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「あんまり深く考えなくていいエンタメ作品です(笑)」『パ・ラパパンパン』松たか子×松尾スズキ インタビュー

ぴあ

松尾スズキ×松たか子   撮影:源賀津己

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11月のBunkamuraシアターコクーンに登場するのは、COCOON PRODUCTION2021+大人計画『パ・ラパパンパン』。数々のヒットドラマを手掛ける脚本家の藤本有紀が、芸術監督・松尾スズキのラブコールを受けて書き下ろした、ファンタジックなミステリーコメディだ。さらなる注目は主演・松たか子と演出・松尾の舞台における初タッグ。今こそ直球のエンタメを!と意志を同じくするふたりに話を聞いた。

藤本有紀さんの脚本に惚れこんで

――芸術監督を務めるシアターコクーンにおいては、松尾さんが自作以外の戯曲を演出するのは初めてだそうですね。

松尾 作者の藤本有紀さんとは、NHKの『ちかえもん』という時代劇で初めてご一緒したんですね。僕は近松門左衛門の役で、最初はどんなふうに展開するのかわからなかったんですが、とにかく台詞が面白くて。回を重ねるごとに話がどんどんミステリー仕立てになっていって、最後に謎を解き明かす……といった展開に。人形浄瑠璃が入ったり、歌のコーナーがあったり、コントみたいな内容もあって、最後にはしっかりと伏線が回収された上質のエンターテインメントになっていた。その脚本にすごく惚れちゃったから、藤本さんにお友達になってもらったんです。

何度か食事をするうちに、「小劇場に何本か、書き下ろしたことがある」って話を聞き出しまして。それで、僕はあまり他人が書いた新作を演出する機会がないので、ぜひ藤本さんにお願いしようと。ちょっと残念なのは、自分が演出席にいたり、また俳優として立って稽古場をウロウロすることは、感染対策を考えると懸念があったんですね。それで最初の思惑とは違ってしまったけれど、自分が出ることは辞退して演出に専念することになったと。そういう経緯ですね。

 私は、藤本さんとのお仕事は今回が初めてです。松尾さんの演出の舞台に出るのも初めてですし、松尾さんが藤本さんにホンを依頼したお芝居ということで、そのチャレンジに呼んでいただけたことにすごくワクワクしました。

――今回の物語は“ファンタジックなミステリーコメディ”と伺っています。

松尾 台本については話し合いの末に、ものすごく長いプロットが上がってきたんです。そこにディケンズの小説『クリスマス・キャロル』という僕のまったく馴染みのない物語が入っていて、ちょっと面食らったところはありました(笑)。この物語を題材とするなら、しっかりとした予習が必要だなと。でも、現実の世界と、『クリスマス・キャロル』の世界を行き来しながら、ミステリーを解き明かしていく……といった斬新な構成になっていて、そこは意外だったし、面白いなと思いましたね。

 私も台本を読んで、『クリスマス・キャロル』かあ!とびっくりして。

松尾 フフフ。

 松尾さんにこういうアイデアがあるんだ〜と思って。最初に台本を読んだ時は、現実の世界にいる私の役よりも、『クリスマス・キャロル』の物語の中にいる人たちのほうが大変そうだな〜って印象でしたね。今稽古が始まってみて、どんどん面白い部分が見えてきて、楽しい稽古場です。

テンポの合うふたり

――松さんが演じる、現実の世界に登場するキャラクターは“本格ミステリーを書く羽目になった、鳴かず飛ばずのティーン向け小説家”だそうですが、どんな人物でしょうか?

 稽古の最初に、松尾さんが「堪え性のない女」とおっしゃって。ああ、堪え性のない女ってあんまり言われたことないな……と新鮮に思いましたね。私にもそういうところがあるような気もして(笑)。堪え性のない女として2、3時間い続けることが、怖くもあるけど、どんどん楽しくなってきて、割とストレスなくやらせていただいています。『クリスマス・キャロル』の物語の中にも踏み込んでいったりするので、妄想好きな人にはたまらないキャラクターじゃないかな〜なんて思いながら稽古しています。

松尾 まあ、堪え性のない女ってだけじゃあないですけど(笑)。過去のトラウマを抱えていたりね。

 そうそう! それも言われました。

松尾 過去のトラウマにとらわれている作家で、堪え性もない……というダメな要素の多い女なんですけど、そのトラウマが物語の核に関わってくる。そこが面白いところで、松さんには深く演じてほしいと思っています。“堪え性のない女”という一面的な人物ではないってことは、声を大にして言いたいです。(一同笑)

――過去に幾つかの作品でご一緒されていると思っていたので、松尾さんの演出舞台に松さんが初登場と伺い、意外に感じました。松さんの印象や、期待するところを教えてください。

松尾 松さんは本当に、昔から憧れの女優さんでね。最初の出会いは映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(2007年、松岡錠司監督作品)で、シナリオライターと女優として、でしたね。その時、出てもらって本当に嬉しくて、それ以来、大ファンであることを隠してお会いしたりしていますけど。

 フフフフ。

松尾 僕が監督した『ジヌよさらば かむろば村へ』(2015年)という映画にも出てもらいました。松さんは、「さあ、ここから演技するぞ! エンターテインメントの世界に入るぞ!」っていう切り替えがすごく早いんですよね。堪え性がない……じゃないですけど(笑)、モタモタしないんですよ。衣装合わせの時も、衣装に着替えるところに飛んで入って着替える、みたいな。

 ハハハハ!

松尾 そうした俊敏さって、やっぱり幼い頃からいろんな習い事をしていたり、伝統芸能の世界にドンと踏み込んで、次から次へ様々な役柄をこなしていくお父さん、お兄さんの姿を見て育ったからなのかな、なんて思いますけど。演技することや歌うことに対して「とにかくやってみる」といった潔いところがすごく好きですね。

 私も今回、やっと松尾さんの舞台に出演できて嬉しいです。大人計画の方々は素敵な人たちばかりで、憧れだったので、そこに混ぜていただけることが本当に光栄ですし。今、稽古場で松尾さんを見ていて、何て言うか……松尾さんって早い!というイメージが。

松尾 フフフ。

 考えるスピードとか、物事の切り替えとか、早い人だな〜と思いました。そして上品で、謙虚で……、それは大人計画の俳優さん、皆さんにも通じることですけど、本当に誠実な人たちで大好きだなと。とても居心地がいいです。

松尾 いや〜嬉しいですねえ。松さんも早い人です(笑)。

 私は無駄に早いんです(笑)。

――テンポの合うおふたりなんですね。稽古に入ってみての新たな発見は?

松尾 松さん、意外と笑かすのが好きなんだなあって。

 それは松尾さんがいろいろ指示をされるからじゃないですか(笑)。

松尾 何でも積極的にやってくれますね。また、身のこなしがすごく素敵だな〜と思って見ています。普通、最初の本読みをやった後に立ち稽古に入る時って、モジモジされる方もいるんですよ。身の置き所がない、という感じで。松さんは、自分の立ち位置をパッと見つけて、そこに行って、ちゃんと立って、しゃべる。正しい、絵になる姿勢で。すでに成立しているんですよね。ウチの少路(勇介)とか気がついたら人の後ろにいたりする、そういうやっちゃダメなことをやる人が大人計画には多いんですよ。(一同笑)

目指すは“死角がないエンタメ”

――松さんは、稽古に入って見えてきた作品の魅力など、気づいた点はありますか?

 作品の魅力については探っている最中で(笑)、まあコツコツやっていけば、魅力的な舞台になるかな〜と期待してやっています。でも私としては毎日、演出家の松尾さんに会っている、という喜びを感じていて。あらためて、松尾さん、演出家なんだなあ!って。

松尾 フフフフフ。

 最初に脚本家として出会って、次に監督として、共演者として……というのを経て今、稽古場で演出してもらっていることが、本当に面白いです。今回の共演の方々もいろんな方がいて、でもまだ皆、胸の中に何かを抱えているように感じるから(笑)、とにかく私が「バカだなあ…」って思ってもらえることをいっぱいやっていけば、どんどん面白くなっていくんじゃないかと。本当に楽しいし、稽古が出来ることが幸せです。

――稽古が始まったばかりですが、本番の舞台で何が起き、どんなミステリーを味わえるのか、開幕を心待ちにしています。

松尾 松さんのほかにも神木隆之介くんや大東俊介さん、早見あかりさん、それに小日向文世さんや筒井真理子さん、坂井真紀さんなど、結構ベテランの方々が揃っていて、そうした一流の人たちが一丸となって作り出す、あんまり深く考えなくていいエンタメ作品です(笑)。今のこの時代、シリアスに考え込むようなものを僕はあんまり観たくないから、幸か不幸かそのタイミングには合っているかなと。鬱屈した今の現実から少しでも解放されて、劇場でファンタジックな時間に酔いしれていただければいいな〜なんて思っていますね。

 私も台本を読んで、あ、松尾さん、藤本さんはこれをやろうとしているのか!と思った時に、とても嬉しくなったんですよね。皆が難しい顔をして社会に斬り込む……というものとは違う(笑)、正真正銘のエンターテインメントで。これをやるからには、相当なパワーと覚悟が必要だなと思いました。お客様が何も考えずに楽しめる、そんなひとときになることを願って、劇場でお待ちしたいなと思います。

松尾 難しいことを言うことより、真正面からエンタメを作ることのほうが難しいと思うんですよね。

 そうですね、本当に。

松尾 目指すは“死角がないエンタメ”、そういったものを作りたいなと思っています。



取材・文 上野紀子 撮影:源賀津己



COCOON PRODUCTION 2021+大人計画『パ・ラパパンパン』
【東京公演】
2021年11月3日(水)~2021年11月28日(日)
会場:Bunkamuraシアターコクーン

【大阪公演】
2021年12月4日(水)~2021年12月12日(日)
会場:森ノ宮ピロティホール

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