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新型コロナウイルスの影響で波乱の春ドラマは、手練れの脚本家が描く職場のアンサンブルに注目

リアルサウンド

20/4/2(木) 12:00

 オリンピックイヤーの幕開けのはずだった年始までは、誰も想像すらしなかった事態になっている。新型コロナウイルス感染拡大を受けて、TBSやNHKの連続ドラマが次々と撮影延期に。一例を挙げれば、4月10日に放送開始予定だった『MIU404』(TBS系)もスタートが遅れることになってしまった。しかし、キャスト、スタッフの感染予防のためには間違いなく英断。この決定で人気キャストのファンもひとまず胸をなでおろしたわけだが、同時に、この先を考えると、ドラマ制作はどうなっていくのかという不安も抱いてしまう。

参考:2020年4月期ドラマ、なぜ続編モノが多い? 『半沢直樹』『ハケンの品格』に膨らむ期待

 5月スタートになるのか、それとも7月クールにずれ込むのか(キャストのスケジュールを考えるとこれは難しい)。予想はできないが、4月2日現時点で、この春ドラマのラインナップを見渡してみると、今期の主流は“手練れの脚本家が描く職場の群像劇”になりそうだ。基本はお仕事ドラマであり、スペックの高い主人公を中心に個性豊かな同僚たちが対立したり協力したりする。そんな基本設定は共通しているだけに、脚本家の中園ミホ、黒岩勉、井上由美子、野木亜紀子といったヒットメーカーたちの技術と独自性が、改めて浮き彫りになりそうだ。

 4月15日(水)スタート予定の『ハケンの品格』(日本テレビ系)は、13年前のヒット作の続編で、スペイン語会話から助産師やふぐ調理師の免許まで、多種多様な資格を持つ万能の派遣社員・大前春子が、かつて働いていた食品商社に帰ってくる。脚本筆頭は前作と同じ、中園ミホだ。前作では篠原涼子演じる春子の無愛想だが優秀すぎる仕事ぶりがかっこいいとして熱狂を呼び、その路線は同じ中園作品の『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)に引き継がれていった。未知子や春子のように自分の高いスキルを武器に組織を渡り歩き、高い報酬を得るというヒロイン像は、男女の給与格差などジェンダーギャップの激しいこの国において痛快。春子から冷たくあしらわれる男性社員たち、“くるくるパーマ”の東海林武(大泉洋)や里中賢介(小泉孝太郎)らも健在で、男性のダメな部分も魅力的に描けるのが、中園脚本のうまいところ。デキる春子とダメダメな男たちという対比がわかりやすく、再び人気を獲得しそうだ。

 ただ、2019年にも同じように『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)、『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)と、約13年ぶりに再開したシリーズがあったものの、以前ほどのヒットにはならなかったので、この続編企画も大きな賭けではある。

 また、『グランメゾン東京』(TBS系)を成功させたばかりの黒岩勉が脚本を担当するのは『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』(フジテレビ系)だ。今回はオリジナルではなく漫画原作を基に、総合病院の薬剤師として働く葵みどり(石原さとみ)と同僚の薬剤師たちの姿を描いていく。職業意識の高いみどりは医師に負けないほど病気や病状に対する知識を持ち、患者が間違った薬を処方されないように動くが、それが医師を怒らせてしまう。そのみどりを守ろうとする上司、みどりに感化される新人、みどりを理解する先輩や親友など、単なる仲良しではない関係性が見どころ。ここでも『グランメゾン東京』でレストランのシェフたちの関係をバランス良く、秘密や裏切りも盛り込んで構成してみせた黒岩の手腕が発揮されそうだが、華やかな高級フレンチの世界とは違って、派手な発表の機会などがない薬剤師の物語だけに、盛り上がる場面をどう作っていくかという難しさもあり。さらに、黒岩は『アンサング・シンデレラ』にも出演する田中圭主演の『らせんの迷宮~DNA科学捜査~』(4月24日(金)スタート、テレビ東京系)でも脚本家の筆頭を務めている。今年、脚本家としてさらなる飛躍を果たすかが注目される。

 4月16日(木)スタートの『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)は2年ぶりの続編となり、木村拓哉主演で危険な要人警護をするボディガードたちの仕事ぶりを描く。脚本の井上由美子は本作第1章で木村拓哉と江口洋介、近作『シャーロック』(フジテレビ系)ではディーン・フジオカと岩田剛典が演じる男性同士のスリリングな関係を描き出してきた。今回も、木村演じる島崎章と島崎の古巣である警備会社を買収した劉光明(仲村トオル)の対立を描く。お仕事ドラマなら2003年のヒット作『GOOD LUCK!!』(TBS系)からの積み重ねがあり、木村拓哉の活かし方も手慣れたもの。島崎は優秀なボディガードであると同時に、思春期の息子に反発されるちょっと情けない父親でもあり、木村を単なるヒーローには設定しない。第1章ではそれでキムタク神話を知らない若い視聴者をも引き込んだ。今回は木村の前作『グランメゾン東京』(TBS系)の好評という追い風もプラスして、手堅く視聴率を稼ぎそうだ。

 そして、『半沢直樹』(TBS系)と並び、この春ドラマの大本命と言える『MIU404』は、『アンナチュラル』(TBS系)、『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)の野木亜紀子脚本。プロデューサー新井順子、塚原あゆ子監督との組み合わせは『アンナチュラル』と同じで、このチームが王道の刑事ドラマに挑むのが見もの。今回、野木はプロデューサー、監督にリクエストされ、この新ジャンルに挑むことにしたようだ。警視庁芝浦分駐所第4機動捜査隊で404号車に乗り込み、他の3チームのフォローに回る刑事を演じるのは、綾野剛(伊吹藍役)と星野源(志摩一未役)。ビジュアル的には、かつて見たことがないほどの“塩顔すぎるコンビ”で、伊吹と志摩のコミカルなやり取りはまるで令和版『あぶない刑事』といった印象も。しかし、物語は『アンナチュラル』と同じく、警視庁の働き方改革や様々な社会問題を盛り込みつつ、リアルベースで展開していく。

 野木は近作の人間ドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系)でもブラック労働問題を描いたが、実は『アンナチュラル』や本作のように科学捜査もの、刑事ドラマという既存のフォーマットを使ったほうが、社会への問題意識が強く出すぎず、視聴者に伝わりやすいかもしれない。野木をはじめ、ドラマ界のカッティングエッジを担う制作陣だけに、『MIU404』ではキャラクターに親近感を抱かせておいてからの震えが来るような神展開を期待したい。

 以上のように、今期は職場を中心に展開するお仕事ドラマがそろったが、現実には、新型コロナウイルス対策のため会社に出勤しないリモートワークが推奨されているというのは皮肉。社会の急激な変化にドラマがついていけていない感もしてしまうが、それだけに、今や失われた、仲間たちが和気あいあいと声をかけあいながら働く仕事場の描写を「懐かしい」「少し前までこうだった」と感動的に受け取ってもらえるかもしれない。(小田慶子)

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