ヴィジュアル系の始祖たちの風貌や行動と、“ヤンキー精神”とは共通点があるとよく指摘される。一方で1990年代後半になると、近世ヨーロッパなどの“非ヤンキー”的な耽美さをメタルに取り入れるバンドが登場した。パイオニアはMALICE MIZERだろう。「ヴェル・エール ~空白の瞬間の中で~」(1997年)でのツインギターは、ヴィジュアル系耽美メタルの幕開けを感じさせる。その後、「花咲く命ある限り」(1999年)などでHelloweenの影響を刹那的な表現で昇華したRaphaelや、やや時代を下って「闇より暗い慟哭のアカペラと薔薇より赤い情熱のアリア」(2005年)などでスラッシュメタルに歌劇的な要素を組み合わせたDが頭角を表した。また、2007年始動のVersaillesによる、イングヴェイ・マルムスティーンを代表とするネオクラシカルメタルの系譜にある美しいギターハーモニーと、演劇的な歌の組み合わせは、“薔薇の末裔”というコンセプトもあわせて、ヴィジュアル系耽美メタルのひとつの完成形といえる。2005年に始動し、初期には“新興宗教樂團”を名乗っていたNoGoDも、キャラクター性の高いメタルという点で彼らに共通するところがある。2007年結成の摩天楼オペラなどが得意とするシンフォニックな要素も、この流れの特徴のひとつだ。

1990年代前半~2000年代前半:ツタツタ系
 エクスタシーレコードの一員だったLUNA SEAは、メタル以上にポジティブパンクの要素をもっていた。そのLUNA SEAの「SHADE」(1989年)に類する、黒夢の「親愛なるDEATHMASK」(1993年)は、高速ツービートに邪悪なフレーズと絶叫が乗る曲で、初期のブラックメタルに近い質感をしている。取りようによっては、デスメタルを高音側にスライドしたような曲でもある。この独特の音楽性は数々のフォロワーを生み、“ツタツタ系”というサブジャンルとして発展していった。

2000年代:ニューメタル
 その“ツタツタ系”を活動初期から得意としてきたDIR EN GREYは、2002年にミニアルバム『six Ugly』とシングル『Child prey』を発売した。いずれも、KORNやSlipknotを代表とする、1990年代前半にアメリカで発生した新たなジャンル・ニューメタルに通じる作品だ。ニューメタルは、ヒップホップやファンクなどから取り入れたリズムに乗せた、グルーヴィな重低音が大きな特徴のひとつだ。この特徴が、ヴィジュアル系のヘヴィシーンに一気に普及した。MUCC、the GazettE、lynch.といった、現在いわゆる“ラウド系”として第一線で活躍しているバンドの多くはこの系譜にあたる。とくにMUCCは『愁歌』(1999年)で、すでに昭和歌謡とKORNを融合したような独自の音楽性を聴かせている。歌詞の重さもあって、ヴィジュアル系でもっとも“重い”バンドはMUCCという認識のリスナーは多かった。lynch.の葉月(Vo)が在籍していたDEATHGAZEも、同様にヘヴィなヴィジュアル系の代名詞だった。the GazettEは初期から意図的にヒップホップ要素を取り入れていたことからわかるように、ニューメタル的なグルーヴの名手だ。その他、数多くのバンドがこの音楽性に追従した。“ツタツタ系”と融合した振り回すような重低音を駆使する曲も多かったのは、ヴィジュアル系ならではだろう。

 なお、DIR EN GREYは2005年のドイツ公演を始めとして、数々の国外メタルバンドと共演。世界における日本のヘヴィミュージックの最前線としての地位を獲得する。その後、彼らはOpethのプログレッシブ/フォークな側面を取り入れながら、世界にも類をみない存在となっていく。国内への影響力もさらに強め、混沌とした攻撃性と美しいメロディの組み合わせという、ひとつの大きな流れを形成していった。

2010年代:メロディックデスメタル/メタルコア
 欧米ではニューメタルブームが落ち着いたころに、メロディックデスメタル(以下、メロデス)とハードコアの要素をかけあわせたメロディックメタルコア(以下、メタルコア)が登場した。Killswitch Engageが有名で、彼らはDIR EN GREYにも影響を与えている。

 日本では、まず2000年代後半からメロデス風のツインギターの慟哭ハモリフレーズを使うバンドが台頭した。その代表がSadieだ。2008年発表の「Crimson Tear」は、ボーカルこそクリーンだが、バッキングはメロデスといっていい。また、MUCCが2009年に発表した「咆哮」も同系統の曲だ。両者ともニューメタルを拡張していく中でメロデスを取り込んでいったタイプと言える。

 同時期に、メタルコアのパイオニア・DELUHIが登場する。2008年発表の「HYBRID TRUTH」で、メタルコアの特徴であるドラムと同期して縦に刻むリフを披露した。その後、これまでニューメタルを得意としていたバンドもこの要素を取り入れだした。the GazettEが2011年に発表した「RUTHLESS DEED」では、すさまじい重低音によるダウンリフが聴ける。lynch.は2011年発表の「I BELIEVE IN ME」(同名アルバム収録曲)で、メタルコアの大きな特徴となるブレイクダウンを披露した。こうした経緯もあってか、ヴィジュアル系メタルコアの音楽にはニューメタルのグルーヴが残っていることが多い。

2010年代後半:デスコア
 ニューメタルの系譜外から登場した、新たな流れがデスコアだ。カリフォルニア州のSuicide Silenceらが有名なジャンルだが、ヴィジュアル系ではNOCTURNAL BLOODLUSTがパイオニアとなった。もともとヴィジュアルシーン外でデスコアバンドとして活動していた彼らだったが、2012年に装いを新たにして『Ivy』を発表。人気を獲得していく中でヴィジュアル系デスコアという概念をシーンに浸透させた。その後、デスコアを独自の暴力性で追求するDEVILOOF、混沌とした狂気と冷徹な構築美を併せもつDIMLIM、広大なスケール感を聴かせるDEXCORE、DA PUMP「U.S.A.」のカバーも話題になった超技巧派・JILUKAなどが現れ、ジェントやテクニカルデスメタルも取り込みながら、それぞれのオリジナリティを発揮してシーンを盛り上げている。

2010年代:根強いニューメタル
 その一方で、2010年代に入ってからもニューメタルを得意とするバンドが登場し続けているのは、根強い人気の証拠だろう。たとえば、2011年始動のDEZERTは振り回すような重低音がひとつの特徴で、「あー。」(2016年)はKORN直系の曲だ。2014年始動のザアザアは「不幸の始まり」「水没」などでグルーヴィな重低音を聴かせている。2017年に始動したMAMIRETAのぶっきらぼうなギターリフも、2000年代後半の流れに通じるものがある。彼らは、ノスタルジックでグロテスクなイメージやニューメタル以外の音楽性の幅もあり、当時のMUCCや蜉蝣を現代の感性で独自に仕上げたとも取れる。なお、欧米では、2010年代に入ってニューメタルリバイバルが起きた。それは、Slipknotなどレジェンドたちのニューメタル回帰や、Bring Me The Horizonなどのデスコア/メタルコアバンドがニューメタルを取り入れたことを指す。ニューメタルの影響が長年続いている日本とは異なる状況と言える。もちろん、2018年に始動のNAZAREなど、デスコア以降の苛烈さとグルーヴィなノリを両立させているバンドはいる。

 ニューメタルでのメタルとラップという組み合わせは、欧米では2014年ごろに興ったトラップメタルなどに引き継がれた。日本でも、ラップとメタルを最新の感性で融合させるCHOKEが2017年に登場している。

 欧米のメタルの音楽性は、そのブームのおよそ5~10年後に日本のヴィジュアル系シーンに取り込まれてきた。とはいえもちろん、単に追従しているわけではない。ここまでに挙げた日本のバンドは、メタルのいちジャンルで語れるほど単純ではなく、それぞれ固有の音楽性を携えている。

 インターネットが発達し、欧米のメタルを参照するのはますます容易になった。モダンプログメタルやポストブラックメタル、最新のハードコアとの融合などがここ数年のメタルの流れだが、ヴィジュアル系の雑食性が、国外のメタルシーンに影響を与えることもあるかもしれない。今後もあらゆるメタルを吸収し、独自の音楽性を作りあげていくのだろう。(エド)

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