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【re:START】キーパーソンInterview

柳井貢(株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション執行役員/「#オンラインライブハウス_仮」発起人)【前編】

特別連載

3-1

20/6/2(火)

※この取材は、5/14にオンラインで行いました。

第3回は、株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション執行役員であり、「#オンラインライブハウス_仮」発起人の柳井貢氏に、音楽ファンにとって不可欠の「場」であるライブハウスへの思い、観客とのコミュニケーションのあり方、ライブにおける「生」の概念、再生へのメッセージなどを3回にわたってお聞きします。

── 昨日、2回目となる公演を実施されました(5/13「FM802弾き語り部 リモート編♪-at #オンラインライブハウス_仮」@オンライン_心斎橋BIGCAT)。これまでの手応えとしては、いかがですか?

柳井 おおむねは思っていたとおりのことができたかな、というのが所感ですね。要因として、出演アーティストのファンに若い人たちが多かったというのと、FM802のイベントだったということもあったとは思うのですが、みなさんそれほど抵抗なく楽しんでいただけたのかなという印象でした。事後アンケートもお願いしていて、まだ僕自身がしっかりと見たわけではありませんが、ポジティブなものが多かったというふうに聞いています。

── ポジティブな手応えをどこで一番感じられましたか?

柳井 この仕組みの肝になっているのが、オンライン上の空間でありながらもキャパシティを設定する、というところにあるんですね。で、そこの部分に対する疑問であったり違和感というのを解消していかなければいけないという課題があるんですが、昨日の公演では──キャパシティは80名だったんですけど──80名だからこそ可能な盛り上がり方や楽しみ方があるというのが、なんとなく伝わったんじゃないか、だからこそみなさんにポジティブな反応を示していただけたのではないか、というところですね。

── なるほど。そもそものお話を伺いたいのですが、この「#オンラインライブハウス_仮」という企画は、新型コロナウイルスによる感染症拡大の前に組み立てていたものなのか、それともコロナきっかけなのか、どちらですか?

柳井 完全にコロナきっかけですね。ライブハウスをはじめ、コンサートの現場など、仕事がなくなって危機に陥っていると。そこに対して何らかのアクションをしなければいけないと思っているときに、一方で、助成や給付や支援といった言葉が飛び交っている。もちろんそれはそれで必要なことです。ですが、そういうことばかりになってしまうと、アーティストやコンサートスタッフ、ライブハウスで働く人たちといった音楽に携わる人たちを見る世間の目線というのが、どこか「かわいそう」なものの対象になってしまうんじゃないかという気がしたんです。そこで、あれ? こんなに心配されたり、助けられたりしなければいけないエンタテインメントって何なんだ?って思っちゃったんですよね。本来、音楽をはじめエンタテインメントって、大げさに言えば人に希望や夢を与えるものじゃなかったかな?って。そしてそういうポジティブなものを提供するんだという思いで誰しもがエンタテインメントに関わって仕事をしているわけで、それなのに助けるべき対象として見られている、というのが悔しくて。だからどんな状況下でも何がしかのサービスを提供できるんだ、そしてそのサービスに対してちゃんと対価をいただいて仕事にしていくんだ、そういうスキームも並行して作っていかないと、支援をしていただくだけではエンタテインメント自体が衰退していくのではないか、と思ったんですよね。そこが、この企画というか仕組みの発想の根幹ですね。

── そうした出発点から、「#オンラインライブハウス_仮」の仕組みに至る経緯はどのようなものだったんでしょうか?

柳井 ふたつの軸でお話ししたいのですが、まずひとつは、マネタイズの方法について、ですね。YouTubeのスーパーチャットをはじめとした投げ銭モデルで、YouTuberやイチナナライバーが成功している事例を見て、デジタル投げ銭に移行しなければいけないんじゃないかという風潮があって、僕はそれにかなり疑問を感じていたんです。というのは、例えばYouTubeで誰もがパフォーマンスを見られて、そこで投げ銭できるのって、リアルの世界に置き換えたら、路上で弾き語りしてギターケースを広げてそこにお金を入れてもらうっていうことと同じかもしれないんですよね。そういう感覚でデジタル投げ銭というものを捉えられているのかな?っていうのが疑問だったんです。だって、日本のミュージシャンって、どっちかと言ったらその方法は苦手なんですよね、みんな(笑)。どれだけ良いパフォーマンスを見せるか、という部分は得意なんですけど、やった後に、お金ちょうだいって自分で言うのは苦手な人たちなんですよ。だから限定された空間の中でやって、その中に入りたかったら先にお金ちょうだいね、あとは最高のパフォーマンスをするからっていうのが、特に日本の音楽業界やアーティストにとっては相性の良いお金のもらい方だった。そういう仕組みを長年かけて築いてきたはずなのに、この新型コロナでみんな焦ってしまって、自分たちの苦手なことをわざわざやろうとしている、というふうに僕には思えたんです。後払いシステムって、やっぱり文化的な成熟度がかなり問われるような気がするんですよ。日本にはチップを払うというような習慣も根づいていないわけで、さっきも相性って言いましたけど、もともとないものなんですよね。だから何とか得意な形に、つまり前払いにどうにかできないかなというのがポイントとしてありました。そしてふたつめが、何をもって「生」とするのか、ということですね。オンライン上で言うと、「生」というものにふたつの捉え方があると思っていて。ひとつは、生中継というような本当の意味での「生」ですね。それともうひとつが、同時ストリーミングという意味での「生」です。ただその場合、配信されているものは映像作品ですよ、と。アーティストの過去ライブ映像作品をYouTubeのライブ配信で見せている状態ですね。そこでの「生」というものの捉え方が、発信側も受け手側もボケている状態にあるのではないかと思ったんです。録画作品であればクオリティーは担保できますから、ユーザーの満足度は上がる。そして同時視聴しているという体感もある。見ているものは「生」じゃないけど、体感としては「生」という状態。そこのギャップをきちんとわかった上で、オンライン上での配信ライブだったり映像作品というものを捉えきれていないのではないか、というのを感じていたんです。だから、とにかく「生」である意味、「生」である価値を追求しよう、と。これまでライブハウスやホールでコンサートを観てきた人たちの、「やっぱ生最高!」っていう満足感は、果たしてクオリティーが高いだけのことだったのか? 音が良いとか照明が華々しいとか、「生」の良さってそれだけじゃないだろう、と。最初にお話しした、先にチケット代としてお金をいただくマネタイズのやり方、そして「生」を追求したコンテンツ、そのふたつを落とし込めるかもしれないフレームが「#オンラインライブハウス_仮」だった、というわけです。

右上から時計回りに、5/13開催「FM802 弾き語り部」でMCを務めた樋口大喜、出演したビッケブランカ、井上竜馬(SHE’S)、弾き語り部部長・松本 大(LAMP IN TERREN)

取材・文=谷岡正浩 撮影=渡邉一生(アーティスト) 写真提供=FM802(アーティスト)

今後の公演情報はonlinelivehouse.jpで順次、発表されます。

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