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Suchmos、『THE ANYMAL』はバンドの“最高傑作” アルバム通じて見せた変化に迫る

リアルサウンド

19/3/18(月) 22:00

 Suchmosのニューアルバム『THE ANYMAL』が3月27日にリリースされる。

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 フルアルバムとしては、前作『THE KIDS』から実に2年ぶり。制作に1年以上を要しただけあって、先に発表されている「WATER」と「In The Zoo」を含む12曲全てが書き下ろしという意欲作である。

 今年1月25日に先行配信された「WATER」を聴いて、驚いた人も多いだろう。7分という長尺はもちろんのこと、リバーブを極力抑えたデッドなドラムサウンド、下降していくピアノのコードバッキングに絡みつく、オクターブを強調した躍動的なベースライン。その上でYONCE(Vo)がファルセットと地声を巧みに操りながら、浮遊感たっぷりに歌い上げる。

 そのソウルフルなメロディも含め、適度に抑制されたサウンドスケープを聴いて、筆者が真っ先に思い出したのはレニー・クラヴィッツの初期作である。彼の愛用していたウォーターフロントスタジオと、その専属エンジニアであるヘンリー・ハッシュの作り出す、中期ビートルズを彷彿とさせるようなヴィンテージサウンド。中盤のプログレッシブかつサイケデリックな展開も含め、これまでのSuchmosのイメージとは明らかに異なるものだ。

 「WATER」に続いて配信された「In The Zoo」は、さらに尺が伸び(8分16秒)、不穏なアルペジオが延々とリフレンされるヘヴィな曲調は、ビートルズの「I Want You」を彷彿とさせる。そうかと思えば、サビではThundercatばりのフュージョンソウルへと発展し、さらに中盤ではひなびたメロトロンらしき音色に導かれ、リバーブやディレイの残響がウォール・オブ・サウンドを構築していくのである。

 前兆は、昨年リリースされたミニアルバム『THE ASHTRAY』の頃からすでにあった。「2018NHKサッカーテーマ」にも起用された、「VOLT-AGE」の攻めたアプローチがコアな音楽ファンを歓喜させる一方、「(ヘヴィ過ぎて)盛り上がりにくい」という声も上がるなど、賛否両論を巻き起こしたのも記憶に新しい。この曲以外でも、例えば「YOU’VE GOT THE WORLD」では、Primal Screamの「Loaded」や「Come Together」にも通じるアーシーかつユーフォリックなサウンドを展開。さらに「ONE DAY IN AVENUE」では、そのPrimal Screamとも親交が深かったプロデューサー、ブレンダン・リンチが1990年代に、ポール・ウェラーやOcean Colour Sceneらと試みた「ビートルズ的サイケデリアとソウルミュージックの融合」を、2010年代のサウンドへとアップデートしたようなアプローチを行なっていたのだ。

 当時のインタビューでOK(Dr)は、アルバム制作時にビートルズやEarthlessをよく聴いていたと発言しているし、YONCEは以下のように話している。

「聴きやすさとオルタナティヴな感覚の共存という意味で最近おもしろかったのは、ジョナサン・ウィルソンの『Rare Birds』ですね。ピンク・フロイドを思わせるプログレッシヴな、サイケデリックな要素もあるし、サザン・ロック、フォーク的な要素もあって、『THE ASHTRAY』の制作期間にそういう音楽から受けるようになった影響は、今後の作品でより色濃くなるんじゃないかな」(YONCE)。
(Mikikiより)

 YONCEの予告通り、Suchmosのニューアルバム『THE ANYMAL』は、ミニアルバム『THE ASHTRAY』で試みたプログレッシブ~サイケデリックなアプローチの、一つの到達点といえるものだ。

 まず驚くのは、収録曲のほとんどが5分を超える大作であり、アルバムのトータルタイムも1時間を超えているということ。昨今、サブスクリプションの普及によって「アルバム」というフォーマットそのものが変容しつつあり、例えばカニエ・ウェストやソランジュ、ジェイムス・ブレイクといったアーティストたちが、こぞってコンパクトなサイズのアルバムを発表している中、それとは全く逆の表現方法をとっているのは興味深い。

 もちろん楽曲も、これまでのパブリックイメージをかなぐりすてるような、冒険心に満ちたアレンジが施されている。

 「WATER」で幕を開けた本作は、ファズギターやスプリングリバーブ、縦ノリのドラムがガレージサイケのような「ROLL CALL」へと流れ込む。「In The Zoo」を経て「You Blue I」は、まるでミック・カーン(ex.JAPAN)のような官能的なフレットベースが、研ぎ澄まされた音と音の間をくぐり抜けていく。そのミニマルなサイケデリアは、どこかゆらゆら帝国や、OGRE YOU ASSHOLEの世界とも共鳴しているようだ。

 他にも、11分越えのサイケブルース「Indigo Blues」や、優雅なピアノバラードから一転、Sly & The Family Stone的な密室ファンクへとなだれ込む「HERE COMES THE SIX-POINTER」、ワーミーを駆使したエレキギターのフレーズが秀逸な「BUBBLE」など、もはや「STAY TUNE」の頃の彼らは、ここにいない。

 先に引用したインタビューでOKは、こうも話している。

「作品の成功をどう捉えるか。それによって、今後のアウトプットが180°変わってしまうなと思ったんです。つまり、その成功は周りの人たちが僕らの音楽に価値を見い出してくれた結果であって、自分たちでコントロールできるものではないということ。そのことがわからなくなって、さらなる成功に向けて音楽を作るようになったら、バンドとしては危ないなって。だから、今の状況とは切り離した静かな場所で、アイデアが沸いてくるのを待ちたかったんです」

 ひょっとしたら、デビュー当時の彼らが好きな人にとっては戸惑いの多いアルバムかもしれない。それでも“現状維持”を選ばず、たとえリスクがあろうと“変化”することで自身をアップデートしていくSuchmosこそ、真のアーティスト集団といえよう。本作『THE ANYMAL』は、間違いなく彼らの最高傑作だ。(黒田隆憲)

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