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二兎社『鴎外の怪談』主演・松尾貴史×永井愛(作・演出)インタビュー

ぴあ

左から、二兎社『鴎外の怪談』鴎外役の松尾貴史、二兎社主宰・永井愛 撮影:川野結李歌

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2014年に初演された『鴎外の怪談』は、文豪として、陸軍軍医総監として、さらには父親として、森鴎外という歴史上の人物を多面的に描き、芸術選奨文部科学大臣賞などを受賞した、永井愛の代表作のひとつだ。この名作を二兎社四十周年記念公演として再演。そこで永井と、二兎社への参加は二度目で、今回新たに鴎外役を担う松尾貴史に話を訊いた。

「鴎外さん、こんにちは」と思えた瞬間

――7年前の初演時の手応えはいかがでしたか?

永井 またまた私のホンが遅れて(苦笑)、役者さんもスタッフさんも、それこそ死にそうになりながら初日を迎えたと思います。ただ幕が開いてみると思ったよりも手応えがあったというか、鴎外なんて知らないよ、という人が多いかと思っていたら、人間ドラマとして普遍的なものがあるんだとたくさんの方が興味を持ってくださった。それがとても嬉しかったですね。

――今回松尾さんを鴎外役にキャスティングされた経緯は?

永井 私はまったく思いつかなかったんです。でも制作の安藤から「松尾さんの鴎外ってどうですか?」と言われた瞬間、おお! おおおお! …アリだね、と(笑)。これはグッドアイデアだと思って、すぐに乗りました。

――松尾さんはすでに『ザ・空気 ver.2 誰も書いてはならぬ』(2018)で二兎社に参加されていますが、永井さんとのもの作りの面白さとは?

松尾 あの時は新作だったので、毎日2ページずつくらい台本が上がってきたんですよね。

永井 …連載なので(笑)。

松尾 はい、連載ですよね(笑)。それに日々ワクワクする感じと、あとどうしてその気持ち、その表現になるのかを、ちゃんと自分の内側から作り上げていく。そこが記号的になってしまうと、お客さんを説得することは出来ませんから。そういうプロセスを教えていただいたと思いますし、改めて今回の稽古場でも、そうだ、こうだったと逐一思い知らされている感じです。

――森鴎外を主人公にした作品を執筆される上では、特にどんなことを意識されていたのでしょうか?

永井 それまではやはり偉大な文豪といったイメージで、正直、鴎外のことをよく知らなかったんです。実際は文学者として国が言論や思想を取り締まることに対して物申す立場であった一方、国の命令に絶対服従する軍職者でもあった。そのふたつを鴎外は両立させていたわけですよね。しかも大逆事件の時には、相当不思議なことをしていて……。で、ここならば私も鴎外を描くことが出来るかもしれないと。それからですね、「鴎外さん、こんにちは」って思えるようになったのは(笑)。

今の時代にもリンクしていることがとても多い

――これまでの鴎外に対するイメージと、本作を読まれてみての印象は?

松尾 鴎外ってファクトとイメージで遊ぶ表現というのを併せ持っていた人で、そう捉えると進んで親近感を持ちたいと思うような存在です。そんな両方の視点からものが見られる主人公が、自らの立場から葛藤し、苦しんでいる姿がとてもドラマチックに描かれている。でもそれって、実は今の時代にもリンクしていることがとても多いんですよね。

――初演から7年を経て、さらに今の社会に響く作品になったように思います。

永井 本当にそうですね。初演のころは特定秘密保護法が成立、施行されたり、安保法案に関してはデモも盛んになりましたよね。

松尾 そのあとには共謀罪もありましたし。そして今も、インターネットで情報を操作するために公金が使われたのでは?なんて疑惑も出てきていますから。

永井 鴎外が大逆事件の秘密裁判の時に感じていたであろう危機感と、今の状況がすごく重なるんですよね。

松尾 だから劇中に出てくる名前や現象は具体的ですが、イマジネーションを働かせることで、お客さんは何倍にも楽しめるし、考えさせられるような世界になっていると思います。

――役として鴎外を立ち上げていくに当たっては、どんなことを手がかりにされているのですか?

松尾 僕自身にはあまり重みがないのでね(笑)。それをどう作ろうかと悩んでいたんですが、原田芳雄さんと桂米朝さんの間ぐらいがいいかなと。

永井 なるほどね!

松尾 重いし、知的だし、貫禄があるし、どっちの意見も取り入れていた人。もちろんおふたりのものまねをするわけではないですが、イメージをしながら振る舞うとか、そういうことで鴎外に近づけるのではないかと。……まぁそこまでには全然至ってないのですが(苦笑)。

永井 でも具体性があった方がいいと思いますよ。松尾さんって体で掴んでいく方だと思うので、その方法はとても有効じゃないかと思います。

役者が演じるからこそ見えてくるもの

――共演者の方々も個性豊かなメンバーがそろいましたね。

永井 面白いキャスティングですよね(笑)。

松尾 7人の人間を集めて、よくこれだけ似てない人がそろったなと(笑)。賀古鶴所(かこつるど)役の(池田)成志さんとは、ふたりで言い合いをする結構長丁場なシーンがあるのですが、そこがどうなっていくのか……。まぁ不安でもあり、楽しみでもありますね。

永井 たぶん一番苦しんだところが、一番楽しいシーンになると思いますよ。

――このカンパニーならではの『鴎外の怪談』は、どういった色合いの作品になっていきそうですか?

永井 変わるところと変わらないところがありますよね。台本も同じで、舞台装置もほぼ同じですから。それでもやっぱり、役者さんが発見することって私の思いもかけないことがあるんです。今日、永井荷風役の味方良介さんに「“奥さん”ってセリフを“奥さま”にしてもいいですか?」と聞かれて。確かに大先生の妻で、しかも彼女が怒っている時なので、なるほど、“奥さま”かと。それは、役者さんが役を深めたからこそ出てきたものだと思います。

――二兎社は今年四十周年を迎えましたが、今後の展望とは?

永井 もう恐ろしい年になってしまいました(笑)。五十周年はないだろうと思いつつ、あまり余計なことは考えないように、まずは目の前の作品に誠心誠意取り組んでいきたいと思います。



取材・文:野上瑠美子 撮影:川野結李歌

二兎社公演45『鴎外の怪談』

2021年11月12日(金)~2021年12月5日(日)
会場:東京芸術劇場シアターウエスト
ほか、地方公演あり

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