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年末企画:小野寺系の「2020年 年間ベスト映画TOP10」 作り手の真摯な熱意と自由な表現

リアルサウンド

20/12/27(日) 10:00

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2020年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、映画の場合は、2020年に日本で公開された(Netflixオリジナルなど配信映画含む)洋邦の作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第12回の選者は、映画評論家の小野寺系。(編集部)

1. 『その手に触れるまで』
2.  『名もなき生涯』
3.  『フォードvsフェラーリ』
4.  『82年生まれ、キム・ジヨン』
5.  『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』
6.  『マーティン・エデン』
7.  『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』
8.  『Mank/マンク』
9.  『ミッドサマー』
10.  『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』

 コロナ禍の影響を受け、2020年は映画が相次いで公開延期となった。とくに厳しかったのが洋画の配給事情で、キャリー・ジョージ・フクナガ監督の『007』最新作や、アダム・ウィンガード監督の『GODZILLA VS. KONG(原題)』、トム・クルーズ主演の『トップガン マーヴェリック』など、公開が予定されていた大作が来年に持ち越しになったり、『ムーラン』のように配信作品となったものもある。

 そんななかで果敢にも公開され、劇場で映画を観る喜びを思い出させた『TENET テネット』、社会現象を起こした『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』の奮闘が、厳しい興行の希望となった。同時に、Netflixなどの配信事業にとっては、巣ごもり需要で皮肉にも躍進の年になったといえる。

 一方、そんな時代だからこそ、多様な価値観を持った優れたタイトルがたくさんあることを堅実に紹介していきたいという思いもある。ここで挙げている作品は、配信映画も含めて、作り手の作品づくりへの真摯な熱意と、自由な表現が活かされたものばかりだ。

 トップの2作品に関しては、両方とも巨匠監督の作だが、狭い主観視点がナショナリズムへの傾倒を表現していたり、暴力にさいなまれる人間の精神の呼応がダイナミックな映像美で表現されるなど、両監督のこれまでの作風が最大限に発揮できる題材が選ばれている。まさに、それぞれの監督のキャリアはこの一作のためにあったかのように感じられる傑作だ。

 また、韓国の女性監督の台頭にも目を見張った。『82年生まれ、キム・ジヨン』、『はちどり』、そして2021年1月に公開となる『チャンシルさんには福が多いね』はそれぞれに、これまでなかなか語られなかった、女性の立場から見た歴史や社会の姿を映し出すものとなった。なかでも『82年生まれ、キム・ジヨン』は、支持の大きな原作を映画のためにもう一度練り直したことで、社会において女性たちが経験してきた想いを独自の手法によって白日のもとにさらすことになった。

 2020年は、世界的に社会の分断がより深刻化し、経済格差、思想信条、フェイクニュースなどによって、人々が断絶した状況が多く見られた。そんな状況下で、とくに“断絶”が重要な要素として映画作品で描かれるケースが増えているように思う。『マーティン・エデン』、『Mank/マンク』、『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』は、まさにある人々を分断する見えない壁が見事に描かれた作品だといえよう。

 だが、そんな厳しい状況においても、『フォードvsフェラーリ』、『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』のように、そこに登場する、逆境の中にあっても夢や自己実現に向かっていく主人公たちの姿が、打ち沈みそうになるわれわれの心を鼓舞してくれる。

 国内の社会情勢で気になるのは、以前からの経済の落ち込みが、コロナ禍によってより顕在化してしまったことだ。政府や自治体は貧困者に対する有効的な支援を十分に行ってるとはいえず、この冬を越せない事業者や、会社を解雇されたことで困窮する人々が増えていくだろう。問題は、社会が引き起こした個人個人の苦境までが、ただ自己責任として片付けられてしまわないかということだ。その意味で、黒沢清監督の『スパイの妻』や、宮崎大佑監督の『VIDEOPHOBIA』、そして大林宣彦監督の『海辺の映画館―キネマの玉手箱』など、社会が一個人を押しつぶす姿を鮮烈な演出で描き、告発するような日本映画が公開されたことは、この国の数少ない希望の一つになっているのではないだろうか。

TOP10で取り上げた作品のレビュー/コラム

実話を基にしたテレンス・マリックの新境地 『名もなき生涯』における「神の沈黙」のテーマを読む
【ネタバレあり】『フォードvsフェラーリ』がラストシーンで到達した“マン映画”からの解放
シリアルキラーものの傑作! 『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』に宿る孤独とユーモア
デヴィッド・フィンチャー監督にとっての『市民ケーン』 Netflix映画『Mank/マンク』を解説
ロン・ハワード監督の持ち味が発揮 『ヒルビリー・エレジー』はアメリカ映画史における重要作に

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■リリース情報
『その手に触れるまで』
DVD発売中
価格:3,800円(税別)
仕様:2019年/ベルギー=フランス/本編84分/16:9LB(アメリカンビスタ)/片面1層/音声:【本編】オリジナルフランス語 ドルビーデジタル5.1ch/字幕:【本編】日本語字幕/1枚組/映倫区分:G/翻訳:横井和子

監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:イディル・ベン・アディ、オリヴィエ・ボノー、ミリエム・アケディウ、ヴィクトリア・ブルック、クレール・ボドソン、オスマン・ムーメン
提供:ビターズ・エンド
発売元:TCエンタテインメント
販売元:TCエンタテインメント
(c)Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinema – Proximus – RTBF

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