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Last Electroが語る、終末SF観とバンドの表現の共通点「みんなが隠し持っている“ドロッとしたもの”を暴きたい」

リアルサウンド

20/1/15(水) 18:00

 ゼロ年代以降のクラブミュージック~ジャズスピリットを受け継ぐKan Sano(Vo,Key)、Yusuke Nakamura(BLU-SWING/Key,Manupilation) のプロダクションと、新世代ジャズ~インディヒップホップの空気をたっぷりと吸いこんだIppei Sawamura(SANABAGUN./Dr)、Jun Uchino(Mime/Gt)のグルーヴを融合し、唯一無二のサウンドスケープを奏でる4人組バンド、Last Electro(以下、ラスエレ)による1st EP『closer』が1月15日にリリースされた。

 結成以来、数々のライブやセッションをこなしながらレコーディングされた本作は、その活動の軌跡を刻んだ集大成的な内容である。80年代シティソウル~ジャパニメーションをラスエレ流に解釈した「Pentatonic Love」や、ドラムンベース~ジュークのグルーヴが疾走感あふれる「AKIRA SENTIMENTAL」、シンセポップ~ドリームポップの潮流を汲む「Highlight」など様々なタイプの楽曲が並んでいるが、そのどれもがひんやりとした美しさの中に「暴力性」や「死」の気配を漂わせており、聴き手の心をざわざわと掻き立てる。それはまるで、再開発が進み刻々と変化していく2020年東京のディストピア感を音像化しているかのようだ。

 デヴィッド・リンチやスタンリー・キューブリック、大友克洋といった作家の持つ「終末SF観」に多大な影響を受けたという彼ら。そうした世界観に惹かれ、作品へと落とし込む理由はどこにあるのだろうか。Jun Uchinoは残念ながらこの日不在だったが、Kan Sano、Yusuke Nakamura、 Ippei Sawamuraの3人に話を聞いた。(黒田隆憲)

制約がないからこそできる、個々の活動ではできない表現

ーー2019年4月に7インチ盤『Night Symphony』でデビューし、それから数枚のシングル配信を経てのニューEP『closer』がついに完成しました。本作を作るにあたり、何かテーマやコンセプトはありましたか?

Kan Sano(以下、Sano):ここに入っている楽曲は、アルバムを作るための書き下ろしというよりは、バンド結成以来ずっと作り続けていたものが中心なんです。しかも毎回探りながら作っていて、そういう中でなんとなく(アルバムのテーマも)見えてきたという感じでしたね。

Yusuke Nakamura(以下、Yusuke):ラスエレの場合、メンバー全員が集まって一発録りみたいなことはほとんどしていなくて。「これ、半年前に録った素材だよね?」みたいな音をストックの中から引っ張り出してきて、そこにギターを入れるみたいな。

ーー「この時期に、この曲を作った」みたいな明確な区切りはなく、日頃から様々な素材を並行して仕上げていった。

Yusuke:そうなんです。ラスエレ以外の現場では、例えば「アルバムを作ろう」と決めてからレコーディングスタジオに集まることが多くて、そういう意味でも不思議な作業工程でしたね。いずれにせよ今作『closer』は、バンドを結成してこの1年半の集大成的な作品になったと思います。

ーー先行配信された「Highlight」や「AKIRA SENTIMENTAL」を聴くと、デビュー時の路線とはまた違う新機軸を感じます。

Kan Sano

Sano:「Highlight」はまず僕がデモを作って、それをみんなで詰めていきました。この曲は、Chromaticsというシンセポップバンドが参加している海外ドラマ『ツイン・ピークス The Return』(デヴィッド・リンチ監督作)のサントラをよく聞いていた時にデモを作ったので、その影響が反映されているのかもしれないです(笑)。

Yusuke:デモの段階でかなり綺麗な世界観だったので、僕はそこにディストーションをかけたり、ローファイなエフェクト処理をしたりして逆に「汚し」を入れました。そういうやり取りの中で仕上げていきましたね。

ーー個人的には「Highlight」を最初に聴いた時、Cocteau Twinsを思い出したんです。ドリームポップっぽい世界観は『ツイン・ピークス』から来ていたのですね。

Ippei Sawamura(以下、Ippei):僕はこの曲、初めて聴いた時は映画『ドライヴ』(ニコラス・ウィンディング・レフン監督作)のメインテーマで使われていたCollege & Electric Youth「A Real Hero」という曲を思い出しましたね。その雰囲気が出せたらいいなと思いながらリズムを作ってます。

ーー『ドライヴ』のサントラにはChromaticsの「Tick Of The Clock」も収録されていますし、そういう意味では「Highlight」は『ドライヴ』的な世界観といえるかもしれないですね。「AKIRA SENTIMENTAL」の「AKIRA」は、大友克洋の漫画から来ているのですか?

Yusuke:そうです。もともとあの漫画が大好きだったのですが、作っていくうちにそういう世界観に近づいていって。アートワークも『AKIRA』っぽかったよね?

Sano:あれは確か、ツアー中にライブハウスの照明の光をたまたま撮った写真があって。それを使用しました。

ーー前回インタビューさせてもらった時、「Night Symphony」のミュージックビデオに登場するLINE画面のアカウントが、浅野いにおの漫画『おやすみプンプン』に登場する愛子になっていることを教えてくれました。そして今回は『AKIRA』がモチーフになっているし、ラスエレの世界観には日本のサブカルチャーからの影響がかなり強く反映されていると思ったのですが。

Yusuke:確かに、「サブカル感」……と言っていいか分からないけど、そういうテイストは入れていきたいと思っているし、自然に入ってしまう部分もありますね。おそらく個々のプロジェクトではなかなか出せない要素なので。BLU-SWING(Yusukeが参加する5人組ニュージャズバンド)での僕と、ラスエレでの僕は「別人格かよ」っていうくらい違いますし(笑)。

Sano:確かにそうだね(笑)。僕も昔から『AKIRA』は好きですけど、自分のソロ名義のプロジェクトでは、あまりその側面は出してない。なんていうか、それぞれの活動では出来ないことをぶつけている感じはしますね。ラスエレには制約がないので。

 ちなみに「AKIRA SENTIMENTAL」は最初、Yusukeさんがデモを持ってきて。「ドラムンベースの曲が作りたいね」って話してて。昨年はラスエレとして色んなところでライブをやらせてもらう機会があって、「ライブ映えする曲が欲しいな」と思ってたんです。

Yusuke Nakamura

Yusuke:ドラムンベースは今、二週目のブームが到来しているみたいでめちゃめちゃ盛り上がっているんですよ。今回は、特にそれを意識したというわけでもないんですが、もともと僕はドラムンベースがすごく好きで、それが自然と出ていますね。かといって、まんまドラムンベースというわけでもなく、後半にはジュークの要素も入ってきたりして、そういう様々な要素が混じったカオス感は、ダンスミュージックというよりもロックっぽいなと(笑)。

Sano:ラスエレではエッジがあるもの、尖ったものを取り入れつつポップなところに落とし込みたいという気持ちが、僕だけでなくみんなの中にあると思います。アルバムの冒頭に収録されている「Pentatonic Love」は、それが一番いい形で出来たと思いますね。レコーディングの最後の方に作ったんですけど、ようやく「ラスエレらしさ」みたいなものを掴んだ気がします。

ーー「Pentatonic Love」は、日本のシティポップを海外から逆輸入しラスエレ風に料理したという感じがしますね。

Sano:それはありますね。シティポップとか、80年代のジャパニメーションをサンプリングしている感じ……。

ーーいわゆるヴェイパーウェーブやフューチャーファンク的な。

Sano:そうです。そういうところとも多少はリンクしているのかなと思います。

ーーIppeiさんはSanoさん、Yusukeさんより少し下の世代ですが、サブカル感みたいなものの捉え方も違いを感じますか?

Ippei:どうだろう。Kanさんの世界観にはSFっぽいノリを強く感じますね。自分の好きなものと重なるところも多くて、そこでジェネレーションギャップみたいなものを強く感じることはないですね。

Sano:結構、暗めのSFが好きなんですよね。『ブレード・ランナー』とかああいうディストピア的な。そういう要素はラスエレでどんどん出していきたいと思っています。

「死」や「暴力」に直面すると、生きていることを実感できる(Kan Sano)

ーーディストピアといえば、「I’m Yours Tonight」のミュージックビデオは「デヴィッド・リンチ的な世界観をDIYで表現した」とおっしゃっていましたよね。今回の作品資料にも「リンチやキューブリックなどカルト映像作家に通じる終末SF観」とありましたが、さっきIppeiさんが引き合いに出していたレフンの『ドライブ』にも、終末SF観が漂っていました。

Ippei:ああ、確かに。

Sano:そういえばKan Sanoとしての活動で、ファンと一緒に映画を一緒に見るという企画があって。そこで『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』を上映したんですけど。

ーーダーク過ぎます!

Sano:お客さん、みんな怖がっていました(笑)。(自分は)基本的に明るい性格なんですが、作品は暗いものが昔から好きなんですよね。どうしてだろう……。(しばらく考えて)今ってバーチャルなものが周りに溢れていて、「生きている」という実感を持つ機会が少なくなっている気がするんです。でも「死」や「暴力」に直面すると、生きていることを実感できるじゃないですか。そういう感覚を、もしかしたら映画に求めているのかもしれないですね。あと『チコちゃんに叱られる!』(NHK総合)の、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」というセリフは名言だし「そういうことだよな」って思うんです。北野武監督やキム・ギドク監督の作品が好きなのも、同じ理由なのかも。

 今、僕らは東京に住んでいて、表層的には全てが上手くいっているんですけど、その下でみんなが隠し持っている「ドロッとしたもの」を暴きたいというか。ラスエレだったらそれをやってもいいかなと思っているんですよね(笑)。

Ippei Sawamura

Ippei:さっき『おやすみプンプン』の話が出たじゃないですか。あの漫画をKanさんにめちゃくちゃ薦められてたんですよ。「ぜひ読んでみて欲しい」って。で、先日高熱を出してしまって家で休んでいた時に、デジタルコミックの『おやすみプンプン』を全巻買って一気に読んだら、もうメチャクチャ暗い気持ちになってさらに体調が悪くなったんです。

(一同笑)

Ippei:こんな、何もかも救われない漫画を俺に薦めてくるってKanさんマジでヤベエなって。

Sano:あはははは。

Ippei:想定しうる最悪なシチュエーションに、どんどん進んでいくんですよ。もう地獄でした(笑)。

Sano:なんか映画とか観ていると、「これはやらない」「このルールに沿って進めていきます」みたいな、作り手と受け手の暗黙のルールみたいなものがあるじゃないですか。僕はそれをぶち壊すような作品が好きだし、自分もそうありたいんです。「安心してると痛い目見るぞ」っていうのは、いつも思っていて。映画も音楽も「感動」とか「癒し」「救い」みたいなものをみんな求めたがるじゃないですか。それはそれでもちろんいいんですけど、「それだけじゃないよ」っていう気持ちは常に持っていたいんです。

Ippei:Yusukeさんも、ダークな作品に惹かれる方ですか?

Yusuke:実は僕、映画や漫画ってほとんど観ないんですよ。心が食らってしまうと手の震えが止まらなくなったりして、そのモードを何日も引きずってしまうので。

Sano:ええ? じゃあ、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とか観たらYusukeさん立ち直れないかも。

Yusuke:『アンパンマン』とかなら大丈夫なんだけどね……。

(一同笑)

Sano:でもそしたら、サントラの仕事とかしてるのは大丈夫なの?

Yusuke:制作モードに入ると全然問題ないんだよね。しかも、音楽は暗い方が好きだったりする。

Sano:そうなの? それも意外!(笑)。

Yusuke:暗い音楽であればあるほどポジティブになる(笑)。例えばクリストファー・ウィリッツ。以前、坂本龍一さんとコラボしたこともある人なんですけど、2017年にリリースされた『Horizon』は寝る前によく聴いていました。他にはヨハン・ヨハンソンや、Kanさんから教えてもらったアンディ・ストット。どの作品も暗さの中に「救い」があって。1人でじっくり聴きたい音楽はそんな感じです。

「いろいろ考えて結局何もしない」より「とりあえずやってみる」(Kan Sano)

ーーさっきおっしゃっていた、内側に潜む「暴力性」のようなものを、ラスエレではどんなふうに表現していますか?

Sano:例えば重低音の作り込み方、そこは僕らの要でもありますね。その上にひんやりとしたシンセやボーカルがレイヤーされている感じ。もちろん、それってここ最近の音楽の流れでもあると思うんですけどね。

ーー「音像」への意識は以前のインタビューでも詳しく語ってくださいましたが(『Kan Sano率いるLast Electroが語る、最先端のバンドサウンド』)、ここ最近の流れについてはどのように捉えていますか?

Yusuke:LAビートシーンがその最前線だと思うんですけど、そこで活躍している人たちは確実に次のフェーズに入っている感じがします。ダキムが昨年暮れにリリースした『Youdecide』を聴いた時にそれを強く思いました。彼の場合、さっき話したアンディ・ストットと通じるところもあって。

Sano:個人的には音数が少なければ少ないほど新鮮に感じますね。ビートが入っているけどベースが抜けていたり、ベースとリズムだけで、コード楽器がなかなか入ってこないとか。それこそビリー・アイリッシュもそうですよね。

Ippei:ビリー・アイリッシュ、結婚して欲しいくらい好きです。

(一同笑)

Sano:「Bad Guy」の音数の少なさは衝撃でしたね。なのに、低音はやたら効いてるっていう。

Ippei:メロディすらリフに聴こえますよね。

Sano:ベースとキックと歌だけでしばらく進んでいくとか、これまでのポップスではあり得なかった。それを成立させているのが凄いし、彼女によってポップミュージックも次の次元にいった感じがします。

ーーところで今作『closer』は、アートワークも印象的です。個人的には矢野顕子の1stアルバム『JAPANESE GIRL』(1976年)を思い出しました。

Sano:もともとは自主でミュージックビデオを作ろうと思って、知り合いのシンガーソングライターのKacoちゃんに声をかけて僕が撮影したんです。その映像ストックの中から「いいな」と思う瞬間を切り取って加工しました。赤と白のコントラストを強くしたことで、「海外から見た日本人女性」っぽいイメージになりましたね。どこか得体の知れない雰囲気もあって気に入っています。

ーーちなみに、海外進出への意欲はありますか?

Yusuke:東南アジアに行ってみたいです。「今後、世界的に盛り上がるのは東南アジア」と言われていて、実際ベトナムへ行くといろんなところで再開発が進んでいるんですよ。数年後に行ったら見違えるような街並みになっているのだろうなって。しかも、街中は若い人ばかりで活気に溢れている。

ーー先ほどヴェイパーウェーブの話が出ましたが、今ヴェイパーウェーブやフューチャーファンクがアジアで盛り上がっているのも、日本のバブル時代と重なる部分があるからかもしれないですね。では最後に、今後のラスエレの抱負についてお聞かせください。

Sano:さっき、「Pentatonic Love」がレコーディングの最後の方に出来たと言いましたが、この曲はJun Uchinoくんにロックっぽいカッティングを入れてもらって、それがものすごくしっくりきて。「Junくん、こんな感じもいけるんだ」と思って、次の曲へのモチベーションにつながったんです。曲を作るたびにそういう新たな発見があり、そこでまたやりたいことが増えたり、変わってきたりするのが楽しいんですよね。ラスエレはきっと、そうやって常に模索しながら進んでいくバンドだと思うので、「いろいろ考えて結局何もしない」ってなるより「とりあえずやってみる精神」で今後も進んでいきたいです(笑)。

■リリース情報
『closer』
発売:2020年1月15日(水)
価格:¥1,800(税抜)
トラックリスト:
1. Pentatonic Love 
2. When You Kill Me
3. Night Symphony
4. Donka
5. HBC-8
6. AKIRA SENTIMENTAL
7. Highlight

■ライブ情報
2月15日(土)東京・代官山 UNIT

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