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立川直樹のエンタテインメント探偵

稲垣吾郎主演『No.9 -不滅の旋律-』は超一級の舞台作品。万有引力『狂人教育』シーザーは“演劇の魔王”という称号で語るべき存在か。

隔週水曜

第12回

18/11/28(水)

『No.9 -不滅の旋律-』

 J・A・シーザーは“演劇の魔王”という称号で語るべき存在かも知れない。僕は駅の様相がすっかり変わってしまった下北沢の“ザ・スズナリ”の客席で心の底からそう思った。J・A・シーザーの師である寺山修司が1962年に“人形のための実験劇”として人形劇団ひとみ座に執筆した戯曲を初上演で完璧といってもいいレベルの形に仕立て上げた恐るべき才能と独特の感覚。“人形と俳優との偶発的邂逅劇”というサブタイトルが見事に具現化された『狂人教育』は俳優のパフォーマンスの素晴しさと鳴り響く呪術的な音楽がひとつになり、幻覚を見ているような気分を味あわせてくれたのである。

 祖父を演じる高田恵篤をはじめとするCASTとSTAFF、SONGの歌詞が印刷されたプログラムの上段にレイアウトされている「あなたの夢の番をするため わたしは裸で眠るんだわ、森の様子をうかがいながら 牝犬ででもあるかのように」というガルシア・ロルカの文章。大規模な工事が続けられていて、恐らく近代的なビルのような建物になる駅の中に入っていった時はようやく戻ったが、その余韻は強力で、“ザ・スズナリ”のそばにあった古書店ビビビに入った時は、ポール・オースターとブコウスキーが並んでいる本棚がいきなり扉のように開き、迷宮の世界に連れていかれてしまうような気分にすらなったのである。

演劇実験室◎万有引力『狂人教育 ー人形と俳優との偶発的邂逅劇ー』 photo by ニヤ

 そして、そんな感覚は前日にTBS赤坂ACTシアターでも味わっていて、忙しい日常が非現実の世界といったりきたりしているようになっているのがとてもおもしろい。演出の白井晃、脚本の中島かずき(劇団☆新感線座付き作家)、音楽監督の三宅純という“最強クリエイティブチーム”という看板に偽りなしのメンバーに美術の松井るみが加わり、構築された舞台で稲垣吾郎演じるベートーヴェンを中心に出演者たちの抜群のアンサンブルによって、時空を超えた物語が作り上げられた『No.9 -不滅の旋律-』はベートーヴェンの波乱に満ちた苦悩の人生を全く新しい視点と意欲的な演出と音楽表現で描いた超一級の舞台作品だと太鼓判を押せる。

 3年前に評判を呼んだという初演は観ていないが、早い時期に再演されることを望みたい。

『No.9 -不滅の旋律-』

石川県立歴史博物館『歌舞伎衣裳 綺羅をまとう』、東京都写真美術館『愛について アジアン・コンテンポラリー』など

 そして、望むといえば『レッツ・プレイ・プログレッシブ・ロック』というイベントのプロデュース・出演のために11月上旬に金沢を訪れている時に1千万円近いオーディオ・システムでピンク・フロイトやキング・クリムゾンなどのプログレの名盤を聴いてゲストとトークをするという『ハイパー・ミュージック・エクスペリエンス』(ゲストで来てくれた原始神母の木暮“シャケ”武彦さんはレコードをバックに数曲ギターを弾いてくれた)の会場になったしいのき迎賓館に置いてあったチラシが気になり、本番や来年2月のイベントの打合せの合い間にかつて陸軍兵器庫だった赤レンガ建物3棟がベースになった石川県立歴史博物館まで見に行った秋季特別展『歌舞伎衣裳 綺羅をまとう』は東京や関西に巡回する値打ちのある素晴しい内容だった。

 魅力的な会場空間の中に展示されていたのは、金沢にかつてあった芝居小屋“福助座”の興行師だった梅若ゆかりの衣装約40点。明治後期から大正期にかけて金沢中心部のにぎわいを生み出し、地域文化に大きな影響を与えた福助座で上演された芝居番付や貴重な写真に加え、江戸城大奥で活躍した御狂言師の衣装、明治から昭和初期の名優が着用した衣装から、各地の芝居小屋、農村歌舞伎で使用された地芝居の衣装までがひとつの物語のように構成された展示になっていたのが凄かった。

平成30年度秋季特別展「歌舞伎衣裳 綺羅をまとう」

 この空間性というのは貴重なことで演劇から展覧会に至るまでいいと思えるものは必ずそこに配慮がなされているが東京都写真美術館で開催されている『愛について アジアン・コンテンポラリー』と『建築×写真 ここのみに在る光』という2つの展覧会もいい気分で会場を回ることができた。

 報告したいことはまだたくさんあるが、続きはまた次回にしよう。

作品紹介

『No.9 -不滅の旋律-』

日程:2018年11月11日~12月2日
演出:白井晃
脚本:中島かずき(劇団☆新感線)
音楽監督:三宅純
出演:稲垣吾郎/剛力彩芽/片桐仁/村川絵梨/鈴木拡樹/岡田義徳/深水元基/橋本淳/広澤草/小川ゲン/野坂弘/奥貫薫/羽場裕一/長谷川初範/白井晃/中島かずき/三宅純/山崎雄大

演劇実験室◎万有引力『狂人教育 ー人形と俳優との偶発的邂逅劇ー』

日程:2018年11月9日~18日
会場:下北沢 ザ・スズナリ
作:寺山修司
演出・音楽:J・A・シーザー
構成・共同演出:高田恵篤
出演:高田恵篤/伊野尾理枝/小林桂太/木下瑞穂/飛永聖/森ようこ/高橋優太/今村博/太刀川亮/比留間聡子/吉家智美/山田桜子/三好華武人/三俣遥河/小林仁/森祐介/曽田明宏/田中真之/加藤一馬/伊藤彩香

平成30年度秋季特別展 「歌舞伎衣裳 綺羅をまとう」

会期:2018年9月22日~10月14日(前期)
   2018年10月16日~11月11日(後期)
会場:石川県立歴史博物館

『愛について アジアン・コンテンポラリー』

会期:2018年10月2日~11月25日
会場:東京都写真美術館 2階展示室

『建築×写真 ここのみに在る光』

会期:2018年11月10日~2019年1月27日
会場:東京都写真美術館 3階展示室

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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