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板尾創路×星田英利の認め合うがゆえの“兄弟喧嘩” 『おちょやん』さまざまな師弟関係

リアルサウンド

21/3/12(金) 12:00

 千之助(星田英利)と一平(成田凌)が初めて共同で作った物語『丘の一本杉』が幕を開けた『おちょやん』(NHK総合)第70話。腕はいいけど、喧嘩ばかりしている鍛冶屋の親子のお話だ。

 千之助扮する良助は負けず嫌いの頑固おやじ。一平が演じる息子・幸太郎は父の傍若無人な振る舞いに耐えきれず、ついに家出を決意し、一本杉が立つ丘に辿り着く。辺り一帯に根を張る古い杉の木と、長年プライドを持って鍛治職人として働いてきた父の姿を重ね、尊敬の念を思い出す幸太郎。良助もまた足を引きずりながら幸太郎を追い、一本杉の前にやってくるのだった。

「もうやり直すことはできひんのやな。せめて身体だけは丈夫にな」

 芝居の最中、因縁の相手である万太郎(板尾創路)を客席に見つけた千之助は彼に向かってそんな台詞を投げかける。万太郎という役者が好きで、万太郎に勝ちたくて、万太郎に認められたくて、役者を続けてきた千之助。袂を分かつことになった2人は互いを意識しながら、それぞれの場所で生き、ようやく真っ向から勝負することができた。万太郎はこの日をずっと待ち望んでいたのではないだろうか。

 『丘の一本杉』が描く親子であるのと同時に、師弟関係でもある父と息子の姿は『おちょやん』のあらゆる関係性に当てはまる。万太郎と千之助をはじめ、天海(茂山宗彦)と一平、千之助と一平。不器用な彼らは、ぶつかり合うことでしかコミュニケーションを取ることができない。けれど師匠の方には自分が悪役になってでも、突き放して弟子を育てたいという想いがある。千之助は台本を作り上げる中で、そんな万太郎の愛情に気づいたのだろう。千之助が万太郎に贈った台詞は別れの言葉でもあり、これからも“兄弟喧嘩”をし続けようという宣戦布告でもある。

 そして、鶴亀家庭劇の笑って泣ける演目は大盛況のうちに幕を閉じ、いよいよ勝敗が決まる日が訪れる。結果、家庭劇、万太郎一座ともに3万人を超える来場者を得たが、わずか15人の差で万太郎一座の勝利となった。

 精一杯やり切った千代たちには不思議と悔しさはなかったが、「負けた事実から目をそらして美しい思い出にするんやない」という熊田(西川忠志)が代弁した鶴蔵(中村鴈治郎)の言葉に身が引き締まる。前向きなことは良いことだが、悔しさをバネに己を奮い立たせる熱い想いが今の家庭劇には必要だ。万太郎に対する恨みではなく、純粋な想いから来る「次はわしらが勝つ」という千之助の言葉に団員の想いが一つとなった。

 周囲を巻き込んだ師弟対決という名の兄弟喧嘩を終えた後、万太郎と千之助は馴染みの居酒屋で酒を酌み交わす。万太郎は結局、来日したチャップリンと会わなかった。それは世界と勝負する前に、家庭劇に圧倒的な差をつけて勝つことが先決だと判断したからだ。別れの時、千之助が万太郎に渡したハットには卵が仕込まれていた。けれど、千之助がかぶったハットにも万太郎があらかじめ入れておいた卵が。どこまでも素直になれない彼らにとって、それは『丘の一本杉』の父と息子が交わしたハグの代わりなのだろう。血の繋がりはなくとも、食材を無駄にしたことを怒った居酒屋の女将に並んでお尻を叩かれる2人の姿は誰よりも絆の深い兄弟に見えた。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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