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在りし日の歌

20/3/31(火)

『北京の自転車』のワン・シャオシュアイ監督が1980年代から2000年代の激動の中国を背景に、喜びと悲しみを繰り返しながらも共に手を携えて生きていく夫婦を感動的に映し出す作品です。 中国の地方都市で国有企業の工場に勤めるヤオジュンとリーユン夫婦は幸せに暮らしていましたが、ひとり息子のシンシンを事故で亡くしてしまいます。悲しみに暮れるふたりは故郷を捨て、親しかった友人とも距離を置き、誰も自分たちのことを知らない町へ移り住みます。養子を迎え死んだ息子と同じ名を付けたシンシンが16歳になったとき父親と諍いを起こし家を飛び出してしまいます。 30年という長い年月を描くために監督はフラッシュバックの手法を使います。おそらく展開が平板にならないように、また登場人物の悲喜こもごもの感情をより深く味わってほしいという狙いからでしょう。 ご存じのように中国は国の政策が変わるごとに国民は大きな混乱に巻き込まれます。80年に始まった「一人っ子政策」は国の隅々にまで及び、第二子を身ごもったリーユンは家族ぐるみで付き合いがあり計画出産委員会副主任でもあったハイイエンに強制的に妊娠中絶手術を受けさせられ、手術ミスのため子を産めない体になってしまうのです。 不幸は重なります。リーユン夫妻は皮肉にも計画生育の優秀賞で表彰され模範工員となり、後年これがあだとなって経済改革の波が押し寄せたとき、真っ先に「一時帰休」(リストラ)の対象者にもなってしまうのです。個人ではどうにも抗うことができない不条理が映し出されます。 テーマ的には国の政策を批判する告発調のドラマになってもおかしくはありませんが、作品は批判より夫婦が困難を耐え忍び情愛を深めていくという感傷的なドラマに傾いていきます。なので泣かせどころは満載。夫のヤオジュンには「俺とリーユンはお互いのために生きている」「これも俺の運命」とつぶやかせ、リーユンには「私と離婚したいなら応じる」というセリフも出てきます。 党へのあからさまな批判を避け、それでも人間のやることだから誤りはあると一定の理性を働かせ、最後に人間の尊厳への敬意を表しているところが救いでもあり、監督のうまさということなのでしょう。 『薄氷の殺人』『オルドス警察日記』のワン・ジンチュンと『黒衣の刺客』のヨン・メイを主演に迎え、第69回ベルリン国際映画祭で最優秀男優賞と最優秀女優賞のダブル受賞に輝きました。いや本当の夫婦のように互いに気遣う姿からはいつまでも余韻が伝わってきます。

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