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『ミュージックステーション』がYouTube企画を始動 「Spotlight」は音楽番組の転機なるか

リアルサウンド

21/2/20(土) 12:00

 「ライブ感」を売りにリニューアルした2019年秋からほどなくしてコロナ禍に直面し、新コンセプトの転換を迫られた2020年の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系/以下『Mステ』)。リモートでのアーティスト出演に活路を見出しつつ何とか番組を継続させた1年を経て、2021年から新たに立ち上げた企画がYouTubeコンテンツの「Spotlight」である。

須田景凪 / veil -Spotlight-

 「Spotlight」はテレビ朝日「未来をここからプロジェクト」の一環としての取り組みで、「未来を音楽から!」をテーマに次世代アーティストのパフォーマンスを紹介するというもの。現時点では須田景凪、Tempalay、eillのライブ映像、およびそれぞれのキャリアを掘り下げた数分間の動画が公開されている。

Tempalay / 大東京万博 -Spotlight-

 本稿ではこの「Spotlight」の存在意義とポテンシャルについて掘り下げる。論を進めるにあたって、現状の『Mステ』や音楽関連コンテンツを取り巻く環境に関して3つの視点から理解を深めておきたい。

 まず確認しておくべきこととして、2021年に入って『Mステ』の内容が「サブスクシフト」とも言うべき展開を見せていることが挙げられる。1月22日の放送ではSpotifyのバイラルチャートが「今バズっている曲ランキング」として大々的に取り上げられ、その日の出演アーティストにも瑛人、YOASOBI、川崎鷹也などバイラルチャートで結果を残すことで大きく知名度を高めた面々が名を連ねた。2月に入っても12日の放送には優里が出演し、19日にはりりあ。、ひらめ、さらにはyamaの出演が予定されているなど、そういった傾向が定着しつつある。「TikTok→ストリーミングサービス」という形でヒット曲が生まれるようになった流れが日本の最も伝統的な歌番組にオーソライズされた、と言えるだろう。

 次に、『Mステ』と同じくテレビ朝日で放送されている『関ジャム 完全燃SHOW』(以下「関ジャム」)の動向にも着目する必要がある。様々な形で音楽の楽しさを紹介する姿勢が支持されてきた同番組だが、年初の「プロが選ぶ年間ベスト10」は2週にわたる放送で大きな話題を呼んだ。いしわたり淳治、蔦谷好位置のレギュラー解説陣と並んで今回は川谷絵音も選者に加わり、ROTH BART BARONや藤井風、さとうもかといった地上波での露出とは必ずしも距離が近くなかった面々が取り上げられてSNSでの盛り上がりが生まれる–という一連のプロセスは、「“マス向け”ではない音楽も紹介の仕方次第では広く伝わる」ことを示している。

 最後に忘れてはならないのが、2020年の音楽業界における大きなトピックとなった『THE FIRST TAKE』である。2021年に入っても橋本愛「木綿のハンカチーフ」など引き続きフレッシュな話題を振りまいているこのYouTubeチャンネルは、「YouTubeでもプロクオリティの音楽コンテンツには需要がある」ということを雄弁に表している。今年も意外性のあるキャスティングや一発撮りの緊張感などといった強みを通じてよりそのポジションを確固たるものにしていくはずである。

橋本愛 – 木綿のハンカチーフ / THE FIRST TAKE

 『Mステ』本体のシフトチェンジ、『関ジャム』への評価、そして『THE FIRST TAKE』の定着。こういった動きを踏まえると、「Spotlight」は非常に「筋の通った」企画であるということが見えてくる。

 番組のスタジオを使いながら本格的なカメラワークでライブを届ける「Spotlight」はまさに「テレビクオリティ」のコンテンツであり、「THE FIRST TAKE以降」とでも言うべき作り込まれた内容になっている。本放送がストリーミングサービスの動きに敏感になっている中で、自身もデジタルメディアにチャネルを持つというのも時代の大きな流れに沿った戦略になっていると言える。

 また、「サブスクシフト」とは言ったものの、2021年の『Mステ』においても「カバー曲特集」など過去の有名曲を起点とした特集で間を持たせる悪癖はいまだに残っている。そういったなかでも次代の才能をピックアップするためには、本放送から切り出す形でニューフェイスの紹介に特化した場を作る必要があった、という側面もこの「Spotlight」にはあると思われる。ただ、総論として、『Mステ』が自らのブランドをウェブにも拡張しつつ新しいアーティストをフックアップしようという気概を示しているのは、シーン全体に好影響を及ぼすはずである。

 一方で、コンセプトとしては理に適った取り組みになっている「Spotlight」だが、現状ではそこから大きなうねりが生まれているとは言い難い現状もある。まだ2アーティストしか登場していないタイミングでの評価は時期尚早ではあるものの、「バズ」「拡散」といった観点でいえば十分な成果を残すには至っていない。出演者でもっとパンチを効かせるのか、『THE FIRST TAKE』のようなわかりやすいテーマ性を持たせるのか、といった課題が早晩顕在化する可能性もある。『Mステ』としてYouTubeでのプレゼンスをどれだけ期待するか(=結局テレビに集中するのか)、といった大きな観点からの判断が求められるタイミングも訪れるだろう。

 マクロな潮流を捉えた取り組みとしての側面を持ちながら、その影響力はいまだ未知数な「Spotlight」。『Mステ』が、もしくは日本の音楽番組がデジタルと向き合うきっかけとなるのか、それとも一時の酔狂で終わってしまうのか、引き続きその動向に注目していきたい。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題になり、2013年春から外部媒体への寄稿を開始。2017年12月に初の単著『夏フェス革命 -音楽が変わる、社会が変わる-』を上梓。Twitter(@regista13:https://twitter.com/regista13)

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