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『アシガール』はジュブナイルドラマの傑作! 黒島結菜が中心にいることで生まれた説得力

リアルサウンド

20/6/5(金) 6:00

 10代の若者を主人公にして若者に向けて作られたジュブナイルドラマが好きだ。学校を舞台にした物語で恋や友情や青春を描くのが定番だが、そこにSFやファンタジーの匂いがあれば最高である。2017年にNHKで放送され、現在はドラマ10(金曜22時)枠で再放送されている『アシガール』は、ジュブナイルドラマの傑作で毎週楽しみにしていた。

【写真】伊藤健太郎が黒島結菜をお姫様抱っこ

 本作は、戦国時代にタイムスリップした女子高生・速川唯(黒島結菜)を主人公にしたラブコメディ。足が速いことだけがとりえの唯は、その才能を持て余しており、本気で打ち込める何かを求めていた。そんなある日、天才的な頭脳を持つ引きこもりの弟・尊(下田翔大)が作った、懐刀を模したタイムマシンを起動させてしまい、戦国時代にタイムスリップしてしまう。

 少年のような唯は唯之助と名乗り、足軽として行動するが、そこでイケメンの若君・羽木九八郎忠清(健太郎、現・伊藤健太郎)と出会う。若君に一目惚れした唯は、百姓として働きながら若君に仕えようと四苦八苦する。戦国時代と現代を往復しながら(タイムマシンは満月の夜だけ使用できる)、若君のいる羽木家の滅亡を防ごうと唯は奮闘するのだが、同時になんとか若君の側にいようとする健気な姿が描かれる。

 唯を演じる黒島は少年のような素朴な少女で、80年代の原田知世を彷彿とさせる。原田の出演したジュブナイルSFの名作映画『時をかける少女』を2016年にリブートしたドラマ版『時をかける少女』(日本テレビ系)で黒島は主演を務めていた。他にも数々の学園ドラマやSFドラマに黒島は出演しており、2010年代のジュブナイルドラマや映画にはなくてはならない存在だった。

 黒島はシリアスとコミカルの間を綱渡りする演技が絶妙で「高校生の弟がタイムマシンを作ってしまう」というような無茶な世界観も、彼女が中心にいると説得力を感じてしまう。こういうジュブナイル的な世界を舞台にすると水を得た魚のように生き生きとしている。

 一方、若君を演じる健太郎も完璧だ。クールな若君は態度こそ(若殿様ゆえに)偉そうだが、嫌味な感じが全くないという愛嬌のある若君を的確に演じている。そんな若君のチャーミングさがもっとも現れていたのが、第6話だろう。怪我をした若君を治すために唯は若君を現代に送り込むのだが、現代にやってきた若君はTシャツにGパンという現代的な服装を着こなし、引きこもりの弟・尊とすぐに仲良くなる。この二人の凸凹コンビがまた素晴らしく、イケメンの若君が活躍するだけの現代学園ドラマを、もっと観たかったなぁと思う。

 また、この回は、尊だけでなく、唯の父母もあっさりと若君を受け入れるところが面白い。この二人は唯が戦国時代から帰ってきた時もタイムスリップして戦国時代に行ったことをあっさりと受け入れるのだが、この距離感はとても現代的だと思う。

 昔のジュブナイルドラマだと、少年少女は大人に知られることなく秘密の冒険を繰り広げるものだが、近年のジュブナイルドラマは大人が優しく物分りが良い。

 『アシガール』と同じように今期、再放送されている『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)も都市伝説のテイストを取り入れたジュブナイルテイストの学園ドラマだが、主人公の高校生たちを優しく見守る父親や教師の姿が描かれている。おそらく少子化もあるのだろうが、思春期の若者と両親は仲が悪いものと思っていた自分にはちょっとしたカルチャーショックである。だが、大人が子供たちを見守る姿をしっかりと描くのは、良質なジュブナイルドラマの基本ではないかと思う。

 また、ジュブナイルドラマは出演俳優も若手中心で、SFやファンタジーの要素が混ざり込むため、一見、チープな子供騙しの作品に見られてしまう。このことを否定的に捉える人も少なくないが、このチープさがもたらす「ごっこ遊び」の手触りこそが、ジュブナイルドラマの肝だと思う。

 例えば『アシガール』なら戦国時代という異世界で恋をして冒険することで唯は大人に成長していくのだが、おそらく人が豊かな内面を持った個を確立するためには、思春期に現実とは切り離された世界で「ごっこ遊び」の時間を正しく過ごすことが必要なのではないかと思う。

 ジュブナイルドラマは、そんな「ごっこ遊び」の世界を追体験させてくれる。だからこそ多くの若い人に観てほしい。

 最後に、本作の脚本を担当した宮村優子は、NHKを拠点に執筆する脚本家で、作品数は少ないものの、良質のドラマを多数手掛けている。代表作は、恩田陸の同名小説(新潮社)を映像化した『六番目の小夜子』(NHK)だろう。鈴木杏、栗山千明、山田孝之、松本まりか、勝地涼、山崎育三郎の出世作としても知られる作品だが、学校に伝わる不思議な言い伝えを題材にした良質の学園ドラマで、これもまた、ジュブナイルドラマの傑作だ。ドラマの再放送に注目が集まっている今こそ、もう一度観たい作品である。

(成馬零一)

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