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立川直樹のエンタテインメント探偵

神の啓示のように感じられたボブ・ディランの歌声。最新作『ラフ&ロウディ・ウェイズ』の凄さは群を抜いている!

隔週水曜

第54回

20/7/15(水)

ボブ・ディラン(写真:PA Images/アフロ)

しばらく前までは飛ぶ鳥を落とす勢いだった“シルク・ドゥ・ソレイユ”が破産手続きに入り、ブロードウェイは来年1月3日まで公演中止を延長、日本でもEXILEがグループ全体の年内のライヴ活動休止を発表し、エンタテインメントの世界は新型コロナウイルスの影響で大変なことになっているが、そんな状況だからなおのことディランの歌声が神の啓示のように感じられたのかも知れない。

映画館や美術館もどこか不自由な感じがあるとはいえ再開し、世の中は多少動き出したが、“STAY HOME”の基本の日々は変わることなく、昔の映画も含めておもしろそうなテレビ番組を探し(6月23日にザ・シネマ HDで観た1960年のイギリス映画『血を吸うカメラ』は抜群の拾いものだった。デボラ・カー主演の『黒水仙』(1946年)を撮った巨匠マイケル・パウエルが撮った最初のスナッフフィルム。1960年5月にイギリスで公開。有名なヒッチコックの『サイコ』は60年6月にアメリカ公開なので“サイコ・ホラー”の1作目だという。でも、批評家からは散々叩かれ、イギリスでは映画が撮れなくなり、アメリカに渡って映画を教えることで生活したが、その生徒の中にマーティン・スコセッシがいた話がとてもいい。スコセッシたちが絶賛していることもあって、今はカルト・フィルムの仲間入りをしている。セシル・テイラーっぽいソロ・ピアノが即興の感じで流れたりして、完全にKOされた)、DVDを観たり(BS-TBS『SONG TO SOUL』の『ティーチ・ユア・チルドレン』が引き金になって観たクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングの1974年のライヴは、きちんと歌えて弾けるミュージシャンの力が結集した凄味に溜息が出た)、レコードを聴いたり(チャールズ・ミンガスとリッキー・リー・ジョーンズの魅力再発見。武満徹もエッセイに書いていたミンガスの『フォーバス知事の寓話』の今日性は魔法に近い)、現在と過去を行き来する時空旅行を楽しんでいるが、7月8日に日本発売された(アメリカでは6月19日にCD発売とデジタル配信、LPは7月17日の予定でイエロー、オリーブ、ブラックの3色のヴァイナル盤が用意されている)ボブ・ディランの最新作『ラフ&ロウディ・ウェイズ』の凄さは群を抜いていた。

ビルボード・チャート1位の約17分の新曲『最も卑劣な殺人』も収録されたアルバム『ラフ&ロウディ・ウェイズ』

ボブ・ディラン/ラフ&ロウディ・ウェイズ(ソニー・ミュージックレーベルズ)

スタジオ・アルバムとしては39作目。2016年にノーベル文学賞を受賞した後のアルバム『フォールン・エンジェルズ』と『トリプリケート』と、ノーベル賞受賞前の『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』が主にフランク・シナトラがレパートリーとしていたグレイト・アメリカン・ソングブックと呼ぶにふさわしいカヴァー作だったので、オリジナル楽曲による新作としては2012年発表の『テンペスト』以来8年ぶりになるが、ソニー・ミュージックCEO、ロブ・ストリンガーの「ボブ自身も、他の誰も作ったことのない前例のない楽曲だと言っている」というコメントも、CD2枚に収録された10曲を聴くと、素直にうなづけてしまう。

中でもDISC:2に収録されている『最も卑劣な殺人』は、ジョン・F・ケネディの暗殺から始まる16分54秒という長尺の歌で、3月27日に配信を開始した後、4月11日付の米ビルボード・ロック・デジタル・ソング・セールス・チャートで1位を獲得し、ビルボードのシングル・チャートで初の1位になった。

コロナ感染が暗雲のように世界を覆ってゆく中、ディランによる「皆さん、どうか安全に、油断せず、神とともにあらんことを」のコメントとともに公開されたこの歌が起こした波紋はとても大きく、さまざまな意見が飛び交っているが、オマー・ザルモノウィッツという人の「ディランにとって初の、そして唯一のビルボード・チャートNo.1ヒットは“広い文化的調査”によってできた曲というわけではない。むしろその根底にあるのは、かつてディラン自身が築き上げるのに一役買った音楽と文化の流れ。そこに自らを悪びれることなく結びつけ、今現在という時代背景の中で、威厳を持って映し出しているのだ」の言葉はアルバムの内容を見事に言い当てている。

テレビの画面に映し出される各国のコロナ関連のニュース映像と、アメリカで黒人男性が白人警官に暴行され死亡した事件をきっかけに世界中に広がった人種差別への抗議に関するニュースとディランの歌が重なっていった時に、世界にあふれるフェイクなものはスーッと消え去っていった。

作品紹介

『血を吸うカメラ』(1946年・英)

監督:マイケル・パウエル
出演:カール=ハインツ・ベーム/モイラ・シラー/アンナ・マッセイ/マキシン・オードリー
放送日:2020年6月23日
洋画専門チャンネル ザ・シネマ

クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング『CSNY 1974』(3CD+DVD/Blu-ray Audio+DVD)

発売日:2014年7月8日
発売元:Rhino

ボブ・ディラン『ラフ&ロウディ・ウェイズ』

発売日:2020年7月8日
発売元:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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