Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『監察医 朝顔』『凪のお暇』実写化が生み出す新たな魅力 ドラマは漫画原作の“アレンジ”が肝?

リアルサウンド

19/9/23(月) 10:00

 7月クールの民放連続ドラマを括るひとつのキーワードとして「漫画原作」を挙げることができよう。フジテレビ系列の月9『監察医 朝顔』とTBS系列の火曜ドラマ『Heaven?~ご苦楽レストラン~』、日本テレビ系列水曜ドラマ『偽装不倫』、そしてTBS系列の金曜ドラマ『凪のお暇』。映画でもドラマでも深刻なネタ不足が言われるようになって久しいだけに、もはや漫画を原作にした作品というのは珍しいものではなくなったが、今期の4作品を観ると、“原作をどう脚色するか?”という扱い方にある種の変化が生まれはじめているように思える。

参考:『朝顔』最終話場面写真

 そもそも漫画を映像化する上で、その原作の持つ“イメージ”というのはあまりにも大きな壁として立ちはだかるものだ。先行して存在しているからという理由はもちろんのこと、多くの場合において漫画作品は、連続ドラマよりも長いスパンをかけて連載されることで少しずつその世界観やキャラクターの雰囲気、設定などを浸透させていくため、一度根付くとそう簡単には動かしづらい。例えば今期のドラマでは、韓国ドラマをリメイクした作品が3作品あったわけだが、同じように既存の強固なイメージがある程度のスパンをかけて根付かれているものであっても、「法律」や「医学」「刑事」といった比較的スタンダードな連続ドラマの作り方が完成されているジャンルに絞ることと、海外のストーリーを日本に置き換えるという明確な変化を与えることで、原作との差異化が生まれ、作品単体として成功しやすいのである。

 今回の「漫画原作ドラマ」4作品においては、その中でもタイプを二分することができよう。まず、連載が終了してからある程度の時間が経っている『監察医 朝顔』と『Heaven?』。そして現在も連載されている人気作が早々に実写化される運びとなった『偽装不倫』と『凪のお暇』。もっぱら前者のほうでは、「何故いまドラマ化するのか?」という命題に応えようとする脚色が目立った。原作では阪神大震災を題材にしていた『監察医 朝顔』は、主題を東日本大震災へと置き換え、また主人公である朝顔を新人監察医として描くことで、法医学という比較的ヘビーな題材に対して登場人物への共感を呼び起こすような狙いが見受けられた。また『Heaven ?』では自由な生き方を謳歌するオーナーと、それに振り回される従業員たちの姿を、映像の妙味でもあるレストランという空間を活かしながら描写していく。それによって時間を置いても映像化する意味が生まれ、さらに原作では主人公格であった福士蒼汰演じる伊賀観に代わり、石原さとみ演じるオーナーの黒須仮名子を主人公格に置き換えることで“ドタバタ感”よりも“自由さ”を強くあらわにさせていた。

 もちろん4作品に共通して言えるのは、キャラクターの設定やディテールを必ずしも原作通りに踏襲していないということである。例えば『Heaven?』の仮名子の傍若無人っぷりでさえも、ユーモラスの範疇に収まる程度に抑えられていたことが見受けられ、ヒロインの相手となる男性の設定が日本人に変更された『偽装不倫』も同様だ(これについては複雑な背景がありそうだが)。そうした点で興味深いのは、『凪のお暇』で主人公の凪を取り巻く二人の男性キャラクターであろう。ゴン役の中村倫也と慎二役の高橋一生と、いまをときめく人気俳優二人を相手役に配し、髪形などのディテールもさることながら、醸し出す雰囲気でさえも、原作より彼ら演者のパブリックイメージに近付けることでよりキャラクターの魅力を増幅させる。キャスティング当初はたしかに否定的な声も聞こえたとはいえ、本来テレビドラマというメディアが持つ、演者自身のスターパワーとポピュラリティを重視した姿勢が貫かれたことで、原作とドラマ両方の良さを存分に引き立たせることができたのではないだろうか。

 もっとも同じ“映像化”という範疇においても、映画というフィールドに移れば原作の扱い方の傾向は対照的になっている。今年大ヒットを記録した『キングダム』のように徹頭徹尾原作のコマに近付けた“完コピ”を実現したり、『ニセコイ』や『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』のように、キャラクターの個性的なビジュアルをそのまま現実世界に解き放つような、これまでは“違和感”として避けられていた様々な描写でさえも堂々と行われるようになっている。これはもちろん“選んで観に行く”映画と“チャンネルを回せば見られる”テレビドラマという機会的な違いも少なからずあるが、それに加えて前述したような期間的な違い、二時間で作り手のイメージが提示されなくてはいけない映画と三ヶ月かけてイメージを定着させていくテレビドラマの違いも往々にしてあると言えるだろう。

 映画よりも圧倒的にポピュラリティに依拠したメディアであるテレビドラマにおいては、従来と変わらず、すでに存在する原作漫画の魅力に新たな魅力を与える役割に重点が置かれている。もちろん原作ファンをいかにして惹き込み、これだけ漫画原作映画/ドラマが量産されている中で、なぜこの作品を実写化したのかという理由を明確化することも重要ではあるが、三ヶ月間話題が持続することを活かして新たな層を取り込んでいくことは欠かせない部分なのだ。しかしすでに、Netflixのように一気に最終話まで駆け抜けることが可能な“選択して観る”テレビドラマが増加している。ともなれば、今後日本のドラマにおける原作の扱い方は否応なしに変化していくことだろう。 (文=久保田和馬)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む