Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『伝説のお母さん』が共感を呼ぶ理由 子育てのリアルがてんこ盛りの社会派ドラマ

リアルサウンド

20/2/28(金) 8:00

 RPGの世界を舞台に新米ママの奮闘を描く『伝説のお母さん』(NHK総合)に、子育て世代を中心に共感の声があがっている。かくいう私も、二児の母。ドラマを観ると母親の誰もが経験する“あの頃”を思い出し、「本当にそう」と頷きすぎて首がもげそうだ。

 本作は、かねもとの同名コミックを実写化したファンタジードラマ。かつて魔王を倒した伝説の魔法使い・メイ(前田敦子)は、専業主婦としてワンオペ育児に奮闘していた。そんな中、魔王が復活。再び魔王討伐のために招集されたメイが、“育児”と“世界平和”の両立を目指していく。突拍子もないコメディ作品のようだが、実際には子育てのリアルがてんこ盛りの社会派ドラマだ。

【写真】保育士勇士役の杉浦太陽

 物語は、復活した魔王討伐のため、メイに声がかかるところから始まる。冒険に参加したいメイだが、0歳児を預ける保育所がすぐに見つかるはずもなく。小さい子どもを抱える母親は、どんなにやりたいことがあっても、自分の意志だけではどうにもならない。そんなメイに降りかかる「あなたの力は、家に眠らせておくのはもったいない」という言葉……これが、とてつもなく沁みる。

 母親が身を粉にして育児しても、認めてもらえる機会は少ない。いや、もちろん褒めてもらいたくて育児をしているわけではないし、そもそも自分が産みたくて産んだのだから、その責任はすべて自分にある。そんなことはわかっているが、それでも人は、誰かに自分の力を認めてもらいたいものだ。

 結局、夫(玉置玲央)の失業を機にメイは魔王討伐に出かけるのだが、帰宅したメイの前に広がるのは、泣き叫ぶ娘の姿。聞けばミルクも離乳食もあげていない、オムツは替えていない、タバコの吸い殻は置きっぱなし。思わず「何してるんですか!」と声を上げれば、「ヒステリー? 勘弁してくれよ」とヘラヘラ。さすがにここまでの夫は稀だろうが、薄っすらと身に覚えがあり、この時のメイの感情が理解できるママは多いことだろう。

 保育園には入れない、夫は使い物にならない、となれば、子どもを連れて冒険に出るしかない。だが第2話、娘が泣き出したせいで敵に敗北してしまったことで、メイは自分が討伐メンバーにいないほうがいいのではと悩み始める。これも、ワーキングマザーあるある。「気にしないで」と言われても、どこか申し訳ないと思い続けなければならない日々。みんなに迷惑をかけて、赤ちゃんの世話も十分にできず、それでも働く自分はワガママなんじゃないかと落ち込むまでがワンセットといえるかもしれない。

 一方、第3話では、仲間のベラ(MEGUMI)が仕事で大きなプロジェクトに参加することになり、息子のベルをメイが預かることに。ベラは、息子を完璧に家事をこなす子どもに育てており、あろうことかメイはそんなベルが「可哀想だ」と訴える。育児に正解なんてないのに、自分の育児観を押しつけるママ友という構図が妙にリアルだ。

 そんな中、ベラは子持ちという理由でプロジェクトから外されてしまう。これは「マミートラック」といい、女性が出産によって出世コースから外され、単調な仕事コースを回らされてしまうこと。働きたいけど、保育所に預けることができない。どうにか働き始めても、周りに迷惑をかけてしまう。割り切って一念発起しても、大きな仕事を任せてもらえない。この八方塞がりは、決して空想の話ではないから恐ろしい。

 子育てでしんどいのは、肉体的なこと以上に「自分はダメな母親なんじゃないか」と責めてしまうといった精神的な部分が大きい。育児のドタバタを描きつつ、そんな母親の感情にフィーチャーしている点が、このドラマが共感を呼ぶ理由だろう。また、劇中に登場する魔界の教育番組でMCを務めるのは『おかあさんといっしょ』に出演していた、よしおにいさん&りさおねえさん。「少子化は、人間界を滅ぼすカギになると思うんだっ!」と、おにいさん&おねえさんが元気いっぱいに話す姿も、実にシュールだ。

 第1話で、夫は言う。「子育て、俺、向いてない。お前は魔法を使ってラクに子育てできるのかもしれないけどさ」と。あくまで劇中のセリフだが、現実世界においても“お母さんは魔法使いだ”と思われがち。お母さんなんだから、なんでも解決できるよね、といった具合に。でも、お母さんだって赤ちゃんがなんで泣いているかなんてわからないし、昼夜なく授乳をして、オムツを替えて、おもらししたら着替えをさせて、やっと落ち着いた合間に家事をこなす。毎日が戦いの連続なのだ。

 子育てをする母親は、きっと誰もがRPGの主人公。どんなに高い壁や強敵が現れようと、我が子の笑顔をエネルギー源に、今日も今日とて立ち向かう。頼もしいパーティ(仲間)が力を貸してくれること、そして、よりよい育児環境が整うことを願いながら。

(nakamura omame)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む