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Mr.Children、26年間の歩みで導かれた一つの答え 全曲詩集『Your Song』から紐解く

リアルサウンド

18/10/26(金) 16:00

 〈僕が歌詞を書くのは、誰かにとっての「歌」になりたいから。〉

(関連:Mr.Children、フジファブリック、yonige……大きな壁を乗り越え、傑作をモノにしたバンドの新作

 Mr.Childrenがデビューから最新アルバム『重力と呼吸』までの26年間に発表してきた歌詞をまとめた全曲詩集『Your Song』のまえがきで、桜井和寿はそう記している。だが、バンドの詞の大部分を書いてきた彼のまえがきは、冒頭に引用した結論に至る道筋を理路整然と説明しているわけではない。歌詞に対する考えを語ろうとして、話はあっちへ行ったり、こっちへ行ったり。そうしたまとまりのなさをあえて直さないまま本に残し、ふと思い当たったように答えを書きとめているのだ。〈あなたが主役の、あなたの「歌」になりたい。〉と。

 とはいえ、道筋が整っておらず、行ったり来たり思い惑うところはマイナスにならず、Mr.Childrenの、というか作詞家桜井和寿の言葉にむしろ力を与えてきた。だからこそ、思い惑う〈あなた〉たちの歌にもなって、彼らはモンスターバンドに成長したのだろう。ここでは、年代順で本に収録された詞の数々をふり返ってみよう。

 Mr.Childrenのデビューミニアルバム『EVERYTHING』(1992年)が、〈途切れた受話器ごしの声 最後の言葉を探して〉の一節がある「ロード・アイ・ミス・ユー」から始まっていたのは、今読むと趣深い。言い淀んで簡単には言葉にならない感情を歌にしたことが、桜井のスタート地点だったわけだ。また、『EVERYTHING』は、子供時代を回想する「CHILDREN’S WORLD」で締めくくられていた。Mr.Childrenーー“子供”という言葉を含む名を持つこのバンドは、子供の頃と大人になった今を比べ、自分の立ち位置を確認するような曲を以後も時おり発表していく。北極星を見て方角を確かめるのに似て、子供時代との違いを意識しつつ人生を歩むのである。例えば、〈世間知らずだった少年時代から〉と始まる「Everything(It’s you)」(『BOLERO』1997年)や、〈「ガキじゃあるまいし」〉と自省する「終わりなき旅」(『DISCOVERY』1999年)のように。

 初期のMr.Childrenは、君と僕のなかなかうまくいかない恋を扱った曲が多く、歌詞らしい歌詞を書こうとする意識が強かったようにみえる。それが大きく変貌したのは、サウンド面での新機軸も目立った『Atomic Heart』(1994年)からだろう。「Dance Dance Dance」で世界、正義、未来、「ジェラシー」で宇宙、人類、地球、「ASIA」でアジアなど、大きなテーマを題材にし始めた。一方、「innocent world」、「クラスメイト」では仕事に追われる人々が登場する。恋愛ばかりではなく社会にも目を向け始めたが、大問題だけを扱うのではなく、等身大の生活感もある。そういう大人のバンドに脱皮した。このアルバム以後、桜井の詞は制約がなくなったかのごとく、どんどん自由さを増す。

 『深海』(1996年)になると、「シーラカンス」で海底に暮らす魚に思いを馳せ、「マシンガンをぶっ放せ」なんて物騒なタイトルで核実験の続く時代を憂う。「ありふれたLove Story ~男女問題はいつも面倒だ~」では、サブタイトルの通りユーモラスなところもみせる。「花 -Mémento-Mori-」で〈人生観は様々〉と歌っているが、様々な視点、様々な語調で作詞するようになる。

 社会問題への関心が強まったり、身近な題材の比重が大きくなったり、時期ごとに詞の傾向は移り変わっている。「いつでも微笑みを」(『IT’S A WONDERFUL WORLD』2002年)では〈悲劇の真ん中じゃ その歌は/意味をなくしてしまうかなぁ〉と歌の無力さについて触れ、「Any」(『シフクノオト』2004年)や「Wake me up!」(『HOME』2007年)では自分のことを時代のせいにする姿勢を指摘する。社会派として正義をふりかざすのではなく、迷いや甘さへの自覚も語るのだ。

 また、生真面目な恋愛に限らず、「LOVEはじめました」(『IT’S A WONDERFUL WORLD』)のおやじに買われて刺される少女の映画、「隔たり」(『I ♥ U』2005年)における0.05ミリの合成ゴムなど、ロマンチックではない性欲も描写する。

 『SUPERMARKET FANTASY』(2008年)というアルバムもあったが、Mr.Childrenはそれこそ雑多な商品が並ぶスーパーマーケットみたいに、歌でなんでも扱ってきたのだ。そして、同作には、〈言葉はなかった/メロディーすらなかった/リズムなんてどうでもよかった〉ところから音楽がわき上がっていく過程を歌った「声」が収録されていた。様々な題材を詞にしてきた桜井は、小器用にそうしているのではなく、なかなか言葉を発せられないもどかしさの地点へと、たびたび戻っている。「NOT FOUND」(『Q』2000年)の〈歌や詩になれない この感情と苦悩〉、「ポケット カスタネット」(『HOME』)の〈声になる前の優しい言葉〉などがそうだ。

 また、自分が何を言うかだけではなく、逆に相手に「言わせてみてぇもんだ」(『シフクノオト』)と歌ったり、「あんまり覚えてないや」(『HOME』)と曖昧に口にするなど、言葉をめぐっていろいろな態度を示してきた。プロの作詞家として多様な題材を多様に語る芸がありつつ、限られたことを主張するのではなく、考え悩み、時にはふざける姿をさらしてきた。硬軟をあわせもった普通の感覚だ。一つのところにとどまらないそんな歩みかたが、思い惑い、時にはいい加減になる普通の人々から広く共感を得てきたのだろう。

 最新作『重力と呼吸』の「皮膚呼吸」では〈自分探しに夢中でいられるような 子供じゃない〉と今の〈僕〉を歌っている。しかし、「海にて、心は裸になりたがる」なんて曲が収録されているくらいで、まだ落ち着いたわけではない。そして、かつての「名もなき詩」(『深海』)が〈いつまでも君に捧ぐ〉と締められていたのに対し、『重力と呼吸』の1曲目で全詩集の書名にもなっている「Your Song」では〈また時には同じ歌を口ずさんでたりして〉〈そう君じゃなきゃ/君じゃなきゃ〉と歌っている。こうしてMr.Childrenの曲は〈誰かにとっての「歌」〉になり、〈あなたが主役の、あなたの「歌」〉になろうとしている。(円堂都司昭)

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