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『なつぞら』なつの姿から思う、子育ての“正しさ” 朝ドラの母親たちに寄せて

リアルサウンド

19/9/27(金) 5:50

 『なつぞら』(NHK総合)の主人公・なつ(広瀬すず)の家の本棚にある、「子育てについて」という分厚い本。リビングの目立つ場所に置かれ、何度も手に取ったのであろう雰囲気を感じる。夜遅くまで仕事をし、時には子どもを預けて仕事に向かわなければいけない後ろめたさを感じているなつ。本はきっと、子育てに迷いを抱えるなつの心の拠り所になっただろう。しかし、その本の中に書かれた言葉は果たして「正解」なのだろうか。

 なつがアニメーターとして軌道に乗ってきた『なつぞら』後半戦、なつにとって仕事と子育ての両立というのは大きな葛藤として描かれた。まだ共働き世帯が少なく、寿退社も当たり前の時代。出産を機に、女性は役職を解かれたり、職を失ったりすることもあった時代に、なつは東洋動画でアニメーターとして働き続けるために、さらに作画監督という重大なポジションを担うために、産後6週間で職場復帰をした。代わりに旦那である一久さん(中川大志)が在宅で仕事をしながら、子どもをみることに。一久さんも仕事復帰した後は、元同僚の茜さん(渡辺麻友)を頼り、北海道の実家にも助けてもらいながらみんなで子どもを育てていった。

 なつの子育てに対する姿勢に、ネット上ではさまざまな意見が飛び交った。現代は「子育ては女性がやるもの」という時代ではなく、「子育ては夫婦と周りの人たちと協力しながらやるもの」という認識に変わっている。さらに世界に目を向けると、育休制度がないアメリカでは産後すぐに女性が職場復帰することは往々にしてあり、北欧では夫婦ともに育休がとれる制度が整っている地域もある。仕事と子育てのバランスというのは、個々人の価値観にゆだねられるものだ。

 最近の朝ドラでは、さまざまな子育ての価値観が描かれる。なつのように、子育てへの引け目を感じるほど仕事に熱中している姿は、『あさが来た』のあさ(波瑠)にも見受けられた。娘の優(増田光桜)から「お母ちゃんなんて!」と反発される時期が、なつにもいずれやってくるだろうけれど、母のたくましい背中を見て子どもは多くを学んでいるようにも見えた。

 『とと姉ちゃん』では仕事に身を置き、「暮らしの手帖」にすべてを捧げる主人公・常子(高畑充希)の姿が印象的だった。常子は結婚を選ばなかったが、社員や身の回りの人々、自分の家族など守りたい人たちのために奮闘する姿は、子育てと仕事の両立に通ずるところがあった。子育てに充分な時間をかけて、一対一で向き合う主人公ももちろんいた。どんな母親も、その選択が喜びを生むのであれば、自分らしく居られるのであればいいのだろうと彼女たちの生き方を見ていて思う。

 子育てと仕事の両立でいちばん難しいのは、物理的な事柄もあるが、産後に変化した自分の身体が思った以上に変わってしまい、産前のように仕事ができないことの方が大きいように思う。そうして、自己肯定感がものすごく乏しくなることはとても辛い。だから、あんなに強気ななつでさえ弱音を吐くのだ。

 「仕事ばっかりしていて子育てをちゃんとできていない」と、なつが北海道の実家から助けに来てくれた母親・富士子(松嶋菜々子)にポツリと弱音を吐くシーン。母に預けて仕事ばかりしている自分に、なつは引け目を感じていた。その選択が正しかったかどうかは、なつにしかわからない。ただ、子どもに対して「我慢させて申し訳ない」とたびたび発言する姿は、気持ちはわかるが、そこまで自分を責めなくてもよいのにとも感じた。なつにとって仕事は金稼ぎではなく、自分が自分であるための手段のはず。仕事から喜びが生まれ、そのベースがあるからこそ子どもにも充分な愛を注ぐことができているように思う。子育てと仕事を天秤にかけているのではなく、どちらも私の一部。欲張りだと思われるかもしれないが、その分の努力だって惜しんでいないはずだ。そうして、なつの背中を見て優はイラストを描き、アニメ『大草原の少女ソラ』の放送を楽しみに待ち、母の故郷に行きたいと言った。それが答えなのではないだろうか。

 毎日一緒に居ること=愛情ではなく、愛情のかけ方はさまざまあり、遠巻きの大人たちが正解不正解を決めるものではないと思う。やりたかったことを後悔したり、子どもを責めてしまいそうになったりするくらいなら、自分自身が心地よくいられる状態を大切にして、子どもと向き合えることの方が大事なのではないかと思う。

 しかし、これはあくまでも、働くことが好きで仕事と子育ての両立を重視したい“私”の一意見だ。子育てをしていて、よく思う。子育ては宗教のようなもの。ああした方がいい、こうした方がいい、とネットや本でさまざまな意見が飛び交うが、すべてをつじつま合わせようとするのは全くもって無理なこと。子育てに“正解”なんてきっとないのだから、自分の選択に誇りを持ち、知らぬ間に常識として埋め込まれる「正しさ」の呪縛から解き放たれてほしいと、なつの姿を見て願っていた。(羽佐田瑶子)

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