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18scott×SUNNOVA、アルバム『PAISLEY』に込めた“受け入れて前に進む意志” 「音楽は自分の感情を提示する場所」

リアルサウンド

20/7/22(水) 19:00

 18scott×SUNNOVAが2ndアルバム『PAISLEY』をリリースした。内省や葛藤をオリジナリティの高いトラックとラップで昇華していった前作『4GIVE4GET』から1年半。今作はよりハードでアグレッシブな作品に仕上がっているが、自身の素直な感情と対峙し、時に客観的に己を見つめながらリリックに落とし込むという18scottのスタンスは変わらない。その分、「面白い!」と感じたラッパーには積極的に声をかけてコラボし、自分たちのヒップホップのフィールドを着実に広げていることに加えて、SUNNOVAのトラックも自由度を増して進化している。ますます互いのグルーブが高まってきている18scott×SUNNOVAにインタビューを行った。(編集部)

「PAISLEY」は闘争の証みたいなイメージ

ーー今回のアルバム『PAISLEY』ですけど、先行で配信された「CASH ONLY」であったり、1曲目の表題曲「PAISLEY」の印象もあって、前作と比べても結構ハードな作品に感じました。

18scott:アルバムのテーマとかは僕が決めることが多くて。1stアルバム『4GIVE4GET』は自分の中の葛藤とかを表した作品だったんですけど、リリースすることでその葛藤も落ち着くかなと思ったのに、逆にいろんなことを考え出しちゃったりもして。もっと届いて欲しいところに届かないとか、いろんな悩みが生まれてきたので。今回のアルバムでそれを終わりにしたいと思って、全部出そうと思って作ったら、ハードになっちゃいました。

(関連:18scott×SUNNOVAが語る、濃密なヒップホップアルバム『4GIVE4GET』で示したシーンの行方

ーーすごく攻撃的にも感じたんですけど、そういう部分は自分の中にもともとあったものですか?

18scott:ありますね。ラップの歌詞を書き始めたのが高校生とかだと思うんですけど、意味なく著名なラッパーのディス曲とか作っていて(笑)。良くないことですけど、もともとそういうマインドを持ってたりもします。

SUNNOVA:スポーツをやってたから、体育会系なところがあるよね。

ーー例えば、今回の「CASH ONLY」と前作に収められた「MONEY TALX」は両方ともお金の話で、テーマとしては対に思えるんですけど、曲調とかは全く違うタイプの曲に仕上がっていて。

18scott:そうですね。繊細な自分の悩みとか葛藤とかを表現した1stに対して、今回はどっちかと言うと「分かんないヤツは全員置いていく」ぐらいの気持ちで。あえてそこは似たようなテーマにしたんですけど、もっとボースティング系の内容にしようと思って、ちょっと強くなったのかもしれないです。

ーーアルバムタイトルの『PAISLEY』は、どういうイメージから来ているのでしょうか?

18scott:『PAISLEY』っていう題名は結構最初の段階から決めていて。『池袋ウエストゲートパーク』とかで、カラーギャングって流行ったじゃないですか? もちろん、アメリカのリアルなギャングとか、チカーノの人たちにとっても、ペイズリー柄のバンダナってユニフォームみたいなもので。そういう人たちの闘争の証みたいなイメージが僕の中にはあって。僕たちの世代がストリートに憧れて、学生の頃にそういうファッションをしてた時に、ペイズリーってそういう象徴だったんですよね。今回のアルバムは戦うアルバムにしたかったんで。だから、「PAISLEY」の感じが全てを表しています。

ーー1曲目の「PAISLEY」は今回のアルバム制作の最初のほうにできたのですか?

SUNNOVA:わりと後半でしたね。

18scott:もともとは他のビートで「PAISLEY」っていうタイトルの曲を作っていて。

SUNNOVA:ちなみに、僕はそれは聴いてないんですよ(笑)。

18scott:自分的にはあまりピンときてなくて。だから、アルバムトータルで『PAISLEY』にして、別に表題曲を作らなくても良いかなとも思っていたんですけど、SUNNOVAさんからあのビートが送られてきて聴いたら、ガツンときて。2曲目に入っている「TILL I DIE」を1曲目にするっていう構想で僕はずっと作っていたんですけど、レーベルスタッフから「最初にガツンとインパクトのある曲を持ってきたほうがいいんじゃないか?」って言われて。それですごく納得いく曲ができたので、「PAISLEY」を1曲目にして。

ーー今回のアルバムは前作と比べて、トラックの面でもすごくバリエーションがあるようにも感じましたが、SUNNOVAさんはアルバムのテーマや『PAISLEY』というタイトルを伝えられてから、どのように制作を進めていったのでしょうか?

SUNNOVA:アルバムのテーマやイメージは結構早めにもらうんですけど、トラックの内容に関しては何も言われないので、自分で咀嚼して、イメージを作っていって。前作も結構色んなバリエーションはあったと思うんですけど、18scottと一緒にライブをやったり、バンド(downy)での活動であったり、ソロでもやったりする中で、多様性みたいなところを自然と意識するようになったんだと思います。それから、今回のアルバムはラップが乗ることを想定して作るっていうことは強く意識しました。あと、前のアルバムが出てからライブをやる中で、自分がカッコいいと思うものと、お客さんの反応に結構乖離があったんですよね。例えば「CASH ONLY」とかは、ライブでやった時の反応がすごく良くて、ライブをやるたびに自分の中にそういうのがインプットされていって。「じゃあ、次はこういうのを作ってみよう」っていう感じで作ったトラックを18scottに渡して。それを取捨選択してもらって、ラップが入ってきて。だから、今回はすごく聴く側を意識しました。リスナーとかライブに来てくれるお客さんのテンションが上がったり、何か感じてもらえるような曲ができたらいいなっていうのを逆算して、さらにラップが入るのを想定して作るみたいな感じでした。

ーー「CASH ONLY」はラップのドライブ感がトラックとがすごく合っているから、あそこまでカッコいいんでしょうね。

18scott:正直言うと、最初にトラックが来た時は、これは使わないと思ったんですよ。

ーーそうなんですか!?

18scott:最初にあのビートを聴いた時は「これで上手くラップできるのかな?」って思って。けど、実はあの曲を作った頃に僕のラップのスタイルがちょっと変化したというか、上手くなったんですよ。

ーーたしかに「CASH ONLY」はすごくスキルが上がったのを感じましたね。

18scott:僕のラップのもともとのルーツは、KREVAさんとかRHYMESTERといったFG周りで。その後にDOWN NORTH CAMPさんとかを学生時代にずっと聴いていて、かなり影響受けてたんですよ。1stアルバムだと最初のほうに作った「ALLRIGHT」とか「MONEY TALX」もそうですけど、ラップのスタイルとかもビートへの乗り方がそうなっちゃう。それはそれで好きだったし、良かったんですけど、もっと違うこともできるようになって。「CASH ONLY」を作った頃がちょうど、自分のスタイルの中で、いろんなタイプのビートに対して、いろんなアプローチができるようになった時期だったんですよね。

SUNNOVA:そう言われると、たしかにスタイルが変わったよね。

18scott:変わったじゃなくて、進化したって言ってくださいよ(笑)。

SUNNOVA:(笑)。今回のアルバムの制作が終わって、その後に作っている曲とかを聴いても、本当に上手くなってるなって思いますね。

ーー他の曲でも結構、言葉を詰め込んでみたりとか、明らかに前作とは違うことをやっていて。テクニカルなものに挑戦してるようにも感じました。

18scott:そうですね。やっぱりラッパーだったら、そういうものをやりたくなっちゃうってことじゃないですか?(笑)

ーー特に今回はフィーチャリング曲でそういう傾向があるようにも思いました。例えば「YOUNG BROS feat. Andre, LIB」とかですね。

18scott:「YOUNG BROS」に参加している名古屋のAndreと沖縄のLIBっていうのは、二人とも歳下なんですけど。二人はお互い面識はないし、Andreに関しては、僕もまだ会ったこともないんですよ。前にC.O.S.A.さんがインスタかなんかで「こいつヤベえ」みたいなことを言ってて。そしたらインスタで繋がって、「一緒に曲をやろう」っていう話になって。彼は若いのにラップがすごく上手いから、もう一人若手で格好良いラッパーに参加してもらいたくなって、沖縄のLIBを呼んで。あの曲は一番頑張りましたね。

ーーいろんなタイプのフロウが詰め込まれていて、かなりテクニカルでした。

18scott:そうですね。フロウにこだわったり、いろいろ考えて書きました。

ーーあと、フィーチャリング曲だと、ACE COOL、Taeyoung Boy(TAEYO)、Gottzというバラエティに富んだ3人が参加した「G.O.D.」は今回のアルバムの目玉の一つだと思いますが、この3人を選んだ理由は?

18scott:個人的にGottzさんが大好きで、一緒に曲をやりたいなってずっと思っていて。GottzさんがMUDさんと一緒にやっている「+81」っていう曲の中で〈助けてはくれない G.O.D.〉ってラインがあるんですけど、そこから「G.O.D.」っていう曲を作りたいなって。だから、Gottzさんは絶対に入れたくて。あと、自分の中で日本で一番ラップが上手いのはACE COOLさんだと思ってるので、ラップの神だから呼んで。Taeyoung Boyはめちゃくちゃ仲が良いんです。彼はメロウな楽曲のイメージがあると思うんですが、実はセルフボースト系もめちゃくちゃカッコいいんですよ。あとはものすごくイケメン。だから、イケメンの神だろうって。僕の中の神を3人召喚した曲です。超ボースティングしてくれってお願いして、バッチリな曲になりました。

ーーこの曲って静かでクールな感じトラックなのに、そこで激しく戦っているのが良いですね。

18scott:あのビートを聴いた時に、上ネタのメロディが印象的で。シンプルなループでマイクリレーみたいなのをやったらカッコいいなって。自分が中学とか高校の時とかに流行っていた、USとかのオールスター感あるような、「これハンパねーな!」っていうメンツが集まったような曲をやりたかったんですよ。そういう願望がずっとあって。

「目に見えないものと戦いながら、向き合っていくしかない」

ーーシンプルなビートっていう意味では、日本で言うと「証言」(LAMP EYE)みたいな感じですね。

18scott:そうですね。そういう感じを、今のメンツでやりたいなと思って。そういうのって、今はなかなかないじゃないですか。

SUNNOVA:一曲でフィーチャリング3人って、たしかに最近はあまりないかもね。

18scott:しかも、みんなちゃんと18小節、18小節、フック、18小節みたい展開の曲はなかなかないですよね。そういうのをやりたかったんですよ。

ーーフィーチャリング曲だと、あともう一つ「24 feat. YNG JOE$」も良い曲ですね。

18scott:「柳ジョーズ(YNG JOE$)」って読むんですけど、彼はマジで良いです。マジで今、一番カッコいいっていうぐらい。

SUNNOVA:彼は今、一番良いですね。

18scott:YNG JOE$もAndreと同じで名古屋なんですけど、Andreとも仲が良くて。最初に知ったのは、「I LOVE YOU」っていう曲のMVがTwitterかなにかで回ってきて。観たらすごく格好良かったから、インスタで速攻フォローして。「『I LOVE YOU』のリミックスを作らせてくれ!」ってメッセージを送って、作らせてもらいました。彼が東京に来た時に同じイベントに出て、そこで初めて会って、その時にアルバムに参加してもらう話もしたんですけど、タイミングが合わず、一回なしになって。けど、アルバムの制作が遅れたこともあって再度お願いをしたんです。

ーー今回のアルバムは最初に攻撃的な「PAISLEY」で始まって、最後のほうは「24 feat. YNG JOE$」とか「HEART BREAK KID」のメロウな感じで終わっていく。その中にいろんなメッセージが込められていますけど、最終的に一番伝えたいことって何でしょうか?

18scott:社会で生きていて、いろいろ悩んだり、思うことってみんなあると思うんですよ。ムカつくなとか、ウザいなって思うこともあると思うし。前回のアルバム『4GIVE4GET』は、タイトルの「許して忘れる」っていうのが一番平和的な解決なんじゃないかっていう思いで、自分自分もそうしようって付けたんですけど、結局、俺がそれをできなくて。どうしても引っかかるものがあるし、なかなか前に進めない。けど、何か目に見えないものとずっと戦いながら、最終的にずっと向き合っていくしかないんだなって。「HEART BREAK KID」は恋愛の曲ではあるんですけど、イメージとしては、いろいろと上手くはいかないけど最終的には自分の人生だから受け入れて、前に進むっていうメッセージを込めています。

ーー結局進むしかないっていうメッセージは、アルバム全体に共通していますよね。

18scott:そうですね。決して後ろ向きではないし、基本的には前向き。いつだってポジティブなんですけど、ただ、手放しに「俺が一番イケてるぜ」とか、「何にも怖いものはないぜ」みたいな感覚ではないんで。やっぱりいろんなものを考えちゃうし。そういう部分も含めて、カッコよく生きていけたらなって思っていて。

ーー今の話であったり、あと「GOODBYE ME」っていう曲とかもそうなんですけど、すごく自分を客観的に見ていますよね?

18scott:それって必要だとずっと思っていて。今ってフリースタイルで曲を録って、そのまま作品にするアーティストも多いじゃないですか。別にそういうやり方も良いと思うし、そういう曲も好きでよく聴くんですけど、それで作品になるのって本当に天才な人たちだけで。基本的に音楽って、自分の思っている感情とか、「自分ってこういう人間だよ」とか、そういうものを提示するアートだと僕は捉えているので、日本語でやる以上、やっぱり日本語で伝えたいし、ちゃんとリリックが聴き取れるっていう部分も重要視したいんで。そうなってくると、どうしても自分との対話になってしまう。だから、自分を客観視するっていうのは常にあると思います。

ーープロデューサーとしての視点で、SUNNOVAさんが今回のアルバムで好きな曲ってどれですか?

SUNNOVA:「TILl I DIE」、「24 feat. YNG JOE$」、「PAISLEY」、「CASH ONLY」ですかね。あんまり前作ではなかった感じが入ってるというか。あと、ちゃんと自分が引き算してラップが乗る余白みたいなものを作って、そこに想像以上の状態でラップが入ってきてみたいな結果になったのはその辺りで。

ーーラップが入ったことで、すごく大化けしたと感じた曲はどれですか?

SUNNOVA:そういう意味では「24 feat. YNG JOE$」かな? お客さんが喜んで、アガるものを考慮して作ったという意味で言うと「HEART BREAK KID」とかは多分みんな好きだと思うし、僕も好きなんですけど。ただ、本当に自分としてこれが一番良くできたなと思う曲を強いて挙げるならば「24 feat. YNG JOE$」ですね。あんまりこういうスタイルでやっている人もいないと思うし。

ーー先ほども少し話が出ましたが、すでに次の作品への制作も始めているようですが、どのような感じになりそうでしょうか?

18scott:今回の『PAISLEY』に関しては、すごく良いアルバムができたと自分でも思ってるんですけど、最初に話が出たように、特に前半部分は攻撃的な部分がかなり強いので、前作よりも聞きづらいと感じる人もいると思うんですよ。だから、次の作品は、今まで通りに自分のことも唄いますけど、もっと広い意味での自分というか。自分の内側というよりかは、環境であったり自分の住む街であったり、自分を取り巻くもの全て含めて、もっと広いアプローチができるような作品を作りたいと思って、今やっています。

SUNNOVA:すごく良いものを作ってますよ。

18scott:単純な言い方をすると、気持ちが楽になったり、聴いてちょっと明るくなるようなものを作りたいなって。

SUNNOVA:今回のアルバムは、「表層的には攻撃的で本質的にはポジティブなメッセージがある」という作品ですけど、次は表層的にも本質的にもポジティブな作品を作っていて。あと、今、世に出ている二人でやった作品の中では、もちろん『PAISLEY』が最高のものではあるんですけど、今作っているものは、それを超えた作品にならないといけないと思っていて。もちろん、昔の曲は昔の曲で好きだし、1stの曲をたまに聴くと「おっ、良いな!」って思ったりもします。特に最近、外に出れなかった時期も長かったじゃないですか。改めて自分と向き合ったりするなかで、「曲作ることとか、音楽を続けられることって何なんだろうな?」みたいなことをすごく考えてました。音楽を作ることをこれからも続けるためには、より良いもの、より超えるものを作っていきたいなと思って。そういう気持ちで、今は毎日トラックを作っていますね。

18scott:以前よりもずっと家にいて、映画を観たり、音楽を聴いたりするようになった人って多いと思うんですよ。こういう時に、僕らの音楽を聴いて、自分の時間をちょっとでも充実させてる人がどこかにいるんだなっていうのを、今はより強く実感できましたし、音楽をやってて良かったなと思いました。だから、この作品がそういう存在になってくれたら良いし、今作ってる作品もそういうものにできるように頑張ります。
(大前至)

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