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戸田恵梨香、年齢を重ねていく佇まいのすごみ 異色作な朝ドラ『スカーレット』を走らせ続けた動力

リアルサウンド

20/3/24(火) 6:00

 いよいよ残り話数もわずかとなったNHKの朝ドラ『スカーレット』。

 改めて今、この作品が長い朝ドラの歴史においてもかなり異色作だったこと、そして、それを成立させたのは、ヒロイン・川原喜美子を演じた戸田恵梨香だったということを感じずにはいられない。

【写真】『スカーレット』初登場時の戸田恵梨香

 『スカーレット』というタイトルから、放送開始前にイメージされたのは、燃えるような情熱だ。そして、朝ドラにおいては『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラ→小原糸子の流れから、『カーネーション』のような作品を期待した人は多かった。

 しかし、実際に描かれた情熱の炎に、鮮やかな赤という印象はない。「禍福は糾える縄の如し」とはいうが、喜美子の人生を単純にグラフ化するならば、圧倒的に「禍」が多い歪な縄になるだろう。長い貧乏暮らしや、離婚、息子の病気などなど、あらすじだけを追うと、あまりに救いのない、暗い物語でもある。しかし、そうした様々な苦難を受け入れつつも、不屈の精神で、絶えず炎を燃やし続けなければいけないのが、喜美子の人生だ。

 オーディションでヒロインが選ばれるのが主流だった頃の「若手女優の登竜門」としての朝ドラの場合、新人に近い女優が作品の中で成長していくさまを、周りのベテラン俳優たち・スタッフたちがみんなで支え、見守る構図があった。しかし、牧歌的だった昔の朝ドラに比べ、近年は盛り込む要素が増え、緻密に作られるようになったこと、働き方改革の影響もあって、経験値も認知度もある女優がキャスティングによって選ばれるようになって久しい。

 そんな中でも戸田恵梨香が異色なのは、単に実力・経験値があるというだけでなく、物語の中心に生き続け、炎を燃やし続け、さらにその炎に周囲の俳優たちもスタッフたちも皆、巻き込まれていったこと。いったいどれだけのエネルギー量が、あの細い体にあるのだろうと不思議に思うほどである。もはや作品を走らせ続ける動力自体が、戸田恵梨香だったと言っても良いのではないか。

 特に戸田恵梨香のすごみが際立ってきたのは、陶芸家として成功して以降、年齢を重ねていく姿においてだ。

 もともと落ち着いた声が、年齢を重ねるごとにさらに低音化し、その一方で、交流を重ねてきた相手との間の会話はどんどん無駄なく、テンポアップしている。本人の年齢の変化だけでなく、関係性の変化も、喜美子の声のトーンと会話のスピードによって感じられるのだ。

 朝ドラでは『おしん』『カーネーション』ように、子役、本役、晩年をそれぞれ別の女優がリレー方式で演じることもあるが、『スカーレット』の場合は、子役は別として、若い頃よりむしろ晩年の見せ方に比重が置かれている気がする。

 女性の半生記や一代記を描くことの多い朝ドラでは、ヒロインが老ける・老けない問題がよく俎上にのる。「いつまでもヒロインだけ若い」と批判されることもあるし、若い顔にほどこしたシワなどの加齢メイクが変に浮いてしまうこともある。

 年齢の変化を体型変化で見せるパターンもある。映画などでは実力派女優がわざと体重を増やし、中年体型に見せる工夫などをするケースがあるし、『ひよっこ』の有村架純の場合は、あらかじめ体重を増やしておいたところからスタート→都会に出て、大人になってほっそりするという変化を見せていた。

 しかし、戸田恵梨香の場合、「陶芸には体力が要るから」という理由で事前に体重を増やしたそうだが、喜美子を見ていると、若い頃から今まで細いままだ。にもかかわらず、細い体でも、特に後ろ姿に、加齢がにじんでいる。

 工房に一人佇むとき。居間で一人、食事をするとき。立ち姿や座り姿の腰や肩の落とし方に、じんわりと年齢が見える。また、やや薄くなった眉毛や、以前よりやや小さく見える目、口角のやや下がった笑い方に、着実に中年っぽさが感じられる。

 「加齢」とは齢を加えると書くだけに、多くの場合は、シワを加えたり、肉付きを加えたりする表現になるものなのに、戸田の場合はむしろ若い頃に自然と持っていた様々なものを手放し、削ぎ落としていっているように見える。

 見た目にも、人とのやりとりにも、装飾やでっぱりを削ぎ落として、つるりと丸くなっていっているように見える中年の姿。炎の燃やし方も、若い頃とはまた異なり、そこには若い頃とはまた違った凛とした美しさが感じられる。

 朝ドラヒロインの物語の中での生き方や、周囲を巻き込むエネルギーの燃やし方、年齢の重ね方を新たに提示してくれた『スカーレット』。戸田恵梨香の好演によって、今後の朝ドラヒロインのハードルは大きく上がってしまったかもしれない。

(田幸和歌子)

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