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IZ*ONEは日本型アイドルを終焉させる? 『PRODUCE 48』選抜結果から見える野心的成果

リアルサウンド

18/9/14(金) 12:00

 韓国の人気オーディション番組『PRODUCE 48』の濃厚な選抜が終わった。オーディションの合格者12人の国籍の内訳は、韓国人メンバーが9名、日本人メンバーが3名だった。この番組企画が韓国的なアイドル誕生のスキームの中で実施されたことを考えると、日本人メンバー3名という数字はかなりの健闘だろう。ただ当初のエントリー人数からいえば、惨敗とはいわないまでも大苦戦だった。日本人メンバーの合格率は8%程度、対して韓国人メンバーは19%超だった。それだけ日本人メンバーにはハードルの高いオーディションだったと思う。

『PRODUCE 48』公式HPより
 トップで合格したのは、番組参加者の中では最年少だった14歳のチャン・ウォニョンだった。長い手足を躍動させ、また体幹がほとんどぶれない高度なダンス、そして高い身長にも関わらず愛くるしい陶器のように滑らかに光る小顔。その将来性は計り知れないものがあり、これが韓国の芸能界の奥深さなのか、と今でも驚いている。また個人的に注目してきたのが、カン・ヘウォンだ。まるで一流の女優が同時にアイドルをやっているような表現力の豊かさと、グラビアでの露出にも強みを発揮できそうなそのビジュアルの強さにある。もちろん何気なく披露されるラップ系の感性も注目だ。韓国メンバーはやはり長期間のレッスン(人的資本の投資)を積極的にしてきただけあり、即戦力の魅力に溢れている。

 オーディション初期に特に感じたのは、AKB48Gにもっと頑張ってほしい、日本のアイドルのよさ(元気や楽しさを与えること、未完成な成長物語への共感)を伝えてほしいと思う自分がいたことだ。日韓のメンバーは互いに励まし合っているので、日韓対決という色彩はない。だが、時にはオリンピックなどに似た感情をもってしまった。特に今回、2位で選出された宮脇咲良は、今年の『AKB48 53rdシングル 世界選抜総選挙』でも3位にランクされるなど、現状の日本アイドル界の中では屈指の“至宝”である。彼女が今回、韓国内だけとはいえ“世界市場”の中でどのように評価されるのかは、大きな注目だった。参加メンバーが最初にお披露目されて、テーマ曲「NEKKOYA (PICK ME)」を歌っているときの宮脇の美しさは際立っていた。これはひとつには宮脇をはじめ、日本人メンバー全員がオルチャンメイク風できめてきたせいもあるだろう。“世界市場”を意識しての攻めの姿勢だ。

参考:『AKB48 世界選抜総選挙』は“再考”の機を迎えた? 『PRODUCE48』との比較から見えたもの

 何度か“世界市場”と書いたが、韓国のアイドルがK-POPとしてアジア、南北アメリカ、欧州で高い人気を誇っていることは、すでに周知の事実である。韓国での女性アイドルグループのトップクラスの面々は、韓国国内だけではなく、世界市場を相手にできる環境にある。その原動力は、今回も審査を担った韓国のアイドルファン(番組では“国民プロデューサー”)たちにある。

 この韓国のアイドルファンの集団(ファンダム)の特徴は、(1)YouTubeなどSNSを利用した拡散努力を組織的に行うこと、(2)年齢層が10代、20代中心で若く、女性ファンのウェイトが大きい、ということが挙げられる。

 韓国アイドルのファンダムは、いわば草の根レベルでアイドルの売り込みを世界にむけて積極的に展開している。韓国の音楽番組は放送まもなくすぐにファンの手で編集され、各国語の翻訳も付されて、YouTubeで見ることができる。この背景には、韓国のメディア側が「緩い著作権」管理をしていることにあることは、この連載でも何度も指摘した。厳密には違法だが、その著作権侵害のデメリットをはるかに上回るのが、国際的認知というメリットである。この世界的レベルでの便益の超過があるかぎり、韓国メディアやまた芸能事務所は事実上著作権侵害を戦略的に放任している。

 さらに注目すべきは、環太平洋地域における韓国アイドルの受容の構図である。これは三角貿易的な構図が成立している。環太平洋地域で、韓国のアイドルの火が付いたのは、2010年代おいてはアジア各地であることは間違いない。それが太平洋を越えて、まず南米各国に飛び火した。その後、主に北米では、ヒスパニック系や黒人のコミュニティの中で火がついた。従来の韓国系住民の中でのK-POP消費を大きく超えるその特徴は、いまの韓国の女性アイドルたちが黒人音楽やラテン系音楽の要素を積極的に吸収した成果といえるかもしれない。やがてかなり閉鎖的な市場を形成している白人たちの好みにも適応することに成功した。現在の北米でのK-POPファンは、まさに人種のるつぼのような構成比率になっていることは、KCONなどの北米でのK-POPコンペティションに参加した人たちからもしばしば指摘されていることだ。

 この三角貿易的な構図、すなわち韓国を中心としたアジア、南米、北米でのアイドルを中心にした芸能・音楽文化の交流に乗り遅れつつあるのが、日本である。日本でももちろん2010年代だけみてもK-POPの人気は大きい。だが、他方で日本のアイドルがこの環太平洋地域の三角貿易的なアイドル市場に加わることができていない。いわば日本のアイドルは日本市場の中で事実上孤立している。もちろん例外はいくつかある。特にAKB48Gは積極的にアジア各地で海外展開を試みて、一定の成果をあげているのは周知のことである。

 また韓国アイドルのファンの年齢層が10代、20代中心であることも、日本の女性アイドル市場と対比した時に際立つ違いだ。日経MJの記事(2018年8月24日)では、LINEリサーチでAKB48Gのファンの年齢層が30代から上が圧倒的であると紹介されていた。他方で、韓国の女性アイドルのファンの中心は10代20代が圧倒的であり、しかも女性ファンが大きなウェイトを占めている。この特徴は、日本や韓国だけではない。アジア各国、南米、北米、そして欧州でも共通する特徴である。

 やはり年齢構成が若く、また女性ファンが多いと市場の成長性は高くなる。また先ほど指摘したように、北米市場の人種的な壁を越えてムーブメントを生み出すことにも成功している。この原動力は韓国のコアなファンたちの草の根の努力、その国際的な宣伝手法のスキルの高さにある。

 今回、AKB48Gはその日本型アイドルの手法をほとんど封印して、このPRODUCE 48のプロジェクトに参加した。その狙いはおそらくふたつあるだろう。ひとつは、日本国内で韓国の女子アイドルファンである若い女性層を、この番組企画やIZ*ONEの活動を通じて、AKB48Gに“還流”してもらう狙いだ。これは日本の女性アイドルのファン層の若返りをも実現するかもしれない。ただ坂道シリーズでは、すでに乃木坂46の活動を通じて、若い女性層の獲得にもつながっていることは忘れてはならない。つまり今回の試みはAKB48Gの女性層への訴求を狙った坂道シリーズへのキャッチアップ(後追い)型戦略に国内的にはなるだろう。もうひとつは、韓国のファンたちの国際的な波及力を活用することを狙っていると思われることだ。つまり上記の三角貿易的構図に、AKB48Gが本格的に参入する狙いがあるものと思われる。これらふたつの狙いは、AKB48Gだけではなく、日本の女性アイドルグループの大きな変化につながる可能性がある。

 その最大の変化は、今回の日本人メンバーの代表ともいえる宮脇咲良の変化に顕著である。彼女は今回のオーディションで、韓国的アイドルを見事に“演じた”。ハイスペック型の完成されたアイドル像を、韓国のファンたちに魅せることができた。素晴らしいことだ。おそらく昔からK-POPに造詣の深い宮脇でしかなしえない変容だろう。他方で、そこには日本型アイドルの特徴であった、未完成なアイドルをファンたちと一体になっていわば共同幻想的に築き上げる日本のアイドル物語は消滅した。日本の女性アイドルに特徴的な物語消費が死んだところで、今回のIZ*ONEは誕生したのだ。

 (日本型)アイドル・イズ・デッド。それがPRODUCE 48のもたらした野心的成果である。(田中秀臣)

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