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Official髭男dismの音楽はリスナーの人生とともに歩んでいく 『Hall Travelers』ツアーパシフィコ横浜公演を観て

リアルサウンド

20/2/23(日) 18:00

 メジャー初のアルバム『Traveler』を引っさげて、昨年10月に全国ホールツアー『Official髭男dism Tour 19/20 – Hall Travelers -』をスタートさせたOfficial髭男dismが、1月に続いて本ツアー2度目となるパシフィコ横浜公演を開催した。

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 当初予定ではツアーファイナルのはずだった(メンバーのインフルエンザ発症のため米子&倉敷公演が延期に)、この2月11日の公演で、恥ずかしながら彼らのライブを初体験する僕が、まず確認しておきたかったのが観客層だった。ブラックミュージックを基調にしたハイセンスなポップミュージックをやっている異才集団、というバンドのイメージからは、耳の肥えた音楽通を連想できたし、いやいや邦楽で、しかもJ-POPにカテゴライズされている音楽なのだから、普通に今時の若い子たちでしょと思う自分もいた。結果は、完全に後者。満員のオーディエンスのメインは10代~20代といったところで、意外に女子率が高い。もしかしたら、恋人同士で横浜デートを兼ねて、というカップルも少なくないのかもしれない。

 ちなみに、開演前のSEではOasis、Guns N’ Roses、Panic! at the Disco、My Chemical Romanceといった洋楽のロックが流れていた。Official髭男dism自身のチョイスなのだろうか。いずれも、キャラクターや声質などを含めてボーカリストの個性が強いバンドという共通項があり、とても興味深かった。

 そしてライブが始まるや、今度は藤原聡というボーカリストの個性……というか、その破格の歌唱力に衝撃さえ覚えることになるのだ。曲始まりと同時に緞帳がゆっくり上がっていく、古き良き昭和感を漂わせたオープニングを飾るのは、『Traveler』収録の「イエスタデイ」だったのだが、その小柄な体からは想像できないほどの声量で、しかも音程もピッチも完璧に聴こえる。〈虹の先へ〉の独唱フィニッシュの瞬間には、思わず息を呑んでしまった。実際に、ここまで歌が上手かったとは……。

 歌だけではない。ミドルテンポながらワクワクするような高揚感を生み出す、リズム隊のボトムの厚い演奏しかり、音源では気付かないくらいだが、実は全編にわたってファンキーなカッティングを入れているギタープレイしかり、バンドアンサンブルが実に巧みで多彩。これはなんというか、いわゆる普通のバンドとは違う。そんな気がしてならなかった。

 その予感と期待感は、5000人収容のホールを一瞬にして沸騰させた、続く超絶アッパーな「Amazing」から、曲を追うごとに確信に変わっていった。ここからサポートでホーンセクションとパーカッションが加わり、さらに重層的で多面的にして、ダイナミックでタイトな生音サウンドが全開になっていくのだ。

 中でも唸らされたのが、「Rowan」「ビンテージ」の秀作バラード2曲からの「最後の恋煩い」。きらびやかなディスコサウンドで会場がダンスフロアと化す中、まるで歌っているようにメロディックなドラム~ワウカッティングが冴え渡るギター~ミュートを駆使したトランペットと繋げるソロ回しを含めた演奏は、ファンクやサザンロックのバンドを彷彿させるほど濃密で圧巻だった。たとえアレンジャーが関わっていたとしても、4人の高い音楽的感性と技術力があってこそだろう。

 と、ここで、改めて気付かされたことがある。それは、こんなにも歌とバンド演奏に惹き寄せられるというのは、大前提として楽曲がことごとく素晴らしいから、ということ。先に挙げてきた楽曲はすべて『Traveler』収録曲だし、まさに燃え盛る炎のような「FIRE GROUND」、コーラスで大合唱を巻き起こした「Stand By You」、そして泣く子も歌うキラーアンセム「Pretender」と、終盤にさらなるピークを刻んでいくナンバーもそう。メジャー1発目に、とんでもないアルバムを作り上げてしまったのだ、Official髭男dismというバンドは。

 別れを惜しみ、再会を約束するような「ラストソング」で本編が終了(やはり曲終わりに合わせて緞帳がゆっくり下がる)し、アンコールではまず新曲「I LOVE…」がお披露目された。そこから「異端なスター」で会場を文字通り揺らし、「みんなと一緒に歳を取っていけるバンドになりたいと思っています。最後にその決意表明の曲を」(藤原)と「宿命」へ。今度は会場が完全に一体となったシンガロングで、歓喜と感動のフィナーレを迎えた。この日ここで2時間を共有した5000人は、これからの人生をOfficial髭男dismの音楽とともに歩んでいくに違いない。幸福感に包まれ、笑顔、笑顔で名残惜しそうに帰り支度をするオーディエンスの姿を見て、そう思わずにはいられなかった。

 メジャーデビューから2年。これからいったいどんなバンドに成長、進化していくのだろう。おそらくはMaroon 5やブルーノ・マーズ、The 1975といった、同時代のハイブリッドアクトの音楽性を、ごく自然に吸収しているであろう彼らだけに、きっと2020年代ならではの新感覚のバンド像を確立するはずだ。(鈴木宏和)

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