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PEDRO、目の前の“あなた”に想い届けた爆音のロックショー 『LIFE IS HARD TOUR』ファイナルを徹底レポート

リアルサウンド

20/9/25(金) 21:30

 BiSHのメンバー、アユニ・Dがベース&ボーカルを務めるソロバンドプロジェクト・PEDROの全国ツアー『LIFE IS HARD TOUR』が、東京・LINE CUBE SHIBUYAで最終公演を迎えた。

 コロナ禍で込み上げたリアルライブを実現できなかったことに対する悔しさやフラストレーションをすべてぶつけるかのように、9月3日の名古屋公演からわずか3週間で全国9都市を駆け抜けたツアー千秋楽の模様を、レポートしていく。

「気持ちのいい殴り合いになったら最高」

 2018年9月にリリースした1stミニアルバム『zoozoosea』から活動をスタートさせたPEDRO。その後も2019年8月の1stフルアルバム『THUMB SUCKER』リリースや、自身初となった同年の全国ツアー『DOG IN CLASSROOM TOUR』などを経て、アーティストとしての地位を着実に築き上げてきた。

 しかし、今年はコロナ禍の影響で3月から行われる予定だった全国ツアー『GO TO BED TOUR』が中止に。4月にYouTube公式チャンネルで公開された動画「PEDRO / OFFICIAL INTERVIEW [衝動人間倶楽部]」内でアユニは、ツアー中止が決まった時に「ライブができないのが悔しくて、泣いちゃったりしていた」と振り返り、次の現場では「色々な感情を全部ぶちかますつもりなので、気持ちのいい殴り合いになったら最高だなと思います」と胸の内を明かしていた。

PEDRO / OFFICIAL INTERVIEW [衝動人間倶楽部]

 その後、6月にクラウドファンディングにより支援を募った無観客配信ライブ『GO TO BED TOUR IN YOUR HOUSE』を開催。そしてようやく、満を持して行われた有観客ライブが、8月にリリースした2ndフルアルバム『浪漫』をひっさげた全国ツアー『LIFE IS HARD TOUR』だった。

「人間がいるのか不安だったけど、現実でした」

 コロナ禍でのライブに関するガイドラインに沿い、通常のキャパシティを抑えて客席を一つずつ空けながら行われた『LIFE IS HARD TOUR』の千秋楽。広々としたホールながら声援や歓声が禁止される環境下であっても、観客たちは終始ステージ上のパフォーマンスへ熱い視線を送り続けていた。

 定刻通りの19時、開演を告げるSEとともにアユニ・D、サポートメンバーである田渕ひさ子(Gt)と毛利匠太(Dr)が登場すると、1階席ではフェイスシールドを着用した最前列の観客から最後方の観客までが総立ちとなり、会場全体に大きな拍手の音が響いた。

 ステージ後方から赤く煌々としたスポットライトが照らされ、けたたましいサウンドからスタートしたこの日の1曲目は、現在の世相に奇しくも重なるかのような「WORLD IS PAIN」。レスポンスが制限される中でも、観客たちは腕を振り上げながらステージの熱気に応えていた。

 だんだんとステージと客席の一体感が増していった「猫背矯正中」や「愛してるベイベー」を披露した後、一瞬の静寂と暗転を挟み、アユニがほんの一言「PEDROです、よろしくどうぞ」とポツリとつぶやいて始まったのは、8月にリリースした1stシングルの表題曲「来ないでワールドエンド」。客席の熱量がさらなる追い風となったのか、この辺りから田渕のギターサウンドや、毛利がドラムを叩きつける音もさらに力強さを増していく。

 その後に続いたのは、攻撃的なキラーチューン「GALILEO」で、曲中の「ヘイヘイヘイヘイ!」というフレーズにつられて、ベースを手にしたアユニがその場で飛び跳ねる。鋭い視線を客席へ向けながら〈人間だもの〉と語りかけ続ける「pistol in my hand」や、田渕のギターが悲鳴を上げるように泣いていた「ボケナス青春」、前向きでありながらも哀愁がただよう「さよならだけが人生だ」を披露したあとに、会場全体の空気が一変。

 「老若男女、無問題!」のかけ声で始まった「無問題」でキュートな一面を醸し出し、メロディアスな「感傷謳歌」に雪崩れ込んで行ったここまでの流れは、いわば静と動の“静”。腕を振り上げながらステージへ追いつこうとする客席の熱気を受けて、メッセージ性の強い歌詞の力も重なり、ライブの折り返し地点でありながらすでにPEDROの“エモさ”が強く滲んでいた。

 いったんステージが暗転した後に「改めまして、PEDROです」とポツリとつぶやいたアユニは、静けさを取り戻した客席に向かい、言葉を噛み締めながら「ツアー初日の本番直前まで、私たち側にも客席側にも肉体があって、こうしてライブができるのは現実味がなかった」と伝える。

 開演前のSEが流れている中でも「人間がいるのか不安だったけど……。現実でしたわ」という言葉は、演者側にしか込み上げるはずのない感情。そして、「精神的にも助けられ過ぎているサポートメンバーの方々」と田渕や毛利への敬意や、客席へのねぎらいをにじませ「マスク必須であったり声を出せなかったり、決まったルールの中でも楽しんで帰ってください」とつぶやいたアユニの一言を受けて、ライブは後半戦へ突入した。

「同じ時間、同じ場所、同じ体験を共有できる貴重さ」

 煌々としたスポットライトに照らされたステージで軽快なメロディが流れていた「へなちょこ」では、毛利がドラムスティックで客席を鼓舞。わずかな暗転を挟みサイケデリックな演出の中でスタートした「ironic baby」、心の声を目の前のマイクへぶつけるかのような「Dickins」と続き、次の「おちこぼれブルース」では、物憂げなメロディにつられて観客は腕を組みじっとステージを見守っているかのようだ。

 なにげない日常を切り取った「生活革命」で客席はさらに静まり、時折ふさぎ込みたくなるような今の世相を思い「何てことない日々こそ、幸せなのかもしれない」という感情が込み上げてくる。しかし、ライブ本編も残り数曲。空気を裂くように歌い上げる「SKYFISH GIRL」で、会場は徐々に激しさを取り戻す。

 続いて、ステージ上で「みなさま、本日はお忙しい中お集まりいただきましてありがとうございました」と挨拶をするアユニ。「LIFE IS HARD……人生は大変厳しいものですが、最後まで楽しい時間をお過ごしください。私、アユニが僭越ながら、乾杯の音頭を取らせていただきます。右手をお上げください。みなさまの幸せと健康を祈りまして、乾杯!」という口上で始まったキラーチューン「乾杯」では、客席が何度も〈乾杯〉のフレーズに合わせて右腕を上げて前のめりでステージへと食らいつく。

 ライブアレンジされた田渕のギターリフでスタートした「自律神経出張中」に続き、本編ラストを飾る「空っぽ人間」では、虹のように光るスポットライトが目立っていた。

 客席からの手拍子を受けて、アンコールで再びステージへ戻ってきたPEDRO。コロナ禍でようやく実現した全国ツアーを振り返るアユニは、静かにじっと見守る客席へ向けてみずからの思いを口にした。

 震えるような声で「もう終わっちゃうんだ。寂しい」とつぶやくアユニ。言葉を一つひとつ噛み締めながら「今日が最後の日で、始まる日、終わる日があって。すごい長いなと思っていたけど、もうアンコールで」と寂しさを滲ませる。

 「3年前の私は、一人の人の前でしゃべることもできなくて。だけど……まだまだペーペーだけど、たくさんの人との縁が繋がりあなた方とも音楽を通して出会うことができて、日々支えられながら助けられながら、人間にちゃんと近づけたと思って。すごい、生きててよかったと思わせてくれて、本当にありがとうございます」と周囲への感謝を吐露した。

 さらに、世相を憂いながら「前みたいにギューギュー詰めのライブハウス公演や楽しいことができなくなっちゃって。この数カ月間のうちに無観客ライブを経験して、そこでしかできない客席を使った演出とかもそれはそれで素晴らしいけど、目の前にこうしてあなた方がいてくれて、同じ時間、同じ場所で、同じ体験を共有できるのは本当に貴重で、幸せな時間だと改めて思いました」と、コロナ禍で味わった思いをまっすぐに伝えていた。

 そしてアンコールでは、名残り惜しそうな表情を浮かべながらも「浪漫」を披露。この日のラストを飾る「NIGHT NIGHT」では、その場で飛び跳ねるアユニに向けて客席も精一杯の拍手を返し、煌々と点滅するスポットライトの下で、PEDROの面々はステージを後にした。

PEDRO / 浪漫 [LIFE IS HARD TOUR FINAL] @ LINE CUBE SHIBUYA

■カネコシュウヘイ
編集者/ライター/デザイナー。アイドルをはじめ、エンタメ分野での取材や原稿執筆を中心に活動。ライブなどの現場が好きで、月に約数万円はアイドルへ主に費やしている。単著に『BABYMETAL 追っかけ日記』。執筆媒体はWeb『ダ・ヴィンチニュース』『クランクイン!』『ウレぴあ総研』、雑誌『日経エンタテインメント!』など。

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