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山田杏奈が担う、『10の秘密』の物語の深み 瞳の「謎」を膨らませる妖しさとあどけなさ

リアルサウンド

20/2/11(火) 6:00

 「私は、人殺し」

 向井理主演の『10の秘密』(カンテレ・フジテレビ系)は、登場人物たちが抱える「秘密」が複雑に交錯するサスペンスミステリー。仲間由紀恵、仲里依紗、松村北斗、渡部篤郎、佐野史郎、名取裕子といった実力派、ニューフェイス、大ベテランたちが揃いも揃って「秘密」を抱えて怪しげに振る舞うため、ストーリーは二転三転しているのだが、一連の事件の発端となるのが向井演じる主人公のシングルファーザー、白河圭太の14歳の娘・瞳の誘拐である。

 そして、曲者揃いの出演者たちに囲まれて存在感を発揮しているのが、瞳を演じる山田杏奈である。この役に山田杏奈をキャスティングしたことで、『10の秘密』の謎の深みは一段と増したと言っていいのではないだろうか。

【写真】山田杏奈撮り下ろしカット

 瞳は何者かに誘拐された後、圭太のもとに帰ってくる。しかし、彼女にはいくつもの「秘密」があった。父親に秘密で部活や塾を辞めてしまっていたこと。ジャズバーでピアノをプレイする伊達翼(松村北斗)という青年と交流していたこと。そして、別れた母親・由貴子(仲間由紀恵)と連絡を取っていたこと。

 さらに彼女が抱えるトラウマとも言える最も大きな「秘密」。それは彼女が幼い頃、過失による放火で人を殺めていたこと。父親の圭太はそのことを隠し通そうとしたがかなわず、瞳は自分の過去を思い出して絶望する。冒頭のセリフはそのときのものである。

 瞳が単なるかよわい被害者であるはずがない――彼女にはそう思わせる何かがある。華奢なのに、意思の強そうな目。真っ白な肌。太めの眉。そして印象的な唇。純真で父親思いの少女であるのは間違いないのだけれど、同時に思慮深く何かをたくらんでいるように見えてしまう。視聴者に思わず必要以上に深読みさせてしまうような、あどけなさと妖しさを併せ持っているのが山田杏奈である。

 山田杏奈のフィルモグラフィーはバラエティに富んでいる。マンガ雑誌『ちゃお』(小学館)の誌面モデル「ちゃおガール」としてキャリアをスタートし、その後、数多くのドラマ、映画などに出演を重ねてきた。映画『小さな恋のうた』ではヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。もっと早くプライムタイムの連続ドラマに進出していてもおかしくないほどの実力の持ち主である。

 「透明感の暴力」とは2019年に発売されたファースト写真集のキャッチコピーだが、山田杏奈は透明感とともにただならぬ何かをたたえている。それが如実に表れているのが、2018年に主演した二つの作品だ。

 一つは映画初主演作である押切蓮介原作の『ミスミソウ』。雪深い山奥で中学生同士がいじめに端を発して壮絶な殺し合いをするという物語。山田杏奈はいじめの果てに両親を放火で焼き殺され、自殺を強要された末に、復讐の鬼と化していじめグループの生徒たちを一人ずつ惨殺していく女子中学生の主人公を演じている。真っ黒な髪に真っ黒な目、真っ白な雪の中を真っ赤なコートを着て歩き、相手に刃物を突き立てて真っ赤な返り血を浴びる姿が似合いすぎるほど似合っていた。監督は『先生を流産させる会』の内藤瑛亮。

 そしてもう一つは連続ドラマ初主演作となった『幸色のワンルーム』(朝日放送)。両親から虐待を受け、学校でもいじめを受けて自殺寸前だった14歳の少女が、自殺を止めてくれた「お兄さん」と同棲するという物語。お兄さんの目を覗き込んで「一緒に死のう」とコロコロ笑い、すぐさま諦観の混じった表情で「ふたりとも死んだほうがマシでしょ」と呟く山田杏奈の表現力に驚かされる。川に入水自殺しようとする後ろ姿さえ美しかった。本作は朝日放送テレビで制作されたが、テレビ朝日では放送が中止されたことでも知られる。

 かと思えば、主演したドラマ『新米姉妹のふたりごはん』(テレビ東京ほか)では、血のつながらない同じ年の妹を溺愛する天真爛漫な少女をこれでもかと愛嬌たっぷりに演じてみせたのだから、単にダークな役柄が得意な若手女優という括りには収まらない。

 つまり、『10の秘密』で山田杏奈が主人公の娘・瞳を演じることで、この娘が過去に人を殺めていてもおかしくないし、自分を誘拐した相手のことを好きになっていてもおかしくないし、どこまでも純真でか弱い被害者であってもおかしくないという状況になっている。そして、この瞳という娘がどのような「秘密」を持つ役柄だったとしても、山田杏奈はそれを見事に演じてみせるだろう。

(大山くまお)

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