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峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

江口くんは大人になってしまった

毎週連載

第96回

20/9/26(土)

ちょっと前、『ドント・トラスト・銀杏BOYZ』っていう、とんでもないタイトルの本を出したんだけどさ(笑)、これは僕主導ではなくて、編集者の人が勝手に作って勝手につけたタイトル。もちろん、その人を信頼しているからそれで良いってことにしたんだけど、この本の中で「サポートメンバーが選んだ峯田和伸の名言」っていうコーナーがあってね。自分ではすっかり忘れてる言葉ばっかりなんだけど、読んでみたら意外と面白かった。

その中の一つにサポートメンバーが選んでくれた僕の名言に「俺は昔、天才だったかもしれないけど、いろいろ経験して天才ではなくなってしまった」っていうのがあってさ。「そんなこと俺言ったっけ?」とか思ったけど、でも、サポートメンバーがピックアップしてるから、おそらく実際に言ったことなんだと思う。

これを言い換えると、「大人になったからって、大した人間になっているわけじゃない。それに、大人になったことで、大事なものはどんどん失っているかもしれないよ」「だから浮かれていてはダメだ」っていうことです。これはいつも本当に考えていることです。

よくさ、何も知らないし経験もない子どものことをバカにする人がいるでしょ。「お前は何も知らないな」っつって。確かに大人のほうが経験とか知識とかは多いよね。単純に生きている時間が長いわけだし。

でもさ、そんなことでいい気になっていると、簡単に子どもに足元をすくわれることもあるだろうし、何よりも経験とか知識そのものが足かせになって、純粋な思いみたいなことはどんどん減っているように思うんだ。

またさ、子どもは経験とか知識がない分、何かに触れたときにすごい吸収力を発揮するじゃん。足そうと思えばどんどん足していける。

でも、あるときに大人になっちゃうと、この足し算っていうのが成立しなくなっちゃって、足せば足すほど失っていくもののほうが多くなる気がする。色んな知識を得れば得るほど、事前にやらなくてもわかることが増えるけど、でも、わからないからこそ自分で純粋に取り組んでみるって実は一番強いでしょ。そういう純粋力みたいなことって、大人になればなるほど失っていくと思うんだよね。

わかりやすい例がうちの江口くん(マネージャー)ね。かつての江口くんはひたすら純粋な人だったんだ。部屋に遊びに行けば、モハメド・アリとか『レザボア・ドッグス』のポスターが貼ってあってさ、見るからにバカっぽいんだけど、でも、それは江口くんの純粋な気持ちじゃん。そのポスターを見て僕らは口ではアレコレ言うよ。「やっぱり江口くんのセンスだねー」とかさ(笑)。

でも、心の底から江口くんのことをバカにしたら、逆にこっちがその時点で負けみたいなところがあるんですよ。江口くんには好きなものに対するまっすぐな気持ちがあって、それって実は一番強いんだ。知識とか情報によって「峯田さん、これが今のオススメです」っていう勧められ方より、江口くんみたいな人が「マジで感動するから。絶対これオススメ! 峯田くんに絶対観て欲しい」っていうものほうが説得力があるじゃん。だから、江口くんの純粋力みたいなものを僕は信じていたし、大好きだったんだけど、これが変わってしまってね……。

江口くんも40歳を越えて、だんだん知識や経験を得て、結婚もして、最近はちょっと賢くなってきちゃってるんですよ。

江口くんは去年結婚するにあたって引っ越ししたんだけど、そのときに僕は聞いたんです。「あのモハメド・アリのポスターはどうした?」って。そしたら江口くん、「あれ? 引っ越しのタイミングで処分しちゃいました」だって。

つまり、これが大人になるってことなんですね。大人になると、あれだけ好きだったモハメド・アリなんてどうだって良くなってしまうんだろうし、もうそんなもん失っても一向に構わないっていうね。

これは悲しいし、嘆かわしいでしょう。いつまでも昔みたいにさ、江口くんにはジャン・レノになったつもりで丸眼鏡のサングラスをかけていて欲しいし、江口くんが好きだったビリー・ジョエルとかスティングとかを聴いて、自分自身をアーバンな曲たちに投影し続けて欲しいんだよ、僕は。でも、大人になったからモハメド・アリのポスターだって、スティングのCDだって全部捨てちゃう……なんか寂しいよ、江口くん。

これこそが大人になったことで、失ってしまうことがあるってことだからね。変に抗わず僕も諦めてるんだけど、ただどうしても許せないこともあって。

江口くんはいつも僕に「いや、この前もらった仕事の依頼は峯田くんらしくないから断ろうと思ってます。峯田くんは峯田くんのままでいて欲しいから」みたいなことをいつも言うわけですよ。

僕は江口くんに一番の信頼を寄せてるから、言うことは僕もちゃんと聞くよ。でもさ、逆に僕が「ジャン・レノの丸眼鏡のサングラスかけたほうがいいよ」って言ったら「いやいや、それはないでしょう」って絶対断ってくるからね。なんかさ、最近の江口くんって、『あしたのジョー』に喩えるとさ、僕が矢吹丈で、江口くんは丹下段平みたいな名脇役をやりたい感じなんだよ(笑)。

だとしたら、それは別にいいよ。でもさ、だからこそジャン・レノの丸眼鏡のサングラスをかけてたほうが絶対いいのにね。これは絶対に断ってくるの。こっちも江口くんを200パー信用してるんだから、僕のことも200パー信用して欲しいよ、マジで。

江口くんがかつて大事にしていた犬のぬいぐるみ。これも捨てちゃったそうです。

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


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