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川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』

ニューヨーク・ブルックリンの話から……『ティファニーで朝食を』につながりました。

隔週連載

第8回

18/10/2(火)

 『ソフィーの選択』(82年)や『ブルックリン』(2015年)など数多くの舞台になったニューヨークの下町ブルックリンを私などの世代が初めて知ったのは、エリア・カザン監督の『ブルックリン横丁』(45年)によって。日本では戦後の1947年に公開された。
 原題は“A Tree Grows in Brooklyn”。それを『ブルックリン横丁』と記した。「横丁」とは庶民の町ブルックリンの雰囲気が出ていていい日本題名だと思う。
 貧しい移民一家の物語。無論、ブルックリンの話だからアイルランド移民。父親(ジェームズ・ダン)は歌手を夢見ているが芽が出ない。ウェイターの仕事でなんとか暮している。気のいい男だが、酒飲みのため失敗ばかりしている。酒飲みの気のいいアイルランド人というのはアメリカ映画のひとつの典型的キャラクター。
 父親がそんな具合だから、しっかり者の母親(ドロシー・マクガイア、この女優も名前からいってアイリッシュだろう)が、気丈に家庭を支えている。
 長女(ペギー・アン・ガーナー)はまだ十代。本好きの女の子で、図書館というものがあるのを知り、毎日のように町の図書館に通う。家が貧しい子供には図書館は有難い。
 ある日、”The Anatomy of Melancholy”(憂鬱の解剖)という本を借りる。司書の女性が「こんな難しい本を読むの?」と驚くと、女の子はこう答える。
 「わたし、図書館の本をAからZまで全部読みたいんです」。可愛い勉強家だ。

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