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峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

イノマーさんに対する後悔

毎週連載

第122回

前回、「執着、未練、後悔って必ずしも悪いことじゃない」って話をしたけど、僕にとってここ数年で思い出せる後悔は、やっぱり一昨年の年末に亡くなったイノマーさんのこと。

イノマーさんが闘病しているとき、夜中に電話をもらってさ、2度出られなかったことがあったの。そのときのイノマーさんは入院していて、周りには奥さんのヒロさんやスタッフも看病していたはずだけど、それでも僕だけに何か言いたいことがあったんだと思う。でも、その大事な電話を僕は取ることができなかった。これは「ゴメンね」っていう後悔の気持ちが僕の中にずっとある。

でもさ、この後悔があるおかげで、ある意味ではイノマーさんが僕の中にずっと残り続けるってことでもある。電話を取りたくなくて取らなかったわけではないけど、このときの「悪かったな」って思う気持ち、後悔に思う気持ちってやっぱり悪いものではないと思うな。こんな風に僕が勝手に解釈しても、イノマーさんならたぶん笑って許してくれると思うところもあるしね。

イノマーさんが亡くなるまでの話は、今年の始めに『家、ついて行ってイイですか?』っていうテレビ番組で長めに紹介されて、すごい話題になってたね。イノマーさんが死ぬ瞬間まで映してたからね。本当にリアルだったな、あの番組は。

僕は生前のイノマーさんとは一度も真面目な話をしたことがなかった。すごい仲良くしてもらっていたけど、例えば「今バンドがうまくいってないんですよ」とか「バンド、この先どうしたらいいですかね」みたいな話は一度もしたことがない。逆にイノマーさんからも真面目な話をしてもらえたことがないんだ。

ふたりだけで会っててもさ、せいぜいする話としては「こないだこんなオナニーをやってみた」「とんでもないオナニーを開発した」とか、そんなんばっかり。別に申し合わせたわけではないけど、イノマーさんも僕もお互いに真面目な話をしないようにしていたし、また本当に辛かったりしんどい時期はあえて会わないようにもしてた。つい言っちゃいそうだったからね、本音とかキツい話を。

その点、イノマーさんも僕も最後までプロでいられたと思う。イノマーさんは人間・猪股昌也ではなく、カタカナの「イノマー」のまま。僕は僕で銀杏BOYZの「峯田」のまま。そういう付き合いだった。

イノマーさんががんになったことを知らされたとき、僕はイノマーさんに電話したんだ。そのときも「イノマーさん、がんらしいですね(笑)。面白くなってきちゃいましたね!」って言ったの。そしたらイノマーさんも「ヒヒヒヒヒ(笑)」って爆笑してた。「イノマーさん、今まで売れなかったけど、良かったですね。これでやっと売れますよ。がんで話題になったら」って言ったらまた爆笑してたよ。

イノマーさんは人前でズボンを脱いだり、「チン〇コがどうした」「オマ〇コがどうした」みたいなことばかり歌ってたけど、あれは無理をしてわざとやってたんだと思う。誰から頼まれたわけでもないのに、自分で自分に「バカでい続けること」を強いて、それに命をかけて貫いたんだよ。

そういう意味ではさ、プロ同士の付き合いのままイノマーさんとはお別れになってしまったとも言える。見方を変えれば、真面目な話を一度もしなかったことも後悔に捉えることもできなくはないけど。でも、いいんだ。そのことでやっぱりイノマーさんが僕の中では生き続けるんだから。

イノマーさんの演じるバカな感じ、僕は大好きでした。

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


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