Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

榮倉奈々が母娘を救うために見出した決断 『99.9 特別編』第3夜は奥深い人間ドラマに

リアルサウンド

20/6/15(月) 6:00

 『99.9-刑事専門弁護士- SEASONⅠ特別編』(TBS系)第3夜の主役は、榮倉奈々演じる立花彩乃。立花は主任弁護士として、勤務先の金庫から1000万円を盗んだ吉田果歩(山下リオ)の事件を担当する。

参考:『M』『99.9』『逃げ恥』『アシガール』 ドラマ放送延期に対応する、各局の+αの試みを振り返る

 有罪率99.9%の分厚い壁に挑む刑事専門ルームの3人では、ここまで深山(松本潤)と佐田(香川照之)の陰に隠れていた印象があった立花。「いくら調味料が良くても、素材が良くなきゃ美味しくなりませんよ」という深山の言葉もあったが、単なる添え物でも調味料でもない立花の弁護士としての手腕を再確認するエピソードとなった。

 果歩の弁護を依頼したのは、母親の宮崎冴子(麻生祐未)。冴子は末期の膵臓癌に冒される中で、幼い頃に別れた果歩のために私選弁護人を依頼する。しかし、冴子からの依頼と聞いた果歩は弁護を断ろうとする。第3夜では無罪を証明する法廷劇をベースに、母娘の思いが交錯する家族のドラマが全面に出ていた。

 第3夜で物語の鍵を握ったのが「依頼人の利益」というキーワード。余命わずかな母に会うため罪を認めると話す依頼人を前に、立花は弁護士として果たすべき使命の板挟みになって悩む。立花の迷いを察したように深山は「主任はどうしたいんですか」と尋ねる。

 また、所長の班目(岸部一徳)は、依頼人の希望に従うことが必ずしも良い結果を生むわけではないと前置きした上で、「決まった答えはないんじゃないかな。でも、弁護人はそれが何かを判断しなきゃならない。それができるのは吉田さんと向き合っている君だけだ。判断しなさい。君は弁護士だ」と語る。班目の言葉は法律家としてよって立つところを示すものであり、立花は果歩と冴子のために法廷に立つ決意をする。

 立花が見出したスタンスは、依頼人の要望に応じて割り切る佐田とも、とことん真実を追求する深山とも異なるものだ。依頼人とは異なる立場から依頼人のために全力を尽くすという姿勢は、3人の中でもっとも一般的な感覚を持ち、依頼人に寄り添うことのできる立花だからこそ持ちうるものだった。「私はあなたの弁護人です。でも、あなたの苦しみは私にはわかりません」と果歩に話す立花の言葉からは、依頼人の人生を背負う覚悟が伝わってきた。

 事件のほうは真犯人が明らかになり、ギリギリの勝負に出た立花の決断が逆転劇を呼び込む。真実は一つしかなく、真実に到達することは解決の大きな力になるが、法を適用すれば常に同じ結論になるわけではなく、法を駆使して互いの主張を戦わせる駆け引きが裁判の本質であることを雄弁に物語っていた。犯人につながる情報を提供した佐田のアシストや深山のひらめきなどチームワークで勝ち取った無罪であり、その中心にいたのが立花だった。

 見事な勝利を収めた刑事専門ルームの3人だが、現実社会で弁護士は陰の主役というポジションにとどまる。真の主役はそれぞれの人生を生きる依頼人や被害者だ。複雑な背景を持つ果歩を演じた山下リオと病床の冴子役の麻生祐未による渾身の演技は役を生き切ったという言葉がふさわしい。弁護士や検事が主人公の法廷ものでは、「素材」となる人間ドラマが真に迫っているからこそ「調味料」の法廷劇も引き立つ。単なるヒーローものとは一味違う『99.9』の奥深さを感じさせる回だった。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む