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リリックビデオ再生数1200万回超え、神サイ「夜永唄」ヒットの背景にあるもの ネット経由で伝播したバンド特有の個性

リアルサウンド

20/8/22(土) 19:00

 8月16日、『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で、SNS・ストリーミング配信サービスから生まれるヒット曲の特集が放送された。番組では、“TikTokで気になる曲を見つける→YouTubeでMVをチェックする→ストリーミングでフルサイズの音源を聴く”というリスナーの傾向を踏まえ、今話題の曲を生み出しているアーティストのなかにはCDをリリースしていないアーティストもいることに言及。それを新たなヒットの形として紹介した。

 番組内では、とある月におけるLINE MUSICのランキングが取り上げられた。そのなかで12位(邦楽ロックチャートでは1位)に位置付けていたのが、神はサイコロを振らない(以下、神サイ)の「夜永唄」だ。

 「夜永唄」は、2019年5月にリリースされたミニアルバム『ラムダに対する見解』の収録曲。SNSユーザーによる動画投稿から火がつき、リリースから約11カ月を経て、各種チャートに突如ランクインするようになった(参照:Billboard JAPAN)。YouTubeで公開されたリリックビデオの再生数は、1200万回超え。その勢いを追い風にして、バンドは今年7月、デジタルシングル『泡沫花火』をリリースし、メジャーデビューした。

神はサイコロを振らない「夜永唄」【Official Lyric Video】

 神サイの土台にあるのは、いわゆるギターロック的なアンサンブル。当初はポストロック色の濃い曲が主だったが、主軸をまっすぐ保ったまま、リリースごとにアプローチを広げた。特に『ラムダに対する見解』は、バンドにとって初めてのトライが詰まった意欲作にあたる。柳田周作(Vo)による歌詞は現状全て日本語。どこを切り取っても言葉選びが端正で、日本語特有の響き・字面の美しさが引き出されている。

 「夜永唄」は確かにTikTokから認知を広げた曲だが、神サイを“ネット発のアーティスト”と呼ぶのはやや違和感がある。なぜなら彼らは、2015年の結成以来、ライブハウスを主戦場として活動してきたからだ。対バン系のイベントやサーキットに行けば、かなりの確率で神サイの名前を見かけた覚えがある。当時ライブハウスで人気を集めやすかったのは、身体を動かして盛り上がれる曲、早いテンポで観客を踊らせる曲を演奏するバンド。対して神サイは、静寂と激情のコントラストで以って観る者を惹きつけるような――享楽的ではなく、むしろ観客にも集中力を求めるようなライブを展開していた。

 彼らの存在は、インディーズバンドシーンにおいて明らかに異質だった。その点は、柳田の歌声に関しても同様。空気成分の多い柳田の声質および発声は、バンドサウンドのなかでも平然と映える声――腹から出したような太い声や、突き抜けるような甲高い声――で歌うボーカリストの多いライブハウスでは、なかなか稀だった。

 ライブハウスで経験を重ねてきたバンドでありながらも、ライブハウスシーンのトレンドに迎合することなく、個性を尖らせ続けているバンド。彼らに対してそういう印象を抱いていたため、“神サイの曲がTikTokで話題になっている”と知ったとき、「意外だ」とも思ったし、「分かるかも」とも思った。爆音の中だと気づきづらい柳田の特徴的なブレスも、イヤホンだとよく聴こえるし、それ自体がリズムを生んでいることがよく分かる。それは一つの例だが、このように彼らの個性が、SNSやストリーミングというライブハウスとは別のフィールドにおいて、輝きを見せている現象が興味深い。加えて今は、ほとんどのバンドがライブ活動をできておらず、新しい活動方式を模索している状況。こういう形での神サイの飛躍は、インディーズバンドシーンにおける希望になったのでは。

 そんななか、8月14日に「夜永唄」のMVが公開された。主演は俳優の渡邊圭祐。曲に描かれた感情の波が彼の表情の移り変わりで表現されている。YouTubeの概要欄にある柳田のコメントによると、MVのテーマは“「夜永唄」の擬人化”であり、制作の際、リスナーから寄せられたコメントを参考にしたのだそう。SNSやストリーミングでたくさん聴いてもらうためには、CTA(Call To Action/行動喚起)が大切だとすでに語られているが、集まったアクションを材料に新たな作品を作るのもまた、今ならではの創作の在り方といえよう。

神はサイコロを振らない「夜永唄」 【Official Music Video】

 最後に、7月17日にリリースされた新曲「泡沫花火」も素敵なので、そちらも紹介したい。泡沫とは、水面に浮かぶ泡のことであり、儚く消えてしまうものの喩えとしても用いられる言葉。そのことから想像できるように、「夜永唄」に引き続き、「泡沫花火」も切ない恋模様を歌ったバラードだ。夏の風物詩が多数登場する歌詞は全編女性目線。きっとこの関係は長く続かない。そう分かっていながら相手を想う気持ちを、柳田が感傷的に歌う(〈頬を撫でるように〉の消え入りそうなファルセット、〈幼い私〉の「お」をはじめとした「あ行」の発音、〈夏の終わり〉から始まるブロックでの息の吹き込み方・揺らし方が特に絶妙)。歪みのある音は鳴りを潜め、ピアノやストリングスを前面に出したアレンジに仕上げられている。

神はサイコロを振らない「泡沫花火」【Official Lyric Video】

 思うように外出のできない夏だからこそ、夏らしい情緒を薫らせるこの曲は、深く求められることだろう。メジャー第1弾デジタルシングル「泡沫花火」に続く第2弾以降のリリース、今後の展開にも注目だ。

 ■関連情報
『夜永唄』
リリックビデオ
THE HOME TAKE

『泡沫花火』
2020年7月17日(金)配信リリース
配信はこちら
リリックビデオはこちら

『神はサイコロを振らない Streaming Live「理 -kotowari-」at WWW X』見逃し配信(8月31日まで)
新体感ライブ CONNECT

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