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立川直樹のエンタテインメント探偵

美術館もようやく再開、舞台の幕も開いた。ピーター・バラカンと観たアレサ・フランクリン、イキウメの新作公演『外の道』、『人間国宝の会』、玉三郎と片岡仁左衛門による『桜姫東文章』下の巻…スペシャルな演し物が続く。

毎月連載

第72回

『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』 2018(C)Amazing Grace Movie LLC

しばらく閉まっていた美術館もようやく再開し、舞台の幕も開いた。6月7日には立川のシネマシティでピーター・バラカンと『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』の上映に合わせてのトークイベントも実現でき、2人で大スクリーンを極上の音響で観るアレサの素晴らしいパフォーマンスを楽しみ、ピーターからは貴重な裏話も聞けたが、その翌々日の9日に三軒茶屋のシアタートラムで見たイキウメの新作公演『外の道』も、演劇でしか体感できない表現で、実に摩訶不思議な非日常の世界を見ることができた。椅子と机が置かれ、それを動かし、語り手を代わったりして観客を眩惑する9人の俳優。作・演出の前川知大の才能は大したもので、1年の延期は完全に吉と出たように思えた。

舞台ものでは6月13日に国立劇場・小劇場で催された『第十四回・人間国宝の会』もおもしろかった。人間国宝、新内仲三郎の三味線と新内多賀太夫の浄瑠璃で上演された新内「明鳥夢泡雪」から江戸消防記念会第四區の木遣師がそろっての「木遣(きやり)」までバラエティに富んだ演目はどれも特色があり、人間国宝の三味線や歌、長唄や笛の響きはこれが人間国宝の芸たるものだと理屈抜きで感じさせてくれ、新内仲三郎や藤舎名生などが奏でる音楽に合わせて花道を流した「花魁道中」もこの日しか見ることが出来ないスペシャルな演し物になっていた。

イキウメ『外の道』チラシ、六月大歌舞伎ポスター

そして、スペシャルと言えば、その翌日14日に歌舞伎座で見ることが出来た坂東玉三郎と片岡仁左衛門による『桜姫東文章』下の巻は、2人の名優が鶴屋南北の作品の中でも『東海道四谷怪談』と並ぶ人気作品として上演を重ねてきた名作をここまでやるかという感じでこってりと演じ、これ以上はないだろうと思われる“歌舞伎ワールド”を心ゆくまで楽しむことができた。2012年に人間国宝に認定された歌舞伎界随一の立女方・坂東玉三郎の活動は歌舞伎界にとどまらず、映像監督や舞台演出、ヨーヨー・マやアンジェイ・ワイダなど世界的アーティストとのコラボレーションと多岐に及んでいるが、WOWOWでそうした彼の美の世界をシネマ歌舞伎が映画特集で4日間にわたって特集した『「幽玄」~坂東玉三郎の世界 』の中で見られた1993年の監督第2作『夢の女』も大収穫だった。永井荷風の原作を久保田万太郎が戯曲化し、吉永小百合が演じる侍の娘ながら娼婦となった女性の半生を美しいモノクロで描いた作品でキャストもスタッフもぴったりの人達が並んでいた。藤舎名生の笛がいい具合に流れていたが、見るものがどこかでつながっていくのもおもしろい。

ANREALAGE と手芸家佐野博子の『GOD IS IN THE DETAILS-人は縫う、命と心を守るために展』、『新・晴れた日 篠山紀信』。『サンソン ールイ16世の首を刎ねた男ー』もクオリティの高い舞台だった。

『GOD IS IN THE DETAILS-人は縫う、命と心を守るために展』、『新・晴れた日 篠山紀信』チラシ

歌舞伎座の後に千駄ヶ谷の“hand in tree”のショールームでオープンしたANREALAGE x 佐野博子の『GOD IS IN THE DETAILS-人は縫う、命と心を守るために展』を見て、ANREALAGE を主宰するデザイナーの森永邦彦と「人は2万年前に骨製の縫い針を創り、縫う営みをはじめた。それは、このか弱い体に宿した命を守るための祈りをこめた英知。それは人が生きる喜びを日常とするための最初の創造力であった。いまも、彼らは縫う。戦争のときも、3.11のときも命と心を守るために縫っていた」とコンセプトを書いている展覧会をプロデュースした森永博志のトークイベントで83歳になるという福島県南相馬在住の手芸家、佐野博子との出会い話なども聞いたが、その翌日に東京都写真美術館で見た『新・晴れた日 篠山紀信』(8月15日まで開催中)では2010年の“歌舞伎座さよなら公演”の千秋楽、最後の演目「助六由縁江戸桜」で幕が閉じる瞬間、玉三郎が演じる花魁揚巻の姿が弾を放っていた。3.11の2ヶ月後の5月から秋まで相馬市などの被災地を訪れて作られた写真集『ATOKATA』から4枚の写真も選ばれている。

『新・晴れた日 篠山紀信』会場

あとは6月27日に4月23日に始まった東京公演が緊急事態宣言を受け上演4回で中止になったために組まれたKAAT神奈川芸術劇場で最終公演を見た『サンソン ールイ16世の首を刎ねた男ー』がクオリティの高い舞台だった。演出・白井晃、脚本・中島かずき、音楽・三宅純、主演・稲垣吾郎という座組は、忘れ難い舞台だった。『 No.9 -不滅の旋律-』と同じ顔ぶれ。次は何を見せてくれるか、とても楽しみだ。

『サンソン ールイ16世の首を刎ねた男ー』

データ

『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』
公開:2021年5月28日
配給:ギャガ
監督:シドニー・ポラック

イキウメ公演『外の道』
公演:2021年5月28日~6月20日
会場:シアター・トラム

『第十四回・人間国宝の会』
公演:2021年6月13日
会場:国立劇場・小劇場

六月大歌舞伎 『桜姫東文章』「下の巻」
公演:2021年6月3日~28日
会場:歌舞伎座

WOWOW 映画特集「『幽玄』〜坂東玉三郎の世界」
放送日:2021年6月26日〜30日
放送局:WOWOW

ANREALAGE x 佐野博子『GOD IS IN THE DETAILS-人は縫う、命と心を守るために展』
期間:2021年6月14日〜20日
会場:hand in tree showroom

『新・晴れた日 篠山紀信』
期間:2021年5月18日〜8月15日
会場:東京都写真美術館

『サンソン ールイ16世の首を刎ねた男ー』横浜公演
公演:2021年6月24日~27日
会場:KAAT神奈川芸術劇場

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著にSUGIZO、TAKUROとの対談集『CONVERSATION PIECE ロックン・ロールを巡る10の対話』(PARCO出版)、『I Stand Alone』(青幻舎)、『ラプソディ・イン・ジョン・W・レノン』(PARCO出版)。

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