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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

ハリソン・フォード

連載

第49回

── コロナ禍になって、頻繁に行われるようになった大ヒット作の4K版のリバイバル上映。『レイダース/失われたアーク<聖櫃>』(81)も4DXで公開されますので、今回はインディ・ジョーンズことハリソン・フォードで行ってみましょう! ハリソンさんは、わりと気難しい方だと聞いたことがありますが。

渡辺 私が初めてインタビューしたのは、彼がアメリカ大統領を演じた『エアフォース・ワン』(97)。インタビューの前に“ハリソン・フォードのNG質問”みたいな紙を渡されたのは印象的でしたね。NG質問というのは結構あるんですが、そのほとんどは口頭で「私生活のことはダメよ」と言われるくらいなんですけど、彼の場合、紙に印刷しないといけないくらいたくさんあったわけです。うろ覚えですが、7つくらいあったんじゃないかなあ。

── それは多いですよね?

渡辺 多いと思いますよ。覚えているのは『スター・ウォーズ』(77~)について、耳のピアスについて、私生活について……くらいですけど。

当時のハリソンさんは、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。ハン・ソロ役で大ブレイクし『インディ・ジョーンズ』シリーズ(81~)でハリウッドのトップの座に就いた。『パトリオット・ゲーム』(92)でジャック・ライアンを演じ、ハン・ソロ、インディ、ジャック・ライアンと映画界の人気キャラクターを独り占め状態でしたからね。だから「『スター・ウォーズ』のことなんて、もう喋りたくねえよ」という感じだったのかも。

それに彼は、映画製作をビジネスと割りきっているので、インタビューに愛想がないと言われてましたね。

『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(89)でインディシリーズがひと段落ついてからの90年代は、毎年のようにアクションからドラマまで幅広く話題作に出演していたハリソン。1997年の『エアフォース・ワン』では、専用機をテロリストに乗っ取られた合衆国大統領役で孤軍奮闘。

── そんな感じでしたか?

渡辺 思っていたほど不愛想じゃなかったです(笑)。でも、「あなたはヒーローというイメージが強いと思うんですが、自分ではどうです?」みたいなことを尋ねてみたら、「そういう固定概念があっても、私はどうでもいいんだ。ヒーローというのは象徴的なもので、そのキャラクターがヒーローなのかは観客が決めることだ。映画の主人公というのは概ね、困難に立ち向かって克服するものだよ。そういう者をヒーローと呼ぶのは外部の人間で、私はそう考えて演じたことは一度もないね」

まあ、事実なんですが、身も蓋もない感じで(笑)。

── ですねー(笑)。

渡辺 『ハリウッド的殺人事件』(03)というロスを舞台にした刑事のバディものでは、珍しくコメディに挑んでいるんです。監督は私の大好きなロン・シェルトンなんですが、これがコケちゃって以来、ちょっと元気がない。

まあ、それはさておき、ハリソンさんの相棒刑事を演じているのは当時、注目されていた若手のジョシュ・ハートネットでした。彼は、とても正直な人で、ハリソンとの共演についてこう話していたんです。

「彼は僕にとって憧れの存在だった。だってハン・ソロでありインディなんだからね! でも、実際の彼は違っていた。撮影前に会ったときは自己紹介した後ほとんど喋らなかったし、撮影が始まると嫌味を言われ続けた。僕の髪型について“刑事はそんな髪型はしない”とか、本当にいろいろ。アタマに来て“じゃあ、表に出て話しましょうか?”って凄んだくらいでさ」

── それはちょっと……。

渡辺 普通、そういうことがあっても「彼は寡黙で、近寄りがたい存在だったけど、何か尋ねたときはちゃんと答えてくれるんだ」とかいってごまかすんだろうけど、ジョシュくんは相当たまっていたのかストレートに言ってましたね。

「大先輩の彼から何か学びましたか?」なんていう問いにも、「知恵を授けてくれるようなタイプじゃないし、そういう関係性は嫌いなんだよ、たぶん」ですからね。

『ハリウッド的殺人事件』の共演者、ジョシュ・ハートネットとは一触即発!? これは2003年のMTVムービーアワードにプレゼンターとして登壇したときのふたりでもちろんおどけてるんですが、ウラ側のエピソードを聞くと不穏な緊張感を感じないでもない……。

── じゃあ、反対にハリソンのジョシュ評はどうだったんです?

渡辺 「彼は熱心でいい役者だ。自分のキャリアについてもいろいろと考えているし、自分なりの考えも持っている。彼との相性は良かったので、一緒に仕事していて楽しかったよ」でしたね。

── まるで違いますね!

渡辺 そうなんです。ハリソンはビジネス的にいい感じで答えたのかもしれないし、彼自身では本当にそう感じていたのかもしれない。少なくとも、バディものなので、ハリソンのように「相性は良かった」と答えるのが得策なのかもしれませんね。ジョシュはこの後、あまり作品に恵まれなかったのは、こういうストレートな言葉のせいかもしれないし。

クリスチャン・ベールも割とストレートなんですが、彼の場合は実力があるので、何を言っても許されるところはありますからね。

── そうですね……というかお題はハリソンさんですよ!

渡辺 はいはい。『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(08)のときはフレンドリーでした。インディというキャラクターは彼も大好きなようで「いつも、もう一度インディが演じられたらいいなあと思っていたから、とても嬉しいんだ」というわけです。

そして、「ファンにとって彼がスペシャルなように、私にとってもスペシャルなキャラクター。他のキャラとは比べられない。彼の内面は複雑だから、役者としても演じがいがある」「別に過去の作品を観直したりはしなかった。なぜなら、必要がないから。私はインディになろうと思えばすぐになれるんだよ」。

『レイダース…』で初めてインディを演じたときの年齢は30代終わり頃。『…クリスタル・スカルの王国』で4度目のインディ役に挑んだのは65歳を越えてから。5度目のインディはどうなる!?

インディ大好きな気持ちがさく裂してましたね。そうなるとハン・ソロが気になるでしょ?

── はい、ハン・ソロについてはどう言っているんですか?

渡辺 「ハン・ソロはちょっとばかりアホっぽいと思っている。軽いんだよ、アイツは。自分自身を見つめないし、分かってないんだ。たとえノー天気なスペースカウボーイであっても、少しは自分を見つめ直すべきなんだ」って。

ちなみに、このときは“ダメな質問”もなかったし、ハン・ソロについては自分から進んで話し始めました。

── そう言いつつ、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)ではハン・ソロをやってましたね。

渡辺 このときはインタビューしていないんですが、いろんな記事を読むと「ハン・ソロを演じることにワクワクしている」とか「ハン・ソロは自分のキャリアにとって、とても重要なキャラクターだ」みたいなことを言ってますよね。歳を取って柔軟になったのか、それとも仕事が少なくなったこともあって過去の遺産を大切にしようと思うようになったのか。どちらにしてもいいことです。

ハン・ソロについては若干ツンデレ感のあるハリソン。近年は『…フォースの覚醒』で再演したり、2019年にはディズニーランドのスター・ウォーズアトラクションのイベントにも登壇したり(写真)と、“デレ”の方が目立つ様子。写真は左から、ジョージ・ルーカス、ランド役ビリー・ディー・ウィリアムス、ルーク役マーク・ハミル、ディズニートップのボブ・アイガー、そしてハリソン。

── “遺産”があるだけでもいいですよね。彼の場合、それがふたつもあるわけだし。

渡辺 そうなんですよね。ハン・ソロは一応、終わったかもしれないですが、インディはまだ続いていて2022年の夏公開予定になっている。監督がスピルバーグから『フォードVSフェラーリ』(19)などのジェームズ・マンゴールドにバトンタッチされて、再びハリソンさんがインディを演じるわけです。ただ、今年でもう79歳なのでアクションは難しそうだから、前作のときのシャイア・ラブーフのように若い役者を立てるんでしょうけどね。まだ、そのキャスティングは発表されていません。

── それはそれで楽しみですよね。

渡辺 はい。じゃあ最後に『カウボーイ&エイリアン』(11)のときに言っていた「キャリアにおける最大のビジネス的な決断は?」という問いの答えが面白かったので紹介します。

「『アメリカン・グラフィティ』(73)に出たことかな。私はあの映画に出たくなかったのに、出てくれと何度も電話がかかってきた。それで私は“じゃあいくらくれるんだ?”って聞いたんだよ。すると彼らは“週給485ドル”だという。私はこう言ってやった。“週給485ドルなんて、冗談だろ? 私は大工だ。その賃金は週給800ドルになる。その値段じゃあ受けられない”ってね。

すると1時間後くらいしてからまた電話があった。今度はジョージ(・ルーカス)のプロデューサーのフレッド(・ルース)で、彼は“全体的に予算を見直したら、君にもっと払えそうになった”って。“じゃあ、いくらなんだ?”と言うと“週500ドルだ!”と言い放った。で、私は“やる!”と答えたんだ。これは私のキャリアの中でも最高の決断だった」

無名俳優としての自分に限界を感じたのか、大工の仕事を本職としていたハリソン。その大工仕事を通じて出演することになった『アメリカン・グラフィティ』で、ジョージ・ルーカスやプロデューサーだったフランシス・フォード・コッポラとも知り合うことに。

── それは笑えますね。

渡辺 そうなんです。『アメグラ』があったからこそジョージ・ルーカスに出会い、スピルバーグと仕事をしたんですから、確かにハリソンさんにとっては大英断ですよ。

歳を取って丸くなり、こういうジョークというか楽しい話をしてくれるようになった。素敵なじいちゃんになったってことですね(笑)。

※次回は3/9(火)に掲載予定です。

文:渡辺麻紀
TM & Copyright(C)Lucasfilm Ltd.All Rights Reserved.
Photo:AFLO

『レイダース 失われたアーク《聖櫃》〈4Kリマスター版〉』

3月12日(金)より公開