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和田アキ子、デビュー50周年を飾る“掟破り”な面白さ トリビュート盤&主催フェスから考察

リアルサウンド

18/9/28(金) 12:00

 和製リズム&ブルースの女王、和田アキ子。

 いまや、音楽ファンなら、その肩書きをすんなりと受け入れる人は多いのではないだろうか。歌謡曲からJ-POPの時代を経て、日本のソウルディーバのレジェンドとしての位置づけはすっかり定着したのではないだろうか。

(関連:和田アキ子、EXILE・SHOKICHIとのコラボ曲を語る 「ジャム&ルイスが私のために書いてくれた」

 1968年、「星空の孤独」でデビュー。ヒット曲を連発し人気歌手として世に知られるようになったのは70年代のことだが、ルーツであるブラックミュージックとのつながりに注目が集まり再評価が進んだのは、実は00年代以降のことである。バラエティ番組の司会として活躍し「芸能界のご意見番」としてのイメージが定着する一方、DJやミュージシャンの側から、いわゆるレアグルーヴ的な発想で和田アキ子のソウルシンガーとしての側面にスポットを当てる数々のプロジェクトが行われてきた。

 たとえば小西康陽が監修と選曲をつとめた『フリー・ソウル 和田アキ子』(2004年)。横山剣、ゴスペラーズ、朝本浩文などの面々がプロデュースをつとめ、m-floとのコラボレーションも収録した『リズムアンドブルースの女王。』(2006年)。福原美穂からのオファーで実現したコラボレーション「Get Up! feat. AKIKO WADA」(2011年)もあった。

 そして、和田アキ子自身も、歌手として第一線であり続けている。

 デビュー50周年イヤーに突入した昨年10月にはベスト盤『THE LEGEND OF SOUL』をリリースし、全国ツアーも開催。今年1月にはカバーアルバム『WADASOUL COVERS ~ Award Songs Collection』がリリースされた。そのリード曲として収録されたマーク・ロンソン「Uptown Funk」のカバーも話題になった。

 デビュー50周年を記念して様々な企画が行われているのだが、中でも、とても面白く、興味深い内容の一枚が、先日リリースされた『アッコがおまかせ ~和田アキ子50周年記念トリビュート・アルバム』である。

 MISIA、MAN WITH A MISSION、竹原ピストル、Toshl(X JAPAN)、横山健、サンボマスター、氣志團などなど、世代もジャンルもバラバラな面々が集まり、和田アキ子の楽曲をカバーしているこのアルバム。何が面白いかというと、メンツだけでなく、解釈もバラバラなのである。

 「和製リズム&ブルースの女王」や「レジェンド・オブ・ソウル」というキャッチコピーを持つ和田アキ子だけに、これまで、その音楽的な再評価を狙ったプロジェクトには、ある種の「黒っぽさ」の文脈が暗黙の了解としてあった。つまり、ソウル歌謡の元祖としての位置づけがなされることが多かったのだ。しかし、このアルバムでは、もっと奔放に各アーティストがやりたい放題で和田アキ子の楽曲をカバーしている。結果、いくつかのテイストが浮き彫りになっている。

 まず一つ目は、ロック的解釈としてのカバー。ピアノ・アルペジオのイントロから轟音ギターと共に徐々に熱量を上げていくMAN WITH A MISSIONの「あの鐘を鳴らすのはあなた」が最も象徴的だ。氣志團の「Shut Up!」も、Toshl(X JAPAN)の歌うパワーバラード「幸せのちから」も、チョーキングをきかせたギターソロがポイントになっている。8ビートのアメリカンポップロック風に味付けした大原櫻子の「さあ冒険だ」もこれにあたるだろう。

 二つ目は、フォーク的解釈としてのカバー。アコースティックギターの弾き語りで臨んだ横山健「抱擁」、竹原ピストル「Mother」が象徴的だ。どちらも言葉の一音一音をメロディに当てはめて朗々と歌い上げる和田アキ子の歌い方をトレースしている。阿久悠が多くの曲の作詞を手がけていることも大きいが、フェイクや英語的発音の一切混じらない発語が和田アキ子の歌の大きな特徴であることも伝わってくる。

 三つ目は、バラードシンガーとしてのカバー。MISIAの「もう一度ふたりで歌いたい」、Matt Cabの「夢」、C&Kの「愛の光」がこれにあたる。ボサノヴァのアレンジで「だってしょうがないじゃない」を歌ったJUJUもそうだが、横山健や竹原ピストルと対照的に、歌における吐息成分を増やすと“和田アキ子っぽい歌唱”から遠くなるという発見もある。

 そして四つ目は、これまでの再評価の系譜にも連なるソウルやファンク、ブラックミュージック的解釈のカバー。8ビートではなく16ビートのグルーヴを活かした横ノリのアレンジだ。前述した『リズムアンドブルースの女王。』にも参加している横山剣率いるクレイジーケンバンドの「笑って許して」、やはり同作に参加しているVERBALがメンバーのPKCZ®とEXILE SHOKICHIによる「古い日記」が象徴だ。サンボマスター「どしゃぶりの雨の中で」も、この路線になっている。

 特にサンボマスターは、かつて自らの作品の中でも「あの鐘を鳴らすのはあなた」をカバーしている。そのカバーが収録されたシングル『全ての夜と全ての朝にタンバリンを鳴らすのだ』(2005年)も、ミドルテンポのふくよかなソウルナンバーだ。最新曲「輝きだして走ってく」も含めて、ここ数作はがなりたてるように歌う直情的なパンクロックが音楽性の主体になっているが、サンボマスターはもともとソウルミュージックをルーツに持つバンドだ。個人的には、今一度このソウル路線でアルバムを作って欲しいとも思っている。

 というわけで、全13曲、それぞれのやり方でカバーしていることで、統一感はまったくない、だからこそ面白みのあるトリビュートアルバムになっていると言えるだろう。

 そして、10月17日、18日には日本武道館にて、和田アキ子の初開催によるイベント『WADA fes~断れなかった仲間達~』が開催される。

 トリビュートアルバムの参加陣からは横山剣(クレイジーケンバンド)、Toshl(X JAPAN)、氣志團、C&Kが出演。加えて加山雄三、鈴木雅之、前田亘輝(TUBE)、倖田來未、AKB48(AKO選抜)、DA PUMP、ピコ太郎、BOYS AND MENなどの面々が出演する。

 こちらも世代もジャンルもバラバラな面々だ。主宰が68歳、出演陣が10代から80代まで広がるフェスというのも前代未聞である。正直、客席がどんなムードになるのか想像もつかない。

 が、そういう「掟破り」な面白さが、今回のトリビュートにも『WADA fes』にもあると言えるだろう。(柴 那典)

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