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みうらじゅんの映画チラシ放談

『ファイナル・プラン』 『いとみち』

月2回連載

第63回

『ファイナル・プラン』

── 最初の作品はリーアム・ニーソン主演の『ファイナル・プラン』です。

みうら リーアム・ニーソン、いや、リーアム兄さんの映画は絶対に観なくちゃならないですからね。この連載でも何度か取り上げてますが、一時期、アクションから引退されるみたいなことをおっしゃってませんでしたっけ?

── そんな報道もありましたが、その後撤回されたと思います。

みうら 良かったです。チャールズ・ブロンソンを継ぎし者は必ずしや、兄さんだと思ってますから。最近では、除雪車に乗ってブチ切れてらっしゃる映画もありましたよね。

── 『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』のリメイクの『スノー・ロワイヤル』ですね。

みうら やっぱ、怒りとか地獄のとか、兄さんにも決まった邦題がいりますよね。この人、僕より随分お歳の方ですよね。

今回の映画のチラシには“俺の恋を邪魔するな、爆(は)ぜろ!”って書いてますが、どうなんです? 爆(は)ぜろって言葉、初めて聞きますが(笑)。たいてい兄さんの映画って子供のためにブチ切れるお父さんじゃないですか。でも今回は還暦越えて自分の恋がモチベーション? こうなってくるともうどこで爆ぜてくるか分かんないですね。“愛”じゃなくて“恋”って言ってる時点でもう、怖いですよね。

── このチラシ、普通のアクション映画なら強そうな敵を写すと思うんですが、リーアム以外は弱そうですね。

みうら 確かに。リーアムの息子以下みたいな年齢の敵ですよね。さては随分、年下の彼女にゾッコンなわけですね。ブロンソンも『デス・ウィッシュ』シリーズで無軌道な若者たちを成敗しましたけど、後ろから撃ったり、めっちゃくちゃ卑怯な手でも成敗しますからね。その流れをリーアムが汲んでるとすれば、きっと敵が気の毒になるくらいの爆ぜなんでしょうね。つい敵の方に感情移入してしまうかもしれないですね。

“爆ぜる”はお年寄りなら使いますけど、命令形はなかなかないでしょ。もうそう言われた時点で敵は木っ端みじんになってると思いますね。

“俺の恋を邪魔をするな”も、どの程度の邪魔か気になりますね。「そんなつもりはないけどな」っていうことだってあるじゃないですか。「あんなオヤジとつき合うのやめなよ」とか同世代の男なら彼女を諭しますよね。でも、それだけで「爆ぜろ!」って言われちゃ気の毒でなりません。

例えばその女性が、たまたまその男と映画を観に行ったりなんてしたら、映画館ごと「爆ぜろ!」ってなっちゃいますよね。

── 伝説の爆破強盗の役らしいですから、間違いなく爆ぜますね。

みうら でも、恋にそれを持ち込むのはどうかしてますよ。言い訳程度に“VS FBI”とは書いてありますけど、このFBIだって、実は恋を邪魔するヤツの頭文字かもしれないですからね。それか、FとBとIの頭文字を持つ3人の男が恋敵というのも考えられます。

── みうらさん、すみません。チラシに“FBI捜査官”って書いてました。

みうら うーん、それはフツーでつまらないですね(笑)。知らなきゃ良かったです。

── 今、チラシに書いてある原題を見つけたんですけど、『ファイナル・プラン』ではなく『Honest Thief』だそうです。“正直強盗”ってことですかね。

みうら 何なんですか? それ(笑)。ということは、ちょっと悪いことしたらすぐに自首してくるみたいな。捜査官たちの間でも有名だったんじゃないですか。「また来たよ、あのオッサン」って。でも今度ばかりは、恋人ができて自首はできないでしょうね。

もしかしてこの“プラン”って、犯罪ではなく結婚式のプランのことかもしれないですよ。いろいろ準備をしてきて、「これが俺たちの結婚式のファイナル・プランだ!」って言うんだけど、それを邪魔されちゃ兄さん、そりゃ怒りますよね。引き出物まで取り寄せてるのに「ムダになっちゃっただろうコノヤロー!」ってね。

このチラシの写真、マオカラーっぽいシャツを着てるのも、自分が牧師役まで務めるプランだったのかもしれないですね。そこまで綿密にプランニングしたのに、ぶち壊しにされたら「爆ぜろ!」が出ますよ。

── この年齢で結婚するんだから、きっと舞い上がってるんでしょうね。

みうら きっと初婚じゃないですかね。もちろんファンとしては幸せに添い遂げてはほしいですけど、でもそれじゃあ兄さんの映画になりませんからね。とりあえず僕は映画館に行って確かめたいと思います。

『いとみち』

── 2本目は『いとみち』という作品です。

みうら このチラシを選んだのは、僕が青森好きだってことがあるんです。彼女が手にしているのは当然、津軽三味線ですよね。

何度か青森に行きました。津軽三味線が聴ける飲み屋さんも入りましたし、当然、キリストの墓も行きました。

── ああ、そういう青森のヘンテコスポットも回られたんですね。

みうら ヘンテコというか、そこには弟のイスキリの墓もあるんですから誰しも興味を持っているものだと(笑)。その裏山のね、キリストの墓も行きましたし、巨大ピラミッド伝説がある所にも行きました。

── 青森に巨大ピラミッドがあるんですか?

みうら “エジプトより古い”ってことになってますしね(笑)。

── ちょっと呑み込みづらい情報が多いですね(笑)。

みうら いや、そこが実に興味深いでしょ。十三湊という所にはね、邪馬台国より前に都があったんです。遮光器土偶が出土したところの駅なんか、全体が遮光器土偶でね。

── どういうことですか?

みうら “遮光器土偶の駅”で検索して貰えませんか?

── 出てきました! もはや大魔神が立ってるみたいですね。つがる市の木造という駅なんですね。

JR五能線、木造駅の遮光器土偶の駅舎

みうら 五能線っていう鉄道マニアが大好きな路線でね、僕、そこの近くの出身の人と東京で知り合ったことがあったんですが、「木造の駅はすごいよね!」って言ったら「何が?」って言うんですよ。もはや日常の風景と溶け込みすぎていて、存在を感じてなかったんですよ。デカすぎるからか、見上げたことがないのか、通学に使っていた電車だっていうのにね(笑)。

── コレに気づかないってあり得ますか? しかも目が七色に光るって書いてありますよ。

みうら 木造には温泉があって、その名前が“しゃこちゃん温泉”っていうんです。遮光器土偶のことを“しゃこちゃん”って昔からゆるキャラみたいに呼んでるのスゴくないですか? しかもさっきの人にその話をしたら、しゃこちゃんと遮光器土偶はまったく結びついてなかったって言うんですよ! 土偶が日常化ってねぇ。

あと弘前の方に行く途中駅に大釈迦っていうのがあるんです。噂によるとね、どうやらここにインドのお釈迦様がやって来て悟りを開かれ、後にインドに戻って仏教を広められたらしいんです。いやぁ、スゴイでしょ(笑)。いっぱい面白い所があるんです、青森って。でもチラシに写ってる駅は木造駅ではなさそうですね……。

── 設定上では、主人公は弘前市の高校生だそうです。

みうら 弘前といえばねぶた祭りじゃなくて、“ねぷた”の方ですね。ねぶた祭りのかけ声は「ラッセーラー」って言ってアッパーなんですけど、弘前は「ヤーヤドー、ヤーヤドー」ってちょっと暗いんです。でも、そのおどろおどろしさにグッときてね。そうそう、人間椅子のバンドメンバー和嶋慎治と鈴木研一が生まれ育った土地だから、あのサウンドなんです。

たぶんこの女子高生は津軽三味線をやってるんだと思うんですが、人間椅子の和嶋くんもエレキギターの超テクで津軽三味線やるんです。きっとこの子のお父さん、ことあるごとに「弘前っつえば、人間椅子だろ」って言ってたんで、この子の中にもキング・クリムゾンとかと合流した津軽三味線のニューウェーブが生まれてるはずです。

── ただの古典芸能ではないということですか。

みうら きっと、そうです。当然人間椅子を核とすると、恐山も引っかかるし、キリストの墓も引っかかってきますよね。遮光器土偶もインスパイアしてると思いますね。とにかく今までのイメージとは違うアフター人間椅子な弘前が見られると思ったんですけど……、でもチラシはずいぶん明るい調子ですね……。

絶対にね、この“けっぱれ16歳!”な主人公の父親はイカ天世代だと思うんですよね。でもあの当時の弘前では、イカ天、放送してなかったんです。後にNHKとかで人間椅子が取り上げられたんでそれを見たんでしょう。

── お父さん役は、豊川悦司さんですね。

みうら なるほど。辻褄が合ってきましたよ。豊川悦司さんって、NHKの朝ドラの『半分、青い。』では僕そっくりの風貌で出られてましたしね(笑)。ということは、豊川悦司さん演じるお父さんも、イカ天に出たことあるんじゃないでしょうか?

だから今回の豊川さんは、もはや僕のイカ天出たときのバンド“大島渚”を意識されてるかもですね。

── 峯田和伸さん、渡辺大知さんに続いて、なんと豊川悦司さんまで映画でみうらさんを演じているってことですか?

みうら 大知くんは僕の高校時代、峯田くんは大学卒業したくらいの役でしたから、この映画では29歳くらいの僕なんじゃないかと思いますね。

── なんで、それなのにみうらさんに許可取りに来なかったんでしょう?

みうら そこですね。僕の映画予想が大きく違っているんじゃないかと思うところは(笑)。とにかく、観て確かめることですよね。予想に反してもきっと面白い作品だと思いますから。

取材・文:村山章

(C)2019 Honest Thief Productions, LLC
(C)2021『いとみち』製作委員会
Photo:読売新聞/アフロ

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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